通信のチカラ

2014/06/06

KDDI研究所が開発したLTE-Advanced携帯電話基地局向けのデータ圧縮方式が国際標準規格に採用

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KDDI研究所が開発したLTE-Advanced基地局網向けデータ圧縮方式が、欧州電気通信標準化機構(ETSI)の国際標準規格に採用されることが決まった。基地局向けエントランス回線のトラフィックを半減させる独自の圧縮方式だ。 (株)KDDI研究所 光アクセスネットワークグループ 縣 亮(あがた・あきら) 研究マネージャー

スマートフォンで増大するトラフィックに対応するC-RAN

スマートフォンやタブレットの急速な普及で無線通信量が爆発的に増えていることから、無線通信システム全体の容量増加が求められている。そのためには、携帯電話基地局の数を増やし、1つの基地局がカバーする範囲を小さくする「小セル化」が必須になる。しかし、セル数が増えれば、基地局同士が干渉するエリアが広がる。このため、基地局間の干渉を減らす技術が検討されてきた。

基地局間の干渉を減らす技術を実現しやすくするネットワーク構成が、C-RAN(Centralized Radio Access Network)だ。多数のLTE-Advanced 基地局を協調動作させることが容易となり、干渉の抑圧やスループットの向上が可能となる。韓国では既にC-RANが実現されている。各基地局の頭脳にあたる無線制御部(BBU:Base-Band Unit)を、ネットワークのより"上流"にある収容局(Central Office)にまとめ、一つの頭脳で複数の基地局の動作をコントロールするネットワーク構成である。これにより、複数の基地局で協調して干渉を減らす「CoMP(Coordinated Multi-Point transmission/reception)」等の実現が容易になる。また、複数の無線送受信装置(RRH:Remote Radio Head)のトラフィックを一カ所に収容して処理することで、無線制御部の使用率が上がり、結果的に無線制御部の総数を減らせる。省電力にもつながるというわけだ。

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「信号処理をする無線制御部が収容局、つまりセンター部分に集約されているのがC-RANです。中央ですべての信号処理をするので複数の基地局が連携した状態を作れます。干渉が起きないように、干渉が起きる可能性のある基地局間で、電波を送るタイミングを調整することで干渉を減らしたり、あるいは、このユーザーはデータ量が多そうだとなれば、周囲の基地局が共同してデータを送るようにすることもできます。こうした制御でユーザーのスループットが上がるのが、C-RANのメリットです。基地局アンテナ側の装置が小型になるので、取り付けが簡単になるというメリットもあります」

KDDI研究所 光アクセスネットワークグループの縣 亮(あがた・あきら)研究マネージャーは、C-RANの特長をそう説明する。

携帯電話基地局と収容局との間の通信容量が課題に

しかし、C-RANにはひとつ課題があった。現在のネットワーク構成であるD-RAN(Distributed Radio Access Network)というネットワーク構成では、無線制御部と無線送受信装置の両方が基地局にある。送受信するデータは無線制御部で変調信号(ベースバンド信号)に変換された後、無線送受信装置で、送信する周波数に変換後、増幅され、無線信号として送信される。基地局と収容局との間のトラフィックは通常のデータトラフィックのため、数十~数百Mbps程度で済み、Ethernet回線で接続されている。

これに対し、C-RANでは無線制御部を収容局に持ってくるため、数km程度離れていることもある収容局-基地局間では、デジタル化されたベースバンド信号そのものを送受信する。ベースバンド信号は、周波数さえ変換すれば、そのままアンテナから電波として送れる、いわば"生データ"の形である。これを、デジタル信号に変換(サンプリング)して送受信するため、データ量ははるかに大きくなり、基地局と収容局間の光ファイバーにはGbps級の伝送容量が必要になる。

「現在使用されているD-RANではユーザーデータだけを送っていればよかったのですが、C-RANでは、LTEの信号波形を無線装置に送ってあげないといけなくなります。すると、現在の約16倍のトラフィックを送らないといけません」

つまり、基地局と収容局の間の光ファイバーにかなり負荷がかかるネットワーク構成になるので、ここのデータ量をなんとかして減らしたい。そこで縣さんは、LTEの特徴を生かした独自の圧縮方式を開発した。

LTEの信号波形の特徴を利用した圧縮方法を開発

開発目標は、LTEの品質を維持したまま、圧縮率を50%にすることとした。「複数の基地局に協調動作をさせるには、どうしても、ほとんど遅延なく圧縮展開しないといけません。ですので、圧縮・伸張処理に許容される遅延は、20マイクロ秒以下という制約がありました。ここが一番厳しかったところです。非常に短時間で処理しないといけないので、あまり複雑なことはできません。もうひとつ厳しかったのが、無線装置や無線制御部の信号処理能力に制約があることです。その制約の中で行える信号処理しかできないわけです」

縣さんは、圧縮対象となるデータの二つの特徴に目をつけ、それぞれに応じた処理を組み合わせることで、品質劣化のない圧縮方式を実現した。

まず一つ目が、LTEの信号波形がデジタル化される際、余裕をもってサンプリングされているという特徴。

「LTEの信号波形は同相成分(Iチャネル)と直交成分(Qチャネル)という2つの波の組み合わせとして表されるのですが、それぞれの波に対して、振幅の値をデジタル化して無線装置に送信しています。現在は、例えば10MHz幅のLTE信号に対して、それぞれの波を約15MHzの速さでサンプリングしていますが、理論的には同じ速さでサンプリングすれば元の信号を復元できます。つまりこれまでは余裕をみて1.5倍のサンプリング速度にしていたのです」

サンプリング後のデータの周波数スペクトルをプロットすると、上図のようになる。赤い点線で囲まれた部分は信号が乗っていないので、ここを落としてデータを減らすことにした。

「1.5倍の余裕があるので、理論上は2/3まで減らせます。でも少しだけ余裕をみて3/4という速さにしました」

つまり、「ダウンサンプリング」によって、データ量をまず3/4に削ったわけである。

二つ目が、LTEの信号波形の振幅の値の分布をみると、下図のように、ほぼ正規分布に沿っているという特徴。

「簡単に言いますと、振幅の値は0付近になることが多く、より値が大きくなるほど出現頻度が低く、全体として正規分布に近いので、この特徴を利用して、出現頻度の高いところは細かく表現をして、出現頻度の低いところは粗っぽく表現するということをしました」と、縣さん。

「これまでは出現頻度の高いところも低いところも同じように量子化をしていました。それに対して、出現頻度の高いところは、例えば、0、1、2、3というように、データを区別する閾値を細かくし、あまりデータが出てこないところは、100、110、120、あるいは500、550、600というように閾値を大きくして細かい変化は無視するようにします。すると閾値の数が減りますので、データの種類を表わすのに必要なビット数も減ります。実際には、15ビット(32,768)を10ビット(1,024)で表現する処理をしています」

この、振幅分布の特徴を生かした「非線形量子化法」により、データ量を2/3に削ったわけである。

信号品質を維持して圧縮率50%を実現

以上の二つを組み合わせることにより、数値シミュレーションでは、信号の所要品質を維持したまま50%の圧縮が可能であると実証された。光ファイバー回線の必要帯域を、半分に抑えることに成功したのである。

「より小さく圧縮したいところですが、LTEの信号波形がきちんと再現でき、しかも非常に短時間で圧縮・伸張することが優先課題です。それぞれどれくらい圧縮するかの"さじ加減"は、いろいろな条件で信号波形のデータをとり、圧縮処理のパラメーターを変えながら試行錯誤を繰り返して、最終的にこれにたどり着きました」と、縣さんは振り返る。圧縮前と圧縮・伸張後の信号波形の比較は右図のとおり。ほとんど劣化していないことがわかる。

苦労のかいあって、KDDI研究所の圧縮方式が、ETSIの国際標準規格に採用されることが決まった。

「標準規格ができることによって、通信機器メーカーさんにとっては、基地局側に設置する無線送受信装置だけでも開発・販売できるようになるため、新規参入しやすくなるといったメリットがあります。通信事業者にとっては、異なるメーカーの装置を相互接続できるというメリットがあります」

縣さんは、今後さらに圧縮率を上げるべく、検討を進める予定だ。加えて、将来の光アクセス方式を検討する国際的な業界団体であるFSAN(Full Service Access Network)において、C-RAN基地局収容を想定した次世代光アクセス方式の検討が進められていることから、そちらに向けても提案を出していこうと取り組んでいるところだ。

取材:構成 東嶋和子  撮影:斉藤美春

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