2017/08/30

夏フェス『ROCK IN JAPAN FESTIVAL』で、観客のケータイをつなげ

ステージに向かってこぶしを突き上げる人、音楽に身をゆだねて体を揺らす人、ともかくビールな人、メロンを丸ごと1個使った名物のクリームソーダを懸命にすする人。遠くで聞こえる音楽に耳を傾け、ずーっとフードエリアでダラダラ過ごしてる人もたぶんいる。
……なんだか非常にハッピーなバイブスに溢れている。

夏はフェス! 行けばなんやかやで楽しいのだ!

今回、TIME & SPACE編集部が行ってきたのは「ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2017」。今年は8月5日、6日と11日、12日の4日間で、我々は設営日である10日と11日に参加。ちなみに11日はチームしゃちほこや、ももいろクローバーZ、Perfumeやサンボマスターやサカナクションなどが出演した日である。

ライブ開始は10時30分から。でも8時の開場に合わせてわんさか人が集まってくる。我々はテントや椅子を設営するのにベストな場所を取り、今年の(日付と出演アーティストがプリントされた)Tシャツを即購入即着用。

会場は茨城県の国営ひたち海浜公園。敷地面積は350ha、東京ディズニーランドのなんと約5倍だという。そこに7つのステージが設えられていて、1日約50組のアーティストが出演する。この日訪れたオーディエンスは主催者発表で6万7,500人!

これだけの広さと人数のイベントですから、仲間との電話やLINEでのやりとりは必須。

ほかにも公式アプリではラインアップやその日のスケジュールもチェックできるので、「次、どのステージに誰が出るか」「自分が今いるステージから近いオススメのフェス飯の屋台の場所はどこか」を調べたり、あと「#RIJF2017」ってハッシュタグで感動と興奮をつぶやいたり。……むしろケータイやスマホがなければもはやなにも始まりません。

と、そこで素朴な疑問がわいてくる。

「年に数日のみ、爆発的に人が増えるようなイベント時、皆が快適にケータイやスマホを使用できる環境はどうやってつくられるのか?」

常に人が多い都心駅などの場合、常設の電波基地局を複数設置することで電波が快適につながる環境をつくっている。しかし会場となっている国営ひたち海浜公園の年間来場者数は約214万人で、1日の来場者数は、単純計算すると約5,800人。それがこのフェスの期間中はなんと10倍以上の人がドバドバッと訪れるのだ。もちろん、複数の電波基地局を「常設」することはできない。

このあたりの仕組みは、こちらでご確認いただいておいたほうが話が早いかもしれません。

……ということで、我々取材班は8月10日、朝8時30分に現場に入った。
ももクロもサカナクションも、ライブなどひとっっつもない、イベントの中日である。

その日は、みんなの携帯電話をつなぐために重要だから

会場で会ったのは、「ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2017」に遊びに来た人たちの携帯電話を、イベントの期間中きちんとつなげる移動基地局を設置するスペシャリスト。KDDI小山テクニカルセンターフィールド1グループのリーダー齋藤武(右)と、早坂徹(左)。

イベント中は「可搬型基地局」を2台、「車載型基地局」を2台投入しているという。会場となる国営ひたち海浜公園の近くまでは光ケーブルが来ているので、そこからイベント用に電柱を立て、これら4カ所の基地局にケーブルを張り巡らせる。

「全国に、可搬型基地局は58台、車載型基地局は27台あります。KDDIでは、人が多く集まるイベントでも快適に携帯電話をご利用いただくために電波対策強化を行っています。とくに夏のこの時期は、フェスや花火大会も多く、全国各地の担当者が頻繁に出動しているんですよ」(齋藤)

一時的に人が増えるようなイベントでは、移動可能な基地局が出動して、足りない分を補っているというわけだ。ではどうやって設置されるのか、その作業の様子を見せてもらうことにした。

まずは「可搬型基地局」。基地局がない場所からでも通信を可能にするためのユニットをセットにした、文字どおり“可搬”……つまり、持ち運ぶことのできる臨時の基地局のこと。持ち運ぶ、といってもクルマに機材一式を積み込んで移動するわけです。今回は駐車場などに設置していますが、のちに紹介する「車載型」みたいに大きめのクルマを置く場所がなくても、比較的自由に設置できるのがメリット。

ずらっと並んでいるのは可搬型基地局の無線機たち。通信センターから光ケーブルを通して届いた信号をこいつらが中継し、電波に変換してアンテナに伝え、そこからユーザーの元に送る。 アンテナは、クレーン車のゴンドラ部分に3基設置。今回の電波対策ではそれぞれが2GHz、800MHz、WiMAX2+のUQの電波の送受信を受け持っている。

野球のベースみたいなのがアンテナ。3基見えます。

「1基がそれぞれ2GHz、800MHz、WiMAX2+の3種の電波を吹くことができるんです。比較的狭い範囲に集中的に電波を送るこのアンテナをイベント用に開発しました。今年は、メインとなるグラスステージに重点的に電波を吹かせる狙いなんです」(早坂)

ちなみに電波のプロの方、電波を送ったり届けたりすることを「吹く」「吹かせる」というらしい。

今回は「可搬型基地局」×2と「車載型基地局」×2。可搬型と車載型でメインの「グラスステージ」を挟み込み、その奥に可搬型をもう1台、さらに端っこに車載型を置くという布陣。

「どのイベントに基地局を出動させるかは、「イベントの集客人数」で決まります。周辺の基地局のトラフィックで足りる場合は出動しません。メジャーなイベントほど、SNSなどで“●●のスマホはつながる”、“●●はつながらない”といったことが話題に上がりますので、auはいつでも安心してご利用していただくためにも、できる限りの対策をしています。イベントの通信対策を成功させるカギは、お客さまと一緒になって、私たちも楽しむことです」(齋藤)

今年の「ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2017」は8月5日が初日だったが、最初に4つの基地局を設置したのは8月2日。可搬型にしても車載型にしても、その都度置いてみて角度を調整し、いい塩梅で電波を「吹く」ことができるようにしなければならない。なお今回は、昨年のこのフェスの成果と前週の成果をベースに決めたという。

そんなわけで、8月10日、イベントの前日の朝8時30分から1時間弱かけて設営し、「これでよかろう」ということになる。

そして、「立てる」のである。

さっきの「可搬型基地局」のクレーンはグイーンと地上22mまで伸びる。これと同時に、ほかに会場内に設定された3カ所の基地局もアンテナを立てる。

こちらは可搬型と「グラスステージ」を挟み込む車載型基地局。

一方こちらが会場のはずれに置いた「車載型基地局」。文字どおり「基地局を搭載したクルマ」である。

準備万端になると、スイッチを入れてそれぞれきちんと通電しているかをチェック。

そうしてようやく、電波の発信源である小山テクニカルセンターに電話を入れ、電波を発射してもらうのである。非常にアガる瞬間だ。

早坂さん、「電波、発射〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!!」みたいに気合を入れてシャウトするのかと思いきや「あ、はいー、こちらは完了しました。では電波発射お願いします」と、極めて淡々と要請をするのであった。

ここまで基地局のセッティングに約50分、とうとうこれで移動基地局の設営が完了したのである。

……いや、勝負はこれからだった。

「おはようございます。そろそろ行きますか!」

現場に新しいコンビが姿を現した。いやいや、もうアンテナの設営を完了しているはず。これ以上、一体なにをしようというのか?

「ちゃんと電波が吹けているかをチェックするんです」

なるほど。設営をしたのならば、それがきちんと機能しているのか確認するまで責任を持つのがプロフェッショナルの仕事というものだ。

このフェスでKDDIは2GHz、800MHz、UQという異なる電波を飛ばす。それられきちんと会場内に届いているかを、2人でチェックするという。……でもどうやって?

「歩いてですよ(笑)」

男たちはフェスのメインとなるグラスステージに、バックヤードから大回りして下手から入り、機材をチェックし始めた。「あんまり離れないで、同じぐらいの位置で歩きましょう」奥の佐藤直樹が言うと「了解です」と手前の小山真吾。

2人のバッグには「エリアテスター」なる機械が入っている。

電波の強さをチェックするための機械だ。GPSを搭載しており、どこでどのくらいの電波を受信できるかを詳細に確認、PCに記録してゆく。「こんな感じです」と佐藤が地図を見せてくれた。どうやら今いるグラスステージの見取り図のようだ。が、そこに格子模様が描かれている。ええと、これは……?

「では行きますね!」

ステージ前の上手から下手へ。

手前から奥へ。

奥の上手から下手へ。

客席中ほどに戻ってまた下手から上手へ。

とにかく歩く。
端から端へ歩いたら、少し後ろへ行ってまた端から端へ。地図の格子模様は2人の歩くルートだったのだ。

アンテナからきちんと電波が吹けているか、会場をまさに塗りつぶすように確認していく。約6万人収容のグラスステージをおおよそ1時間かけて歩いた。ずっと後を追い、時には手前に回って撮影するカメラマンもメモを取るライターもヘトヘト。

グラスステージの電波チェックを完了したら、一旦クルマに戻って、PCに保存されたデータをまとめ、これも小山テクニカルセンターに送る。

調整が必要ということになれば、基地局では改めてアンテナを畳み、再度調整するのだ。

そして電波チェック担当の2人の仕事はこの場所だけで終わりではなく、会場をくまなく歩き回ることになる。トータルで3〜4時間。データはまた小山テクニカルセンターに送られ、微調整が繰り返される。そんなフェス前日の営み……。

で、フェス当日を迎えるのである!

こうしてようやく迎えたフェス本番。

電話したり検索したりSNSに写真をアップしたりと、夏の1日をみなさんに楽しく過ごしていただけることになるのである。

ほら、参加者のみなさんもこの笑顔。

ちなみに、冒頭にご紹介した会場の写真にはauの可搬型基地局と車載型基地局のアンテナが写っていました。お気付きでしたか?

こちらでございます。

これらの移動基地局、この夏には別のメジャーなフェスや、巨大花火大会にも出動しました。

普段つながっているのは、もはやあたりまえ。だから、ことさらに「つながってる!」って意識はしないでしょう。でも「肝心な時につながらない」ことには、すぐに気づいてしまいますよね? そうならないよう、「どんなときでもつながる」を普通に実現するために、舞台裏ではこんな活動が行われていることも、少しだけ知っておいていただけると嬉しいです。

文:武田篤典
撮影:稲田 平

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