2015/08/18
急ピッチでエリア対策が進む北陸新幹線沿線 その基地局建設工事に同行してみた
深夜0時30分。田んぼや畑に囲まれたのどかな集落の一画に高さ25mのクレーン車がライトアップされていた。その傍らには、「バケット車」と呼ばれる高さ20mの高所作業用車両。周辺では、総勢12名のスタッフがキビキビと作業にあたっていた。場所は、2015年3月に開通した北陸新幹線の沿線、金沢~富山間の岩崎トンネル付近。JR金沢駅から車で30分程度の新幹線の高架の脇に位置している。
夜間の3時間で高さ25mの基地局を組み立て
auは、日本全国105の新幹線駅はもちろん、東北新幹線、東海道新幹線、山陽新幹線の盛岡~東京~新大阪~新山口間のトンネル内含む全区間で※快適に4G LTEを利用できる。新たに開業した北陸新幹線沿線においても通信エリア増強工事が急ピッチで進められている。 ※2015年4月時点の情報です
2015年3月に開業した北陸新幹線
今回、訪れたのは、auの新たな「基地局」の建設工事現場。当日の作業は、基地局のアンテナ部分の組み立てにあたる「建て方」。深夜0時30分から3時30分の3時間で、地上25mにアンテナを設置してしまうのだという。同行させてもらったKDDIエンジニアリング金沢支店の平元貴志に話を聞いた。
KDDIエンジニアリング金沢支店の平元貴志
「8月中旬までに金沢~富山間で、北陸新幹線での利用のために基地局を新たに計4局設置する計画です。今回の津幡田屋局もそのひとつ。auの4G LTEカバーエリアで圏外となってしまうトンネル内に電波を送るのが目的です。基地局は地下14m、地上25mの大きなタイプを採用。これは、地上約20mの高さにある新幹線の高架から、さらに5mほど高い位置にアンテナを配置するためです」(平元)
「指向性アンテナ」でトンネルめがけて電波を送る
この基地局に用いるのは、1~2kmの距離まで直線的に電波を送れる「指向性アンテナ」。これならターゲットとなる全長260mの岩崎トンネル内をしっかりカバーできる。さらに、auが採用している周波数4G LTE 800MHzプラチナバンドの電波は、障害物があってもうまく回り込んでつながるので、トンネル内の通信にも向いているのだとか。全長260mのトンネルは新幹線だと一瞬で通過してしまうが、たとえ一瞬でも電波が途切れることがないよう、手を尽くしているのだ。
基地局1カ所に15工程の作業がある
基地局設置は、当然ながら「1日にして成らず」である。計画から開通まで全15工程の作業を経て、サービス開始となる。建設工事のざっとした流れは以下の通り。
【1】準備(調査を基に基地局の場所を決定)
【2】基礎工事
【3】外構工事
【4】建て方(4分割したタワーの組み立て)
【5】接地工事
【6】空中線工事(上部のアンテナ設置)
【7】給電線工事
【8】機器設置(電源装置など)
【9】配線工事
【10】無線機設置
【11】電力開通
【12】回線工事
【13】無線機調整(無線機専門会社による作業)
【14】社内検査
【15】電波発射(サービス開始)
場所選定から始まり、基礎工事や建て方の検討、その後も光回線の工事や無線機の設置・調整など、15の工程を経てやっと開通となる。
1カ所の基地局設置につき、15工程の作業を行う
「工事においては、技術的なノウハウだけでなく、現場でのコミュニケーションも重要です。まずは、JR西日本さんとの密な話し合いが必要。北陸新幹線沿線に基地局を設置する場合は、まず開業後まで待ち、さらに安全のため運転時間外に作業を行うといった条件に沿って計画を立てます。もちろん、基地局を設置する土地のオーナーさんから理解を得る必要もあります。また、工事には施工会社、無線機メーカーなど、7社以上が関わります。こうしたスタッフの配置やスケジュール管理も私の仕事になります。多くのみなさんの協力によって、基地局工事は成り立っているのです」(平元)
北陸の新たな大動脈で笑顔をつなぎたい
「現場のコミュニケーションこそ大切」と平元
平元は、自らの地元である北陸エリアで基地局設置の仕事に携わり、それまでも15年にわたって、現在のKDDIにつながる系列企業で通信設備の保守の仕事に従事してきた。北陸の豪雪地帯で、たいへんな思いをして基地局を設置したこともあるという。それでも「つながるようになったよ」というお客さまからの声に常に励まされながら、仕事を続けてきた。
「北陸新幹線のエリア対策は始まったばかり。北陸の新たな大動脈でも笑顔をつなげられるように、これからも頑張ります!」(平元)
人口カバー率99%を超えるauのLTE通信網。ひと昔前なら、新幹線の車内で携帯電話がつながらなくてもそれほど気にならなかったが、今や「どこでもつながって当たり前」の時代。その「当たり前」は、こうした現場の地道な努力によって支えられているのだ。
文:丸茂健一 撮影:有坂政晴
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