2018/02/16

au5G×VRで『瞬間移動』実証実験! 東京にいながら南三陸商店街でお買い物

イベントのタイトルは「南三陸さんさん商店街へ瞬間移動 au 5Gで現地体感イベント」。行き交うお客さんのなかの、特に年配のみなさんは「瞬間移動」が果たしてなにを指すのか、スタッフに熱心に質問する場面も見られた。

KDDIとJR東日本による、一般客も楽しめるイベント形式の5G実証実験

お客さんが行き交っていたのはJR上野駅構内。現地のリアルタイム映像と、5G通信で送られてくる360°VR映像によって、本人は上野駅にいながらにして、約360km離れた南三陸にある「さんさん商店街」を歩き、買いものができるのである。つまりそれが「まるで瞬間移動!」ということ。そしてこれ、なかなかにしてすごい技術なのだ。

イベントの模様がこちら。

まずデモンストレーションが行われ、その後、一般の人々の体験へ。

5Gは2020年を目途に実用化を目指している次世代通信システムであり、現状のシステムに対して「高速・大容量」「多接続」「低遅延」という点で非常に優れている。通信速度とやりとりできるデータの大きさは今の10〜20倍になり、同時に接続できる機器の数は10倍に増え、送信先と受信側で生じる時間の差は約10分の1になる。

そんな5Gを使って遠隔地とリアルタイムでインタラクティブなコミュニケーションを、一般のお客さんが体験できるイベントは、なんと国内初なのだ!

実際に南三陸の人とVRでお話ししてみた

今回のイベントステージは、上野駅の大きな中央コンコース上にしつらえられている。壇上に上がると、たくさんの人にチラチラ見られてちょっと気まずかったりするのだが、「au 5G」のロゴ入りVRゴーグルとヘッドフォンを装着すると……あ、なるほど!

視界は、こうなる。

録画した映像ではない。5G通信なら、遠隔地にいる者同士を、データ量の大きい4K・360°VR映像でリアルタイムにつなぐことができるというわけだ。で、ヘッドフォンからは現地の声。『南三陸さんさん商店街』で、産直の加工品や乾物を扱う『さんさんマルシェ』の店長・渋谷祐介さんが、上野駅にいる筆者にオススメの地のものを教えてくれる。

「こちらは『登米のだし』ですー。宮城県登米産の原木栽培椎茸と、三陸で獲れた真昆布に鯖節や鰹節を合わせたおいしいおだしなんですー」

テレビ電話感覚……なんていうレベルではない。360°VR映像だから、頭を動かせば店内をぐるぐる見渡せるのである。

「そこにある缶詰はなんですか?」

ゴーグルをつけていない南三陸の渋谷さんには筆者の動きは見えていない。にもかかわらず、シャッと缶詰を指さすオレ。気を許せば、きっと脳は「自分は南三陸さんさん商店街にいる」と誤認してしまうのだろう。というか、指さした時点でもうしてる。

「ここの目の前の志津川湾の漁港のお母さんたちが作る『魚市場キッチン』のタコのアヒージョです。缶詰ですけど、素材は新鮮そのもの!」

「ウマソー! これはもう宮城の酒ですね!」
「絶対です! ほかにほやのトマトソース煮とかもありますし、お土産には4缶セットもどうぞー」

いや、楽しい楽しい。お店の人と直接話して「なにが美味いか」とか聞けるのがよい。情報だけでなく情緒が伝わってくるのだ。

で、すっかり気分が乗って「あとそっちの……」などと、別の売り場の生鮮食料品を指差してるさなかに、タイムアップが告げられた。その時、VRゴーグルのままふと後ろを振り返ってみた。すると、白いベンチコートの集団がチラッと見えた。

「現地スタッフ! めちゃくちゃいる!」

この特別な通信環境を支えるKDDIの5G×VRチームであった。

南三陸側5G×VRチームはどんなことをしていたのか

これが現地システムの全容だ。

①360°カメラ
手ブレを防ぐスタビライザー一体型のベストを装着。これが東京側でのVR体験者の視点になる。

②4Kカメラ
イベントのステージに現地の様子を伝えるためのカメラ。東京側でVRゴーグルを装着していない人は、このカメラからの映像を見る。

で、カメラの後ろには上のような台車の列が続く。それぞれ役割はなにかというと……。

③360°カメラと4K中継カメラ用サーバ
④サーバ用のバッテリー
⑤5G端末設備
⑥5G端末用アンテナ
⑦5G端末の電源(バッテリー)

⑤〜⑦が現時点での「5G端末」といえる。

実験段階の現状では、上野と南三陸を4Kの360°VR映像でリアルタイムでつなぐには、実にこれだけのサイズの「5G端末」が必要になる、というわけだ。

もちろん、将来的にはこれだけのシステムも、スマホサイズにダウンサイジングされていくという前提なんだから、科学技術ってすごい。。。

ちなみに「南三陸さんさん商店街」は宮城県南三陸町に2012年2月に仮設としてオープンし、5年後にはかつての中心地を約8.3mかさ上げした志津川地区の高台にグランドオープン。国立競技場の設計者としても知られる建築家・隈研吾さんの監修のもと、南三陸杉をふんだんに使って建てられた。鮮魚とかかまぼこなど、地元のおいしいものが地元価格で買えるのが人気だ。

そこに乗り入れたのが右下画像の軽トラック。荷台に設置されているのが5Gアンテナである。そしてここから商店街中央の広々とした通路に5Gの28GHz帯の電波を飛ばして、今回の体感イベントを行ったのである。

現地に行かなくてもいい? 5Gはこれからどうなるのか

イベント期間のスタッフは総勢50名。現地でのセッティングは、東京に20センチの積雪があった1月の寒波のタイミング。参加したスタッフに話を聞くと、「寒すぎて、電子機器が不具合に見舞われたりして大変でした」という。「さんさん商店街」の皆さんにも、「わざわざこんな寒い時期を狙ってきたんかね?」なんて心配されたらしい。

また、上野駅側の作業が終電後に限られたため、接続試験は必然的に深夜になり、ともかく疲労困憊だったが、イベントに関しては手応えバッチリ。

実証実験に協力してくれた「さんさんマルシェ」の渋谷店長に話を聞くと、こちらも好評だ。

「こういうかたちで遠く離れたところのお客様とコミュニケーションをとることができれば、細かな商品説明ができて、より理解を得ることができると思いました。現地までお越しいただけない方にも南三陸の魅力が伝えられますし、リアルタイムで直接アピールできると、お客様にも共感していただけますよね」

それだけでなく、「瞬間移動」でほんの何分かお話ししただけなのに、なんとなく渋谷店長に親しみを感じている筆者がいる。「会ったことある!」なんて気さえしてくるから不思議だ。

と、ここで素朴な疑問。もし端末とかがもっと小さくなって5Gが実用化されて、今回の実験のように実際に現地に行かなくても現地気分が味わえる技術が当たり前になるとしたら、交通機関としてはデメリットになるのでは?

JR東日本IT・Suica事業本部の髙島昭治さんが答えてくれた。

JR東日本IT・Suica事業本部課長の髙島昭治さん。KDDIとの5Gの取り組みにおける担当者である

「現地の魅力を伝えることのできるチャネルがひとつ増えるわけですから、私たちとしては大歓迎です。5Gが実用化されて、今回のように臨場感たっぷりに現地の様子を体感できたり、商店街の人とコミュニケーションを取れるようになれば、より多くの人が現地に行ってみたくなるんじゃないでしょうか。私も今回のイベントに先んじて南三陸に行きましたが、現地の空気感や匂い、それから復興に向けた人々のパワーは、現地に行ってみないと実感できません。こういった技術が今後、より深く土地土地の魅力を伝え、観光につながっていくのは素晴らしいことですよね」

KDDIとJR東日本の5Gにまつわるプロジェクトは一昨年からスタートし、昨年秋には走行中の車両と駅のホームを使った大規模な実験も行った。

KDDIの松永彰は、「これまで行われてきたさまざまな実験で、5Gを用いた走行列車での8K/4K映像の伝送に成功し、駅構内で5Gの電波を使うための知見を得た」という。「今までは、いわば5Gの実力の下調べでした。今回は5Gを使って実際にどんなことができるかを試してみたかった」。

KDDIモバイル技術本部シニアディレクター・松永彰

上野駅を行き来するお客さんたちにも5G通信のすごさやVRの利便性を実際に体感してもらうことができるようになったのも、そうした積み重ねがあってのこと。

「高速・大容量」「多接続」「低遅延」など、ニュースの見出し的なフレーズで語られることの多かった5G通信だが、今回の実験のように、「どう使うか」「使ったら生活はどう変わるか」といった、近未来の具体的なビジョンが示されはじめている。

通信の未来はもう近くまで来ているのだ。

文:武田篤典
写真:稲田 平

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