2017/09/20

登山者の安心と快適のために——尾瀬で携帯電話が使えることの意義

尾瀬の山小屋内で携帯電話が使用可能に

ミズバショウやニッコウキスゲといった湿原植物をはじめとする豊かな自然が残り、“天上の楽園”とも称される尾瀬。その自然の希少性から、国立公園、国の天然記念物、ラムサール条約湿地に指定・登録されている。

湿地帯を縫うように続く木道と、その脇にミズバショウが美しく咲き誇る様子は、尾瀬を象徴する光景だ
尾瀬のハイキングの適期は6月から10月。冬は深い雪に閉ざされる

尾瀬と言えば、日本の自然保護活動の先駆的試みを続けてきたことでも知られている。1960年頃に巻き起こった尾瀬ブームでは、湿原が踏み荒らされ荒廃するなど環境の危機に直面したこともあったが、木道の敷設、山荘や公衆トイレへの浄化槽設置などのインフラ整備、全国の観光地に先駆けて登山者へゴミ持ち帰りを呼びかけるといった啓蒙活動が積極的かつ継続的に行われてきた。

そんな尾瀬は、現在もほとんど携帯電話の電波がつながらない、全国でも珍しい地域だ。新たな構造物の建設が難しい国立公園であることに加え、携帯電話が利用できることにより希少動植物への影響、歩きスマホによる事故、及び尾瀬の静かな景観を損ねることが懸念され、今まで携帯電話の電波が届かないエリアとなっていたためである。

かねてからKDDIは、懸念される景観を考慮しつつ、登山者の利便性の観点で、尾瀬国立公園で携帯電話が使えるようにしたいと関係各所に打診しており、2017年3月に開催された関係者が集まる尾瀬国立公園協議会において、山小屋やビジターセンターの建物内での通信とし、利用状況をモニタリングすることを条件に、関係者間で合意形成が図られた。

KDDIの担当者によると、今回の尾瀬の通信エリア対策にあたって、現地へ何度も足を運び、電波状況調査を繰り返したうえで、屋内用のアンテナを各山小屋など建物内に設置。無線機のような重いものはヘリコプターを使って運搬した。

ヘリが搬送できる重量に限りがあるため、数回に分けて搬入を行った
山小屋間の離隔確認にはドローンを利用した
今回の対策は、衛星を使って山小屋にて携帯電話を利用できるように対策を実施した。衛星からの電波を受信出来るところが限られており、アンテナ設置場所の選定、方向調整に苦労した
今回の尾瀬の通信エリア対策を担当する、KDDIエンジニアリング 北関東支社 北関東モバイル建設部 安藤孝人(左)、浪花久美(右)

今回の通信エリア対策によって、尾瀬国立公園の21軒の山小屋建物内で携帯電話が使えるようになる。携帯電話の利用を建物内とするため、アンテナの角度を調整するなどして湿地帯のほうに電波が届かないように工夫してエリア対策を進めている。

山ノ鼻にある山小屋のひとつ、至仏山荘。窓に貼られたステッカーには「auの4G LTE ここでつながります」と書かれている

携帯電話が使えることで、救える命がある

尾瀬で携帯電話を使えるようになることは、地元の山小屋の人や登山者にとって、どのようなメリットがあるのだろうか?尾瀬山小屋組合の組合長を務める関根進さんに話を聞いた。

尾瀬山小屋組合 組合長 関根進さん

「私をはじめとする山小屋のオーナーにとって、尾瀬で携帯電話が使えるようになることは、かねてからの悲願でした。

理由はいくつかあります。まず、携帯電話が使えるかどうかは、登山者の安全確保のために非常に重要な役割を果たします。木道とミズバショウの光景が有名な尾瀬は、やさしいハイキングコースというイメージの方も多いかもしれませんが、れっきとした“山”であり、山である以上はどんな山でも危険と隣り合わせです。実際、遭難による死者も出ています。携帯電話が使えないと、救助要請が受けられません。山小屋内で携帯電話が使えることで、救える命がある――これはとても大切なことです。

また、携帯電話が使えないことは、山小屋の働き手が集まりづらいという状況も生んできました。スマートフォンが使えないところでは働きたくない――最近の若い世代は口を揃えてそう言います。気力と体力のある若い人が働いてくれないと、山小屋のオーナーとしてはとても困るんです。

静かな尾瀬を求めて訪れる方はたくさんいます。携帯電話が使えるようになると、話し声でやかましくなるんじゃないかという声も聞きます。しかし、そこから先は登山者のマナーの問題。尾瀬では早くから環境問題に取り組んできましたが、携帯電話のマナーに関しても、私たちが率先して啓発していければと考えています」

auのLTE通信網は人口カバー率99%を超えているが、尾瀬をはじめ、何かしらの事情でつながらない状況が続いていた場所はゼロではない。利用者の安全と快適のために、“つながらない”を“つながる”へと変えていくKDDIの取り組みはこれからも続く。

文:榎本一生
撮影:稲田 平

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