2020/02/07

ノーベル賞で話題の「リチウムイオン電池」とは? 改良の歴史と未来を紐解く

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リチウムイオン電池

2019年10月、「リチウムイオン電池の父」と称される吉野彰さんらがノーベル化学賞に輝いた。携帯電話やスマートフォンにも利用されているリチウムイオン電池が初めて商品化されたのは1991年、ソニーからだ。それまで二次電池(充電可能な電池)といえばニカド電池が主流だったが、それよりもはるかに軽く、エネルギー効率がいいリチウムイオン電池の登場は革命だった。

そんなリチウムイオン電池がどのように携帯電話に利用され、改良されていったのだろうか。今回はスマホと電池の関係に焦点を当てながら、東京理科大学でリチウムイオン電池を始めとする電池材料の研究を行う東京理科大学の駒場慎一教授にお話を伺った。

電池持ちと軽さを両立できたのはリチウムイオン電池のおかげ

東京理科大学の駒場慎一教授 東京理科大学の駒場慎一教授

——携帯電話にリチウムイオン電池が使用されるようになったのはいつごろから?

携帯電話、今で言うガラケーにリチウムイオン電池が搭載されるようになったのは90年代の半ばから。当時は携帯電話が普及し始め、少しでも重量を軽くするための厳しい競争が起こっていました。同じ機能があるのなら、1グラムでも軽い機種のほうがうれしいですよね。すると、電池の軽さや小ささが勝負になってくるわけで、リチウムイオン電池が最適解となります。

——どうしてリチウムイオン電池だったのでしょうか。

まず、リチウムイオン電池は軽くて小型でありながら、ほかの二次電池と比べてエネルギー密度が非常に高いということが挙げられます。リチウムイオン電池に使われるリチウム(Li)は、元素の周期表では水素(H)とヘリウム(He)に続いて3番目に登場する、ものすごく軽い金属元素です。水素とヘリウムは気体なので、電池の材料に出来る金属元素のなかではリチウムが最も軽い元素といえますね。

最も軽い電池を作るにはリチウムが必要 最も軽い電池を作るにはリチウムが必要

——最も軽い電池を作るにはリチウムを使えばいいということは、周期表を見れば一目瞭然だったんですね。

そうです。世界中の科学者は70年代ごろから、リチウムイオン電池の前身に当たる「リチウム金属電池」の研究を始めていて、なかでも初期に功績を残したのが、今回吉野さんと一緒にノーベル化学賞を受賞したスタンリー・ウィッティンガム先生でした。当時、ウィッティンガム先生は、エクソン(現:エクソンモービル)という石油会社に勤務していました。オイルショックなどの影響で原油があと20年や30年で枯渇するといわれていた時代。新しいエネルギービジネスを探していたエクソンにとって、リチウム電池は格好の研究対象でした。

リチウムイオン電池は、石油や石炭を使わない新しいエネルギー社会の立役者としても期待されています。その理由は、電圧やエネルギー密度、寿命、効率、自己放電などを含めた総合的な性能が高いことにあります。リチウムの元素の性質から、他の二次電池よりも電圧とエネルギー密度を高められるので、1回の充電で貯めることの出来る電気エネルギーが非常に多くなります。

リチウム電池の画像

また、安定性が高く長寿命なのもリチウムイオン電池の特長。さらに、充電で蓄えた電気エネルギーを100パーセントとすると、95パーセントくらいのエネルギーを取り出せるので、いわゆる充放電効率が非常に高くなります。しかも、自己放電率(蓄えた電気が徐々に減っていく割合)も数パーセント以下と非常に小さいのに対して、鉛電池だと30パーセントも自然放電してしまうことからも、リチウムイオン電池が非常に優れていることがわかります。

今後、天候に左右される太陽光発電や風力発電を有効に利用するために、発電した電気を溜める電池は必須の存在。そのため、リチウムイオン電池は環境問題の解決にもつながると言われています。

——ちなみに、もしリチウムイオン電池が発明されていなければ、現在使われているようなスマホやパソコンは誕生していなかったのでしょうか?

リチウムイオン電池が発明されていなければ、現在のスマホより体積が倍になるか、電池の持ちが半分になっていたでしょうね。

リチウム電池の改良

——携帯電話に使われるリチウムイオン電池は、どのように改良が進んだのですか?

これは非常に面白いんです。リチウムイオン電池は使われてる物質自体はずっと同じなので、僕みたいな研究者からすると何も新しいことはない。今回ノーベル化学賞を受賞したグッドイナフ先生は、80年代にリチウムイオン電池の電極材料としてコバルト酸化物を見つけ出しましたが、このコバルト酸化物は現在でも使われ続けています。

リチウムイオン電池に必要な素材 左から、バインダー、コバルト、有機溶媒、黒鉛。いずれもリチウムイオン電池を作るときの重要な素材

——40年近く経ってもリチウムイオン電池には同じ材料が使われているんですね。

そうです。実用化以来、リチウムイオン電池の基本構成はほとんど変わっていません。そこから、少しでもたくさん電気を溜められるように電池中の化合物をできる限りぎゅうぎゅうに詰めたり、逆に余分な部分をすり減らしたりという努力を積み重ねていっての今があります。また微量の添加剤を電池内部に加えることで、寿命や安全性能を徐々に向上させてきました。

スマートフォン自体の性能が良くなって消費電力を抑えることができているので、電池の性能が同じでも一充電あたりでより長持ちするようになっています。大きなイノベーションは起こっていませんが、世界中の人が少しでもリチウムイオン電池を進化させるために努力しています。90年代からもう20年以上が経って、使える電気量もかなり増えているわけですから。

リチウムイオン電池の未来

——この先、リチウムイオン電池はどのように発展していくのでしょうか?

実はまだ実用化されていない研究がいっぱいあって、話すと3時間くらい止まらない(笑)。でも、なかなか難しいんですよ。性能は良いけどコストがすごく高くついたりとか。あと理論的には素晴らしいのだけど実用化までに難題がある電池といえば……「リチウム空気電池」というものがあります。極論、空気中の酸素を使って電気を貯められるんですよ。空気中の酸素を正極として使うので、極限まで電池を軽量化できます。すでに、リチウムを使用しない一次電池(充電ができない使い切りの電池)としての空気電池は実用化されていて、補聴器などに使われています。

補聴器

——もしスマホに応用されたら、究極の電池になりますね!

理論的には。でもものすごく難しくて。まず空気って気体ですよね。現状では、反応が遅く、充電できても放電するときに電圧がものすごく低下するのが課題なんですよ。何度も充電可能な「リチウム空気電池」は今も技術開発が進んでいて、将来には実用化されると期待されています。喋り続けるとキリが無いんですが、それくらい実用化ができていない未来の新型電池はたくさん研究されているんです。

40年前には、リチウムを使った4ボルト級の二次電池は、実用化が不可能と考えられていました。逆に言えば、今から40年後、2060年にどんな新型電池が実用化されているか、まったく予想できません。

——スマホに使われる電池がこの先リチウムイオン電池ではなくなることも?

その可能性もあります。私の研究グループが研究しているのは、次世代の二次電池です。たとえば、現在のリチウムイオン電池に使われているリチウムの電解液に代わって、固体の金属リチウムを使うと電池のサイズをものすごく小さくできるのですが、安全性が損なわれる。そういった課題を解決しながら、リチウム金属電池をつくるというのが次世代電池の研究になります。

もっと究極を言えばリチウムと硫黄を組み合わせた「リチウム硫黄電池」もあります。もし実用化されれば、リチウムイオン電池の3〜4倍は長持ちすると言われています。これらは、将来スマートフォンに使われるかもしれない電池候補のひとつです。

——ありがとうございました。

電池の進化が私たちの生活をより豊かに

より軽く、長持ちするスマホを目指してリチウムイオン電池は今も進化を遂げている。充電時間の短縮や稼働時間の増加はもちろんのこと、将来的には外出先で充電スポットを探し回るようなこともなくなるかもしれない。電池の進化に伴う便利な生活に期待したい。

取材・文:いつか床子

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