2018/03/14
肩こり・頭痛の原因? 若者に急増の『スマホネック』解消法を整体の先生に聞いてきた
オッサンになると、体の節々にガタがくる。20代も前半のうちは体力にものを言わせて無茶な働き方ができたとしても、30を過ぎると無理がきかなくなる。そのうちにふと、自分はもう若くないことに気づくのだ。頭痛、肩こり、目の奥の痛み、不眠……慢性的な体調不良に悩まされ、なにかに憑かれているんじゃないかと心配するこの男、TIME & SPACEの編集・H(46)もそんなひとりである。
その編集・H、自分の体調不良は加齢のせいではなく、若者に流行りの病気に違いないとのたまい始めた。テレビで紹介されていた「スマホネック」の症状が、自分の健康状況と完全に一致したのだという。
最近ではまだ体力に満ち溢れているはずの10代、20代のあいだでも、スマホネックによる肩こりや頭痛に悩まされる人が増えているそうだ。そんな現象がスマホに関係あるのだとすれば、TIME & SPACEとしては解決法を探らねばなるまい。編集・Hに連れられて、スマホネックの治療を行っているJCC池袋整体院を訪れた。
スマホネックは、頭を重くする
スマホネックは病気ではなく、体の状態を表す名称である。正常な状態だと人の首は横から見たときに反り返るようなカーブを描いているが、このカーブが小さくなり、7個ある頸椎(首の骨)の弯曲が30°以下になった状態を指すらしい。別名、ストレートネック。首が真っすぐになるだけで、肩こり、頭痛、めまい、集中力低下、不眠や抑うつ状態などが表れるという。
原因としては、次のようなことが考えられる。
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- ・長時間、同一姿勢でいることが多い
- ・スマホやパソコンを使うとき、視線を下に向けている
- ・座るときに骨盤が倒れ、腰が曲がった姿勢になる
先に述べたとおり、スマホネックとは首のカーブが小さくなることで起こる。編集・Hも最初は、首をバキボキっとやってもらえば体調がよくなると思っていたらしい。なのに、なぜ座り方や骨盤の向きが問題になるのか? ……簡単にいうと、すべての骨はつながっているからである。福井院長に解説していただこう。
「スマホネック自体は、何年も前からあります。昔は『頸椎(けいつい)の前弯(ぜんわん)減少』なんて難しい名前で呼ばれていたのであまり一般的に知られていませんでしたが、その形状のせいで健康状態が悪化する人が増えたので、首の形を表す『ストレートネック』という名前で呼ばれるようになりました。今また、スマートフォンを使うときの姿勢が原因で増えているから、啓発のために『スマホネック』とか『スマホ首』という呼び方をするようにもなったんです。
特徴的なのは、ただの肩こり・頭痛ではなく、さまざまな自覚症状をともなうこと。めまいやふらつき、吐き気、目の奥が痛い、重い、元気が出ない、疲れが抜けない、眠りが浅く途中で目覚めてしまう……」
福井さんの印象では、スマホネックが急増したのは「平成生まれの人たちが社会に出たくらいから」。骨盤の角度が悪い、身体が薄い、頭がうつむきがち……こういった変化が目立つようになった。
「人の頭というのは4~5kgの重さがあって、こんなふうに背骨の上にのっています。正しい姿勢で立ったり腰かけたりすると骨盤がまっすぐになり、身体の軸の上に頭がのるので構造的に問題なく支えられます。ところが、スマホやデスクワークで頭を下に向けると、4~5kgの頭が前に出るんです。これがどういうことかは、体感してもらった方がいいでしょう」
編集・Hから驚きの声があがる。筆者も持たせてもらったが、重りが前に垂れるだけで腕に感じる重みが数倍になる。同じ5kgのものでも、持ち方によって重さが全然違うのだ。
「耳から真っすぐに下りて、肩、骨盤、足首を通るのが人の身体の重心線。これが、自然な重力の流れです。ただ、私たちの背骨はなだらかなS字にカーブしていて、重心線より前に顔が出てしまうと後ろ側の筋肉で頭を引っ張り、前側の筋肉で落ちようとする頭を押し上げないといけない。これが首、肩こりの大きな原因になっています。重心線に頭がのっていないということですね」
電車のなかでうなだれながらスマホを見ている人は多いが、ああいう姿勢で頭が前に出ると、背骨の上にのっているときより5倍近くも体感重量が変わるそうだ。5kgの頭が、25kgになるのである。手に持つのであれば腕の筋トレにもなりそうだが、首で支える場合は弊害が大きい。首のまわりというのは、人体の構造的に、めちゃくちゃデリケートな部分だからだ。
首がまっすぐになると、骨はズレる
背骨が頭蓋骨を支えるといっても、直接頭蓋骨に接しているのは、頸椎のいちばん上にある「環椎(かんつい)」という骨だ。その接触面に色づけしたのが、下の写真。
ちなみに、この環椎の模型は、「骨を見せないとわからないでしょう」と言って、福井さんの奥様が前日に作ってくださったもの。たしかに、骨を見るとよくわかる。首がまっすぐになると聞くと「いいことじゃないの?」と思えたが、もともとの首の弯曲をまっすぐにするために、骨がズレてしまっているのだ。
そして、なぜスマホネックがめまいや目の痛みなどの症状をともなうかというと、首のあたりの背骨のなかを血管が通っているから。
「背骨のなかでも首のところだけは、動いたり絞められたりしてもダメージが少ないように、骨が血管を守っています。ところが、首の弯曲がなくなり頭が前に出ると、頸椎のヘアピンカーブのところで血管に圧迫が起こります。血管を保護するための骨が、逆にダメージを与えてしまっているんです。これが、頭がぼーっとする原因であり、ストレートネックのさまざまな症状を引き起こすもとになっています」
ポイントは、重力と仲良くすること
骨格を見ながら説明を受けていると、背筋をまっすぐにする方が、頭を支えやすいのは明らかだ。それなのになぜ、わざわざ頭が重くなるような、無理な姿勢を取ってしまうのか?
「それは、筋肉を使わなくてもいいという意味で、“楽だから”です。説明したように骨や血管には負荷がかかっているけれど、身体を支える力を加えなくてもいいので、楽だと感じる。幼いころからそんな姿勢が当たり前になっていると、そもそも身体の軸を支えるための筋肉が足りなくなっていることもありますし、脳が間違った姿勢を楽だと思い込んでいることもあります。
そうなると、少しずつ正しい姿勢を意識しながら、首に負荷をかけないための姿勢を保てるように、トレーニングするしかないんですよね」
そこで、福井さんがスマホネックの改善のために提案してくれたのが、次の3つの方法である。
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①座り方やスマホの持ち方を調整して少しでも視線を上げる
頭が下向きになると、重心が前に出る。視線を上げることで、身体の軸の上に頭をのせることがポイントだ。②目に入る水平線や垂直線を使って、“重力の向き”を意識する
正しい姿勢というのは、重力に対して頭や身体を支えやすい姿勢だ。職場や街のどこにでも垂直や水平の線はある。視線や指で縦横ラインをなぞるようにするだけでも、垂直や水平を意識でき、身体の傾きや偏りを減らせる。③長時間の同一姿勢は避け、30分に一度は頭を背骨の上にのせる
肩こりやめまいなどの症状は、大きな負荷が加わるから起こるのではない。小さな負荷が、長時間かかり続けることで、ストレスになる。
「頭を身体の重心線の上にのせるには、立ったとき、座ったときの姿勢に一本軸が必要です。立つときの足の位置が悪かったり、腰を丸めた姿勢で座ったりすれば、そもそも頭をのせる重心線が乱れていますから、首の角度を調整しても意味がありません。
スマホネックの話をすると、長時間のデスクワークが原因だ、スマホを見る姿勢が問題だという話になりやすいけれど、現代社会でデスクワークもスマホもない暮らしなんて無理ですよね。ポイントは、どうやって重力のような自然の力に反発せず、体を悪くしないように使っていけるかだと思います」
つまり、骨格は自然にかかる重力に対して、頭というおもりを効率的に支えられるような形をしている。これを、非効率な姿勢で使ってしまうことが体を悪くする原因であり、問題なのだ。
ちなみに、筆者は肩がこらない。美容室で肩を揉まれると、くすぐったがるタイプのオッサンである。ただ、パソコンに向かってこの原稿を書きながら、疲れてくると背筋が丸まり、腰かける位置が浅くなってくることに気づいた。
そして、30分に一度姿勢を正して頭をのせなおすだけでも、意外なくらい頭がしゃきっとするのだ。ひょっとすると、自覚がなかっただけで、筆者も頭に血が回っていなかったのだろうか。
ちょっと疲れやすいと感じている人は、上の3つのアドバイスを参考に、たまには姿勢を正してみてほしい。スマホネックではなかったとしても、重力という自然の摂理に従って悪いことはなにもないのだから。
文:TIME & SPACE編集部