2018/03/15

『親子スマートドローン』で不審者を発見せよ! 無人の遊園地で行われた警備実験に密着

休園日の遊園地でスマートドローンを飛ばす?

青いダッフルコートに赤いハット。イギリス生まれのクマキャラ、パディントンが紹介しているここは「さがみ湖リゾート プレジャーフォレスト」である。

東京ドーム33個分、45万坪という広大な敷地に観覧車や、昨年デビューして話題になった超高層ジャングルジム的アトラクション「マッスルモンスター」などを有する「遊園地ゾーン」に、日帰りでもお泊りでも楽しめる「アウトドアゾーン」、天然温泉施設などが揃うリゾート型遊園地だ。

KDDI、セコム、日本のドローンメーカーであるテラドローンの3社は、さがみ湖プレジャーフォレストの広大な敷地を利用して「セキュリティ」をテーマにした「スマートドローン」の実証実験を行った。

従来のドローンは、コントローラを持つ操縦者がいて、Wi-Fi接続で、機体を目視しながら操っていた。というのも、Wi-Fiがつながる範囲はごく狭いから。それをLTEでつなげるのがスマートドローンというプラットフォームである。なお、LTEとは今現在の携帯電話をつないでいる電波の規格のこと。

  • ①遠隔制御(操作)
  • ②リアルタイム性
  • ③自律飛行

LTEを使うことで、Wi-Fiよりはるかに広い範囲で……要するに、ケータイがつながるエリアならば、ほぼどこからでもドローンを操れるようになる。

今回の「セキュリティ」をテーマにしたスマートドローンのプロジェクト、2017年度からスタートし、2019年度には商品化を目指す、3カ年にわたる大掛かりなもの。その初の実験なのである。

大まかに言うとスマートドローンで広大な園内を監視し、

  • ①不審火の発生を確認する
  • ②徘徊する不審者に警告する

という2つのシナリオを実践する。

今回は2機のドローンによる監視体制を採用。高高度から広い範囲を見る「俯瞰ドローン」と、低高度で詳細を監視していく「巡回ドローン」

自律飛行する複数のドローンを活用した遠隔警備は国内初となる。

こちらが運航管理室。ここからすべてを制御し、ドローン搭載のカメラ映像やセンサーのデータをリアルタイムに確認することもできる。

併せて、地形だけでなく詳細な高低差までデータ化した3次元マップを利用して、完全に自律飛行をすることができる。

「セキュリティ」をテーマに行われた実証実験

上の図の管制室でディスプレイが表しているのは、上段左が園内全図、右が地上の定点カメラ。下段左からゲートごとの入退場者数、オペレーターを挟んだ左右2つがスタッフのログイン状況など内部の事務的なデータ。で、もっとも大事なのが、オペレーターの影になっているディスプレイだ。

今回使用するドローンは「俯瞰」「巡回」各2組の計4機。それらが園内を巡回するコースが示されている。アップにしてみると……。

左が「遊園地ゾーン」で右が「アウトドアゾーン」。それぞれのゾーンを効率良く巡回監視するルートを事前に設定してあるのだ。左図でいうと青ルートが「俯瞰」、水色ルートが「巡回」。右図だと紫ルートが「俯瞰」、黄緑ルートが「巡回」である。この設定に従って、計4機のドローンは干渉しあうことなく完全自律飛行し、園内を監視する。これぞまさにスマートドローンならでは!

実際に監視する際には、同じ画面を各ドローン搭載のカメラ映像に切り替える。これは4機それぞれの離陸前の映像。各画面下に書かれている「Auto Mode」とは、自律飛行モードという意味だ。

手前/「巡回ドローン」 奥/「俯瞰ドローン」

こちらは「遊園地ゾーン」を監視するドローン2機。手前が「俯瞰ドローン」で奥が「巡回ドローン」。管制室からスイッチオンで、まず「俯瞰」が離陸。1分後に「巡回」が離陸。

左/「巡回ドローン」 右/「俯瞰ドローン」

右の小さく見えるほうが「俯瞰」、左が「巡回」。高度の違いがお分かりいただけるだろうか? 「俯瞰」は広い範囲を、「巡回」は細かく、あらかじめ設定されたルートを自律飛行。そのカメラを通じて管制室からオペレーターが監視する。そしてリアルタイムに届けられるカメラの映像から、怪しげななにかを見つければ……。

「巡回ドローン」を「Manual Mode」に切り替え、現場に急行させるのである。目視できない遠隔地だが、LTE接続のためマニュアル操作に切り替えて、運航管理室から操縦することができる。

リアルタイム性と遠隔操作、これらもまた、まさにスマートドローンならでは! なお、すべての操作はタブレットで行われる。

ちなみに、すでにこの画像には「怪しげななにか」が写っているのですが……答えは後ほど。

シナリオ①「不審火を発見&スタッフが現場に急行!」

高低差をつけて自律飛行する2機のドローンを利用して、広範囲を監視、随時手動操縦に切り替えて対象を確認する。実験したのは2つのシナリオだ。

まずはシナリオその①「不審火の確認」。

こちらは「アウトドアゾーン」を監視していた「俯瞰ドローン」からの映像。自律飛行のさなか、オペレーターが異変に気づく。なにやら画面がゆらゆらしている。

現場では一斗缶でなにかが燃えていたのだ!

「不審火発見! 赤外線カメラに切り替えます!」

白く光る部分が炎である。通常の映像を映す可視カメラでは、いまひとつはっきりしなかった不審火が、赤外線カメラだとこんなに明らかに。

マップ上で現場を特定し、ドローンが到着して詳細を確認。その後スタッフが急行して消火にあたるというわけである。これにて一件落着。

シナリオ②「不審者を発見&警告!」

「俯瞰ドローン」と「巡回ドローン」は、巡回監視における役割に加え、装備も差別化している。

これは「俯瞰ドローン」。

脚部にはズームできるカメラを搭載。先ほどの不審火は上空から発見したものを望遠レンズで拡大したのだ。

そしてこちらが「巡回ドローン」。「俯瞰」よりも低い高度を飛行、夜間の警備も可能とするため、カメラにライトを装備。また画像上部の横長の長方形はスピーカー。不審者を発見した際に、警告の音声を流すことができる。

そう、こうしているあいだにも園内に不審者が出没していた! そしてドローンは確実に、その姿を捉えていた。

シナリオその②「不審者への警告」である。

自律飛行でルートを巡回中、コントローラであるタブレットに怪しい影を確認。すぐさま、マニュアル操作に切り替え、巡回ドローンで確認するオペレーター。

こちら、先ほどの画像をちょっとアップにしたもの。蛍光イエローの目立つTシャツに身を包んだ人影が確認できる。指の先に小さい人影が見える。

さらにマニュアル操作で現場に接近。

サングラスとマスクを装着した不審者発見! ……怪しさがわかりやすすぎるが、実験なのでご容赦を。

現場に巡回ドローンが急行。その背後、右上に俯瞰ドローンが見える。

かくして巡回ドローンが対象を捕捉。搭載されたスピーカーから警告を発する。

「あなたの行動はすべて画像に記録されています。すぐに犯行をやめなさい」

ちょっと未来感あふれる言い回しではないか! そして警備員が現場に急行。速やかに不審者は捕捉されることになるだろう。

実験に使われた機体は大型の猛禽類ぐらいのサイズ感。それが激しい風切音とともに接近してくる。近くで見ていてもコワイ。閉園後に園内に潜んだり、休園日に園内に忍び込む不審者の侵入を防ぐ予防策となるだけでなく、たとえば迷子の探索などにも大いに活躍しそうだ。

セキュリティ実験の先にあるスマートドローンの可能性

今回の実験に関して、セコム、テラドローン、KDDIの3社に話を聞いた。

セコム株式会社 技術開発本部開発センター
開発統括担当 ゼネラルマネージャー 尾坐幸一さん

「セコムとしての今回のテーマは、『俯瞰ドローン』と『巡回ドローン』による階層型監視です。『俯瞰』が全体を俯瞰し、『巡回』が詳細を追う。複数のドローンで役割分担するのがコンセプトです。

2019年度の製品化のあと、大規模スポーツイベントでのスタジアム警備を想定に入れています。警備というジャンルが間違いなく社会から注目されますし、責任も重くなる。現状すでに、刑務所などでの監視の実証実験も並行して行っていますが、さらに広域を監視することが可能になることで、2020年を機に警備におけるドローンを進化させたいと思っています」

テラドローン株式会社 執行役員
UTM事業責任者/最高戦略責任者 金子洋介さん

「この実験でいちばん大きいのは『ドローンの自動航行システム』を試せたことですね。私どもが開発したアプリケーションプラットフォームを使えば、プロのパイロットがいなくても、希望ルートで実際に飛行させることが誰でも可能になります。

また、弊社では3Dマップ製作事業も行っていて、地形の高低だけでなく、木々や建物の高さも詳細にマップ化しています。安心して自律航行していただけるだけでなく、突発的な事態に対してマニュアルへのスムーズな切り替えもできますので、警備のみならず、農業での田畑の監視や農薬散布など、ドローン利用の裾野が大幅に広がる足がかりになると考えています」

KDDI 商品・CS統括本部 商品戦略部
杉田博司

「機体・運航管理・電波というすべてを揃え、LTEを使ってスマートドローンとして遠隔操作システムを作り上げるのがKDDIの仕事です。今回のセキュリティに使用するドローンの特徴は、複数の機体を遠隔で操作するもの。警備という観点で非常に複雑なミッションを担当しています。

基本的な技術は2018年度中に実現し、2019来年度中には商品化する構想です。これをかたちにすることができれば、警備はもちろん、インフラや災害監視などさまざまな用途転換ができるでしょう。点検業務にも最適だと思いますし、5Gの時代を見据えると、スタジアムなどで行われるエンタメの撮影にも活用できるのではないかと考えています」

熟練のパイロットがいなくても、すでに自律飛行にまでこぎつけ、この2年での製品化を明言。杉田は「実際に自律飛行を実現しているところが、通信会社としての我々の強み」とにっこり笑う。

「セキュリティ」をテーマに今後数年の具体的な商品化を視野に入れた新たなスマートドローンのプロジェクト、最初の実験はなかなかの手応えを得た模様。「誰でも飛ばせるドローン」「いろいろなことに活用できるドローン」の時代は、もう目の前まできている。ドローンといえば、コントローラでヘリコプター的な機体を操縦するという点で、どうしても“ラジコン”っぽいイメージを持たれがちだが、遠隔地からリアルタイムにさまざまな情報を入手しつつ自律飛行させるには、実際、「通信」の担う役割は非常に大きい。

課題解決のためのスマートドローン、その裏側は通信が支えているのだ。

そして5Gの時代になればスマートドローンのできることもまた、飛躍的に広がることは想像に難くないのである。

文:TIME & SPACE編集部
写真:稲田 平

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