2018/07/27
お菓子の空き缶で「究極のスマホ用手作りスピーカー」を目指した夏の軌跡
ここ数年、「紙コップスピーカー」なるものが地味に流行っている。電源やケーブルなどは一切必要ナシ。スマホを差し込むだけで簡易的なスピーカーになるというものだ。身近にある材料を組み合わるだけで誰にでも作ることができるが、シンプルなだけにこれがなかなかに奥深い。
そこで今回、TIME & SPACEでは、オーディオのプロにアドバイスをもらいながら、手作りスピーカーでどこまで究極の音を目指せるのかを試してみた。ルールはひとつ。「紙コップやお菓子の空き箱など、身の回りにあるシンプルな材料だけで作る」ということ。
10分で完成! まずは基本型の紙コップスピーカーの作り方
まずは、もっともベーシックな作り方である明治「マーブルチョコレート」と「紙コップ」を組み合わせる、通称「紙コップスピーカー」を作ってみよう。
必要な材料はこんな感じ。
【使用する材料】
マーブルチョコレート×1
紙コップ×2
※工具としてマジック、カッター、定規を用意。
①紙コップにマーブルチョコレートの空き箱を当て、マジックでなぞって穴を空ける位置を決める。その際、マーブルチョコレートのフタだけでなく、底蓋を外すことも忘れないように。
穴は気持ち小さめにしておいた方が音が漏れづらくなって良い。素材が紙なので、少々狭くてもねじこむことができる。
②カッターで円を切り抜く。クラフト用のカッターがあれば刃がグラグラしないので使いやすいが、素材が紙なので通常のカッターでも問題ない。指など切らないように気をつけて!
③上と同じ要領で、スマホを差し込むドッグ部となるマーブルチョコレート側の中心にスマホを当てて、マジックでなぞり、切り抜く。スマホが入るか確かめよう。
④紙コップとマーブルチョコレートを組み合わせて完成! マーブルチョコレート側の背中部分を少し残しておくと、スマホを立てたときに安定する。
そして完成!
製作時間は約10分程度だ。
早速スマホを装着して、音楽を再生してみると……。
うん、なるほど。スマホ下部から出る音がマーブルチョコレートと紙コップで反響し、音が拡張されて「スピーカー」になることは間違いない。少々音がボワボワして聴こえるような気がしなくもないけど、それもまた愛嬌。ちょっと昔のラジオのようなアジのある音だ。
さて、ではこの紙コップスピーカー、素材や作り方を変えれば音はさらに良くなるのだろうか? 今回はこの手作りスピーカーにもうひと手間加えて、さらなる高みを目指してみたい。
プロのアドバイスを拝聴しに秋葉原へ!
紙コップスピーカーの音をどこまで磨き上げることができるのか? プロのアドバイスをもらうために、秋葉原にあるオーディオクラフトショップ「オーディオみじんこ」に伺い、代表の荒川敬さんに話を聞いてきた。
こちらが「オーディオみじんこ」代表の荒川敬さん。
荒川さんは、カスタムオーディオの世界では名の知れた人。店内には自身がプロデュースするスピーカーやオーディオ機器、ケーブル・オーディオアクセサリーまでずらりと並んでいる。
早速、編集部で制作した紙コップスピーカーを試聴して、荒川さんの感想を聞いてみた。
「おお、この紙コップスピーカーはシンプルな構造だけど、理にかなっていると思います。スピーカーの仕組みは、狭いところから広いところに空間をつなげることで音を拡張しています。このスピーカーも共鳴管の役割を果たしている狭いマーブルチョコレートから、広い紙コップに音が抜けることで実際に音が大きく響いていますね。素材が紙コップだけに紙っぽい鳴り方がするのもおもしろい」
「紙っぽい鳴り方」を文字で説明するのは難しいが、糸電話で会話したときの少しくぐもったような聴こえ方をイメージしてもらえればいいだろう。
この手作りスピーカーの音をよくする方法について、荒川さんから3つのポイントを教えてもらった。
手作りスピーカーを作るときの3つのコツ
①隙間という隙間を木工用ボンドで埋める
「隙間があると、スマホのスピーカーから拾った振動が拡散してしまいます。音が逃げないよう、紙コップとドック部分にできる隙間を木工用ボンドなどで埋めてみてください。これだけで音が締まってよくなりますよ」
②スプレーで塗装をする
「高級スピーカーでも、仕上げの塗装によって音の響き方はかなり変わるんです。紙コップスピーカーは、紙っぽい軽い音になるので、ラバースプレーで試してみましょう。塗布すると全体にゴムの塗膜ができるので、スピーカーに伝わる周波数が変わって音が締まる効果が期待できます」
今回はメディコムトイの「SUPER RUBBER SPRAY」を試してみた。Amazonで購入できる。
③色々な素材を使って試してみる
「共鳴管となる部分はラップやアルミホイル、トイレットペーパーの芯など筒状のもの、スピーカーとなる部分は紙コップだけでなくお菓子の筒などに変えると音はまるっきり変わってきます。また、筒の直径が大きければ低音域が強調されるし、小さければ高音域が強調されます。この“素材とサイズ”によって音は決まってくるので、身近にあるさまざまな素材を使って確かめてみてください」
というわけで、荒川さんがカスタムした完成品がこちら!
早速、試聴をしてみると……
おおおおおおっ! 明らかにカスタムする前と後では違う。音のボワボワ感がなくなり、スマホのスピーカーから出てくる音がそのまま拡張されたようなきれいな音になった。これ普通にスピーカーじゃないですか!
「いいですね。正直ここまで変わるとは私も思っていませんでした(笑)。手作りのスピーカーはトライアンドエラーでいろいろ試してみて、自分なりのベストな音を探してみるのが楽しいですよ」(荒川さん)
さらなる高みを目指して、紙コップスピーカーをチューニングしてみた
そして後日、T&S編集スタッフが「荒川メソッド」を生かし、究極の音を目指して組み上げたのがこちら、TIME & SPACE謹製「2WAYスピーカー零号機」だ。
おお、もはやなにかの兵器にしか見えないが、なんかかっこいい。
2ウェイスピーカーとは、中・低音域を出す部分(ウーファー)と、高音域を出す部分(トゥイーター)が2つに分かれているスピーカーのこと。担当音域が分かれているぶん、より明瞭に音楽が再生しやすいというメリットがある。
これを手作りスマホスピーカーでどう再現するかというと、通常、スマホは下部にスピーカーがついているが、実は耳が当たる部分にも受話用のスピーカー穴が空いており、音楽を再生するときにはここからも音が出ている。
この受話口を利用して、高音域が強調されるスピーカーをスマホにパイルダーオンすれば、即席の2ウェイスピーカーになるだろう多分、という素人なりの大胆な推察である。
なお、今回「2WAYスピーカー零号機」の制作にあたっては、コンビニや「おかしのまちおか」に通い詰めて素材を吟味。その結果、ヤマザキビスケットの「チップスター(パリッとしたうすしお味)」が低音を、セブンイレブンの「金のワッフルコーン ミルクバニラ」が高音をよく響かせることが判明した。
「金のワッフルコーン」は高音が響きやすい薄いプラスチック製で、なによりその形状が「高級スピーカーのトゥイーターっぽくてかっこいい」という理由で即採用。なにごとも形から入ることは大事なことなのだ。
トゥイーターの制作工程は、紙コップスピーカーとまったく一緒。完成したら上下をひっくり返してスマホの頭にカポッと被せるだけでOK。高音域は指向性が強く、スピーカーの向きによって聴こえ方は変わってくる。左右のトゥイーターは扇状に広げず平行に配置し、丁度顔の位置に向くようにセッティングしよう。
共鳴管となる「マーブルチョコレート」については、そのサイズ、ほどよい硬さ、工作のしやすさなどから、変更ナシ。むしろ手作りスピーカーのためにデザインされたのではないかと思えてくるほどのマリアージュ感だ。
ウーファーの裏には、ホームセンターで購入した「クッションゴム」を貼りつけた。これで手作りスピーカーを置く場所の振動による雑音が抑えられる。
お菓子缶の素材をそのまま生かしたいオシャレさんなら、仕上げにラバースプレーではなく、クリアースプレーを試してみるのもいいだろう。
クリアスプレーで塗装した「素材生かしバージョン」がこちら。お菓子のロゴが正面から見えるように組んでいるのは編集部員の小さなこだわりである。
「2WAYスピーカー零号機」の音は?
こうして完成した、TIME & SPACE謹製「2WAYスピーカー零号機」。肝心の音はというと、スマホの音とは思えないような大きな音が鳴り響き、高音、低音もしっかりと聴こえてくる。
特にウーファーである「チップスター」の低音効果は絶大だ。スマホだけだとあまり聴こえてこないような低音が、しっかりと強調されてくる。少々響きすぎるきらいはあるが、それがかえって小ぶりなライブハウスで聴いているような臨場感をもたらしてくれる。ライブ音源やアナログ収録したような曲を聴くと、スマホからそのまま聴くよりも迫力があるくらいだ。
というわけで、さまざまな素材を試した結果、編集部的には上記の組み合わせが究極の音ということに決定した。思い返せば猛暑のなか、ここに至るまでさまざまなお菓子の空き缶で試行錯誤を繰り返した。日の目を見ないのももったいないので、まとめてご紹介しておこう。
左/トゥイーター部を通常のマーブルチョコとジャンボサイズのマーブルチョコで組み合わせてみた。トゥイーターの鳴りもよく、特にボーカルがよく聴こえてくる。今回、最後まで「金のワッフルコーン」と「零号機」の座を争った。
右/セブンイレブンの「のむヨーグルト いちご」で挑戦。硬質な響きで、チップスターと組み合わせると音にメリハリがでる。あと「のむヨーグルト いちご」はとんでもなくおいしい。
左/オーディオの世界では、スピーカーを複数セットする場合は同じメーカーのもので揃えるが基本。チップスターのショート缶(S)と組み合わせてみると、まるでひとつのスピーカーで聴いているように音がまとまる。
右/ウーファーの共鳴管にジャンボサイズのマーブルチョコレートを使用し、チップスターのロング缶(L)を4本装備。すると音はドンシャリ(低音がドンドン響き、高音がシャリシャリ鳴る)どころかドンドコドンの低音夏祭り。音量にかけてはダントツトップの音量番長だ。
なお、上記「音質の評価」については、あくまで素人である編集部員の所感であり、お菓子そのもののイメージからくるプラシーボ効果による影響も否定できない。すべて文末に「のような気がする」と付け加えていただいたうえで、やさしい心で参考にしていただきたい。
とはいえ、音の響き方にそれぞれ個性があることは間違いない。ぜひ身の回りのさまざまな素材で試してみてほしい。
オーディオのプロに100均ショップの材料でスピーカーを作ってもらった!
さて、カスタムオーディオのプロが手作りスピーカーを作ったらどうなるのか? 今回は「100円均一ショップ」などで誰でも簡単に手に入る材料で、荒川さんに手作りスピーカーを作ってもらった。
<石粉粘土で作るストローホーン型スピーカー>
さすが荒川さんが作ったスピーカーは手が込んでいる。粘土で中空(中が空間になっている)の土台をつくり、そこにさまざまな長さのストローを刺している。ストローの長さによって強調される音域が変わるため、2ウェイスピーカーどころか、ストローの数によって∞ウェイスピーカーが実現するというわけだ。いわばパイプオルガンの論理。
作り方は、土台になる部分を100円ショップで売っている四角い小物入れを粘土で型取り、スマホとストローを差す穴を空けていく。長い、または太いストローだと低音域が、短い、または細いストローだと高音域が強調される。
余分なバリをヘラやカッター、綿棒で取り除き、整形。100円ショップにある適当な木製台をスピーカーの台にし、乾燥させる。あとはお好きな色で塗装すれば完成だ。
もはやスピーカーというよりアート作品?
ちなみに下も荒川さんが粘土で成型した手作りスピーカーだ。スピーカーを差す部分の下から音が抜ける道が作ってあり、前面右部に大きく広がっている。「狭いところから広いところへ音が抜ける」ことで、音が拡張されるというわけだ。
音はというと、どちらの作品も余計な響きはなく、適度に音が鳴ってくれる。編集部が制作した「2WAYスピーカー零号機」がいわゆる元気な「ドンシャリ」傾向であるのに対して、こちらはまるでピュアオーディオのような上品な鳴り方といったところ。さすがです。
※荒川さんの作品は8月1日(水)~31日(金)まで、秋葉原の「オーディオみじんこ」のショールームにて視聴できます。「TIME & SPACEを見た」と声を掛けてください。
「手作りスピーカーはアコースティック楽器と同じで、素材や形状によって聴こえ方が全然変わってくるものです。曲に合わせて材料を変えたりして音の響き方の違いを知るだけでも面白いと思います。今回使った材料のほかにも家庭にある空き箱や、100均ショップやホームセンターでいろいろな素材を使って自作スピーカーを楽しんでみてください」と荒川さん。
まとめと感想と但し書き
人生でこれほどモノの響き方を意識したことがあっただろうか……。最近はコンビニやスーパーで筒状のものを見ると、素材や形から響き方を想像して買うものを選ぶようになってしまった。
今回、編集部では加工のしやすさから紙やプラスチック製品を選んだが、機材があれば木やガラスで試してみるのもおもしろいだろう。さまざまな発見があるので、大人だけでなくお子さんの自由研究にもぜひおすすめしたい。
※制作に使用したお菓子は、撮影後にスタッフが大変おいしくいただいきました。マーブルチョコレート約20本分を食べたのは生まれてはじめてのことでしたが、鼻血が出そうなくらい幸せです。
-
オーディオみじんこ
東京都台東区上野5-9-8 2k540 E-2区画
オーディオみじんこホームページ
文・撮影:TIME & SPACE編集部