2016/03/17

そもそもの話、爆混みの渋谷で、なぜスマホはしっかりつながる?

帰宅ラッシュでたくさんの人が街を行き交う午後6時過ぎ。駅の改札付近やホームには、待ち合わせや電車待ちをしている人の多くが、スマホを眺めている。

都心部のなかでも群を抜いて大きいターミナル駅。とんでもなく多くの人が集中的に集まることもあり、人だけでなく電波も混雑しそうなものだが、ネット環境はほとんどストレスなく使えている。今となっては当たり前のことかもしれないが、こうして快適な環境が整備されているのには、特別な技術や電波対策の成果があるに違いない。そのしくみについて、KDDI建設本部エリア設備計画部に所属する齋木竜也(写真左)と原田智寛(写真右)に聞いた。

「渋谷駅ハチ公前」を集中電波対策!

――おふたりは、普段どういった仕事をされているんですか?

原田「首都圏を中心にユーザが集中する駅・繁華街などで、朝夕の通勤通学の時間帯をピークとしてトラフィックが集中する時間帯に、お客様がストレスを感じずに、より快適にネット通信をご利用頂けるように、電波状況の確認や電波改善を行う仕事をしています。」

――電波改善は具体的にどのような方法で行っているのですか?

原田「アンテナが付いた基地局を新設するか、もしくは既存の基地局の調整することで改善しています。

より電波品質をあげるために新しい基地局が必要であれば、どこに新しい基地局を建てるべきか事前にコンピュータ上でシミュレーションします。基地局を建てたあとは、実際に改善されたかどうか現地で電波調査し、もし問題があれば次の改善につなげています。」

――電波が良い・悪いは、常に現地で調査するのでしょうか?

齋木「現地へ行って自分たちで確かめることはもちろんあります。また、Twitterなどのネガティブコメントを元にした改善も進めています。」

アンテナが多ければ改善されるわけじゃない

――具体的な基地局の数を伺いたいのですが、たとえば渋谷でしたら何個ぐらいあるんですか?

原田「駅と駅周辺の待ち合わせスポット程度の範囲に、基地局が4〜5個くらいですかね。意外と少ないイメージを持たれるかもしれませんが、端末によって利用する周波数は異なるので、ひとつのアンテナから800MHzや2GHzなど、いろんな周波数を送信している場合もあります。」

――電波を改善するのであればアンテナの数を増やせばいいだけだと思っていたのですが、そんな簡単にはいかないんですね。

原田「そんな簡単にはいきません(苦笑)。たとえば、どこかのターミナル駅のホームを電波改善しようとしたとき、ひとつの基地局ではキャパシティを超えてしまうため、基地局(アンテナ)を複数置きます。ただ、それらのアンテナをすべて同じ場所に向けると、2個、3個、4個と電波が重なって、お互いの電波が干渉する事で中央部はどんどんつながりにくくなってしまうんです。」

電波を楕円状で表現した場合、複数の基地局から発信された電波が重なり合う部分が出てくる。この写真だと赤が濃いエリアほど、電波を干渉しあい、つながりにくくなってしまうのだ

 

原田「電波が干渉し合っている場所では、アンテナ自体を変えたり、向きを動かすことで重なりを少なくして、改善します。複雑な構造をしている駅に対応するときには、大きな基地局を用意するのではなく、小さな範囲をカバーする基地局を複数設置し、つながるエリアをつくります。」

基地局の位置やアンテナの向きを直すことで、エリアが棲み分けされ、電波状況が改善される

   

――シミュレーションはどのようにされているのですか?

齋木「駅のように複雑な構造の建造物で電波の流れをイメージするのは難しいので、コンピュータ上でジオラマのようなモデルをつくって、そこで電波を発射したときのシミュレーションを行っています。

ただ、コンピュータ上のものと現実では、同じ障害物を表現しても電波の伝わり方が異なることもあるため、現地調査とシミュレーションは常に交互に行っていますね。」

データを見れば、その日にどんなことがあったか想像できる

 

――普段のおふたりの1日は、データを見ていることが多いのでしょうか?

原田「僕は、結構見ていますね。」

齋木「ずっと見てるよな?(笑)。」

原田「そうですね(笑)。実際の人の動きや、基地局がカバーするエリアの電波品質に関するデータを毎日見ています。たとえば、基地局がカバーするエリアひとつ一つの、日・時間ごとに変動する人の数や、それに伴って発生するデータ量、それこそ電波干渉の発生状況や、雑音発生状況などを、細かくチェックしています。データと現地の測定結果に相関があるので、現場に行くこともありますが、基本は数値を追っています。たとえば10個の基地局があるなら、それらのデータをすべて集めて分析しています。」

――データからはどのようなことを読み取れるのですか?

原田「いちばんわかりやすいのは、電波の使用量が突発的に増えているとき。『その日は電車が遅延していたのかな?』などの想像がついて、調べてみると予想通り! ということがあります。あと身近でわかりやすいところでは、水曜はノー残業デーの会社が多く、通信が込み合う時間帯が早いです。逆に金曜は飲みに行く人も多いので、通信が込み合う時間帯が遅くまで続きます。」

職業病? 現場ならではの苦労とスキル

――実務をされているなかでいちばん苦労しているのはどんなところですか?

齋木「我々が自由にアンテナを置けるわけではないですし、置けたからといって100個増やしたら干渉し合ってしまう。そのバランスをうまく取れるかという点が、いちばん難しいと思うところですね。

また、現時点ではいちばん適しているかたちが取れていても、お客様のデータ通信量が増えていく時代背景を考えると、常に確認や改善を続けなければなりません。そういう意味では、決して終わりがない仕事といえるかもしれません。」

原田「過去にはなかった建物が新たにできていたり、これまであったはずのビルがなくなっていたりすると、それだけで電波環境は変わってしまいます。そういった場合はその都度、何度も現地に足を運んで、仮説を導き出しています。どれだけ緻密にシミュレーションしても、最後に頼りになるのは、やはり自分の足なんです。」

齋木「よく街を歩いていると、携帯電話やスマートフォンを複数持って、ウロチョロしている人を見かけます。そういった人は大抵同業か同僚なので、優しく見守ってあげてください(笑)。実はさっきもこちらに向かってくる途中、渋谷で同じチームのメンバーに偶然会ったんですよ。」

――歩いているだけで電波対策の人ってわかるのはおもしろいですね(笑)。

原田「街を歩いていると、どんなところにどんな形状の基地局が立っているのか気になってしまって、ビルや建物の屋上ばかり見ている気がします(笑)。『この細い通りで電波を通すには......』と無意識のうちに基地局の場所を確認したりしていますね。」

終わりなき改善への挑戦

――最後に、今後力を入れて進めていきたいことを教えてください。

齋木「お客様が集中してスマホを使っている場所でも快適な環境をお届けしたいです。そうした活動を繰り返すことでお客様からのご満足の声が増えていけばいいなと思っています。」

原田「KDDIとして安定した通信環境を提供していくことが直近の取り組むべきことかなと思っています。またそのうえで、新しい周波数の問題などと並行しながら、どういったエリアを改善すべきかを考えていきたいです。」

――毎日さまざまなかたちで街を見つめながら改善を行っているんですね。本日はありがとうございました!

多くの人が利用する「ターミナル駅」。そのなかでも快適にネット環境を楽しめるのは、職人気質の多くの技術者たちが陰で支えているからであることがわかった。

より多くの人たちに快適なネット環境を届けるべく、KDDIの電波改善の旅は続く。

文:カツセマサヒコ/プレスラボ

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