2017/11/08
カリスマ保育士・てぃ先生が教えてくれる『上手なスマホ育児』のコツとは?
都内の保育園で現役男性保育士として働く「てぃ先生」をご存知でしょうか。
Twitterで園児との日常やほっこりするエピソードをつぶやき、今やフォロワーは44万人以上。大きな注目を集め、書籍化、漫画化もされるほどのカリスマ保育士です。
最近では、自身で始めた「顧問保育士」という保育園へのコンサルティングやアドバイザーとして、講演や取材の依頼が殺到。もちろん、本業の保育士としても勤務を続けながら、多忙な毎日を送っています。
自身がパソコンやスマホを駆使し、「スマホ育児は悪ではない」と、新しい時代の子育てについて発信を続けるてぃ先生。子育てとデジタルテクノロジーの上手な関わり方について聞いてきました。
「てぃ先生」が生まれたきっかけとは
――そもそも、てぃ先生が保育士になったきっかけとは?
「自分の父親を見ていて、スーツを着たいわゆるサラリーマンってあまり楽しくなさそうだなと思っていたんです。それよりも、ユニフォームのある専門職がいいなと。子どもが好きだったので、子どもと長く一緒に過ごせる専門職ということで、保育士の道に進もうと思いました」
――いつ頃からTwitterを始めたのですか?
「保育士を始めて5年経ったぐらいですね。当時、保育や子ども関連で世に出ている情報が、育児は大変だとか、保育士の給料が安いだとか、ネガティブなものばかりで。子どもってすごくかわいいし、保育はもっと楽しいんだということを伝えたくて始めました」
――Twitterでは、園児との日常のエピソードのほかに、保育業界への問題提起や独自の意見も展開していますね。
「10年前に保育士を始めた時から、この業界って保守的というか、体制が昔のままなんだなと思っていました。最初は楽しいエピソードを載せたくてTwitterを始めたのですが、最近はいろいろと自分が気になることもつぶやいています。
たとえば、保育士の待遇が取り沙汰されていますが、問題はお給料の金額ではなく、金額に対しての負担が大きすぎることだと僕は思うんです。これは社会が誤解しているなと。園内の飾り付け、保育日誌などをすべて手作業で行っている保育園が多いことで、負担が増大しているんです。
業界全体でスマホの活用をはじめとしたデジタル化がもっとすすんでいけば、仕事はもっと効率化するはずです。Twitterを通じて、現場からこういう声を発することで、少しでも変わっていけばいいなと思っているんです」
電車で子どもにスマホを見せてもOK!
――てぃ先生の「電車で子どもにスマホを見せてもOK!」といったつぶやきが注目されています。子どもとデジタルとの関わりについて、てぃ先生は率直にどう思われますか?
「時代が時代ですからね。中学生、高校生になって周りが当たり前のようにスマホをいじっているなかで、使い方も知らない、知識もないという方が危険な気がします。子ども自身も劣等感を感じるんじゃないかな。
大人だって、今やパソコンやスマホは生活のうえでも、仕事のうえでも欠かせませんよね。大人が、古き良き……みたいな先入観で、『スマホをいじる暇があったら外で遊びなさい』なんて言うのは、僕はちょっと違うかなと思うんです」
――幼児期のスマホ利用についても問題なし、でしょうか? 親が電車で子どもにスマホを見せていることに、批判の声も多いと思いますが……。
「僕は、お父さんお母さんが、電車で子どもにスマホを見せてもいいと思っています。子どもを連れたお出かけの時って、ものすごい荷物になるんですよね。オムツ、ミルク、着替え、絵本やおもちゃ。オムツや着替えは仕方ないとしても、子どもをあやすグッズはスマホで代用ができるんです。
それに、電車の中で子どもが騒いだら、みんなが嫌な顔をするんですよ。お父さんお母さんは周りに気を遣ってしんどいと思います。そのストレスを軽くするための手段として、決して悪いとは思いません」
――そう言ってもらえると、育児中のお父さん、お母さんは心が軽くなると思います。
「ただ、もちろん使い方には気をつけてくださいね。僕が子どもに対してよく言うのは『機械と仲良くなろう』。目への悪影響などのデメリットもあるので、依存しすぎるのはやっぱりよくはないと思います。
親が教えるべきことは、パソコンやスマホなどのデジタルとの『上手な付き合い方』なのではないかなと思います」
動画を見たら、必ず子どもに感想を聞く
――「機械と仲良くなる」にはどうすればいいのでしょうか? 子どもってハマってしまうと何時間も動画を見たり、ゲームをし続けることも少なくないと思います。
「時間については、各家庭ごとに必要な時間は違うと思うので、一概に長いことがダメだとは思いません。あの家庭が15分だからうちも15分、などと考えず、家庭ごとにルールを決めるほうがいいと思います。
それよりも、僕は見せる内容に気をつけたほうがいいと思いますね。たとえば、お魚や動物、乗り物などなんでもいいけれど、それを見ることでなにかを得られるような内容の動画であれば、子どもの好奇心を上手に刺激できるし、お父さん、お母さんの罪悪感も少なくなりますよね。
とはいえ、そんな動画ばかりではありません。知っている親御さんも多いと思いますが、子どもがおもちゃで遊んでるYouTubeの動画のシリーズとか、子どもは大好きなんですよ。親からすると微妙なんだけど、関連動画が出てくるもんだから次々続けて見ていたりして(笑)」
――うちも経験があります。あの中毒性は子どもにしかわからないですよね。一体どうすればいいんでしょう?
「最近僕がよく言っているのは、どんな動画でも、見せたあとに必ず『子どもに感想を聞く』ということ。聞くと、子どもなりに解釈して、それを発信するわけですよね。子ども自身もおもしろい理由が理解できたり、記憶を辿れたり、親とのコミュニケーションにもなる。感想を聞くだけで、教育になるんです。これはおすすめです」
――てぃ先生も、水族館と飛行機の360°動画を制作して、アップしていますよね。
「せっかく動画を見せる機会があるなら、お父さん、お母さんが安心して見せられる動画を提案したいなと思って始めました。子どもがただ見ているだけではなく、自分で動かして参加できる。動画を見ることがアクティビティになるといいなと思って360°動画にしてみました。
あとは、動画にきりんのマークをつけているのですが、これは『てぃ先生の、きりんちゃんのマークがついている動画だけ見ようね』という、親御さんとお子さんのお約束にもなるかなと思ってつけてみたんです。まだ2本なのであまり意味がないのですが、もっと本数が溜まったら、そんな展開もできるかなと期待しています。
ただ、最初の2本は画質があまり良くなくて。最近、いい画質で撮影できるカメラを手に入れたので、次は4Kでお会いしましょう(笑)」
『ながら育児』ではなく、15分でも向き合う時間を
――てぃ先生といえば、園児との心温まるエピソードが人気ですが、まだ未公開のものがあればぜひ教えてください!
「3歳児のクラスで、病院ごっこが流行っているんです。“聴診器でもしもし”ではなく、どこで覚えてきたのか手術ごっこをするんです。先生来て! と言われるんですけど、いつも病人の役は癪だなと思って、元気なままで行ったんです。
そうしたら『え〜ここ病院なんですけど。じゃあ、腕を出して下さい。病気になる薬を入れます』って。注射されて病人になっちゃいました(笑)。かわいいけど、かなりブラックですよね。子どもって本当に枠外だなと思います」
――エピソードはどのように記録しているのですか?
「なにかあると休憩中・退勤後にスマホにメモしています。これはTwitter用ではなくて、もともと親御さんに子どもたちの様子を詳細に伝えたいなと思って始めました。
子どもの言動って実は文字だけでは表現しきれないことも多くて、動画ならもっと伝わるし、おもしろいですけどね。10万いいね! ぐらいついちゃうエピソードだらけですから(笑)」
――仕事が忙しくて、こんなかわいい子どもの姿をなかなか見られないお父さん、お母さんもいると思います。多忙ななかでも、子どもと濃いコミュニケーションを取るために、ぜひアドバイスをお願いします!
「僕がお父さん、お母さんを見ていて思うのは、『ながら子育て』はあまり良くないなということ。パソコンで仕事をしながら、料理をしながら子どもを見ているつもりでも、それを何時間も続けたところで子どもは満足しないと思います。
できれば、1日30分でも15分でもいいので、すべてを置いてしっかり子どもと遊ぶ時間を持つと、お互いの満足度はかなり変わってきます。子どもがやりたいことがあればそれに付き合うのもいいし、大事なことはスキンシップを取ることです。膝に抱っこして絵本を読んだり、手を握ってお話をしたり。
その際に、子どもだけに話を聞くのではなくて、お父さん、お母さんの仕事のこと、友達のことなどなんでもいいので話してあげてください。子どもって大人の話が大好きなので、それだけでもすごく楽しい時間になると思いますよ」
Twitterでのほっこりエピソードそのままに、やさしい笑顔が素敵なてぃ先生。実際にお話を伺うと、やさしいだけではなく、鋭い視点や、保育業界へのさまざまな提言を持っていることが印象的でした。現場から今の保育をもっと良くしてくれるかも……! そんな期待を抱かせてくれるてぃ先生の活躍に、これからも注目です。
文: 野々山幸(TAPE)
撮影:遠藤貴也
てぃ先生
都内の保育園に勤務する現役保育士。1987年生まれ。Twitter(@_HappyBoy)のフォロワーは43万人以上。顧問保育士の肩書きで保育園のコンサルティング、アドバイザーや、講演、取材、執筆など幅広く活躍中。これまで覆面で活動していたが、「発言に説得力をもたせたい」という思いから、今年から顔を出しての活動を開始し、新たに会社を設立。著書に『ほぉ…、ここがちきゅうのほいくえんか。』、『ハンバーガグー!』(KKベストセラーズ)。漫画『てぃ先生』(KADOKAWA/メディアファクトリー)の新刊6巻発売中。