2016/02/22

次世代通信システム『5G』で、私たちの生活はどう変わるの?

スマートフォンやケータイに限らず、さまざまなモノがインターネットに接続され始めた今の時代。このまま端末が増えれば増えるほど、ますます通信インフラの重要性が高まってくる。そんな未来の暮らしを支える次世代通信システムが「5G(第5世代移動通信)」だ。これまでとどこが変わるのか? 速度が速くなるだけではないのか? 何ができるようになるのか? など、なかなか難しい電波の話を、KDDIの担当者に聞いた――

なぜ5Gが必要なのか。3つの理由

――私達が携帯電話などで利用している4G(第4世代)という無線ネットワークが、近い将来、新しく5G(第5世代)に変わるそうですね。なぜですか?

松永 彰(技術開発本部シニアディレクター) 3つの理由があるんです。1つ目は、いま皆さんがスマホなどで観ている動画などの画質をもっときめ細かくしたり、ダウンロードをもっと速くできるようにしたり、動画をあらゆる角度から観ることができるKDDIの3D自由視点テレビを楽しめるようにしたりなど、さらに使い勝手をよくして便利にするためです。そのためには、通信速度を今の10倍以上に高める必要があります。

2つ目は、家電や車などのIoT(モノのインターネット)のように、これまで無線ネットワークにつながっていなかったさまざまなものが、ネットワークにつながるようになるので、一度につなぐことができる通信機器の数を大幅に増やす必要があるんです。

3つ目は、つながる機器の数が増え、種類も増加することでサービスが多様化します。そうなると、用途によっては4Gでは実現できないほど通信のタイムラグを減らす必要が出てくるなど、ネットワークの新しい性能が求められるようになります。こういった理由で、4Gから5Gへとネットワークを進化させる必要があるんです。

これまで4G LTEが行ってきた通信回線の高速化は、たとえるなら高速道路の車線を増やすようなもの。それに対し、5Gではこれまで使われていなかった周波数帯域を活用することで、道路自体を増やし、交通量を分散させて高速(大容量)通信を実現する

――これまでつながっていなかったものがつながるということですが、どんなものがつながるのですか?

畑川 養幸(コンシューマ事業企画部課長補佐) 今、身のまわりに存在するあらゆるものが、ネットワークにつながっていくと思います。たとえば2歳くらいのお子さんの靴に通信モジュールが入っていて、親が目を離した隙にどこかへ行こうとしたら、親のウエアラブルデバイスを通してアラームで教えてくれる。さらに、子どもの周囲を通行する自転車や車にも、危険を知らせてくれる。そんな技術が実現すれば、親も子どもももっと自由になれますよね。

他にも、雨が降る予報の日は、玄関にある傘立てが光って傘を持っていくように促してくれるとか。一部はすでに始まっていますが、ネットワークにつながるものが増え、それらが相互に作用することで利便性は飛躍的に高まりますので、今後つながるモノの数や種類は大幅に増えると見ています。

――道路にたとえると、車の数が増えすぎてにっちもさっちもいかなくなりそうだから、インフラをつくり直す必要があるということですか?

末柄 恭宏(KDDI研究所グループリーダー) そうですね。道路のたとえでいえば、4Gも立派な高速道路なんです。今までも車線を広げたりして改善してはきたのですが、車の量が2倍、3倍どころじゃなく、もっと増えそうだとなってくると、新しく別の高速道路を建設しなくてはならなくなった。それが5Gというわけです。

5Gが担うミッション「高速化」「低遅延」とは

――新しくつくる5Gはどんな高速道路なんですか?

松永 まずは、高速道路を新設するには土地が必要ですよね。その土地にあたるのが周波数帯なんです。4Gはおおよそ700MHzから3.5GHzの周波数の帯域を使って通信していましたが、5Gという高速道路をつくるために使う土地、つまり周波数帯は24GHzを超える、とっても高い周波数の利用が予定されています。「予定」と言ったのは、どの周波数帯を使うかというのを決める国際会議が2019年開催予定ですので、まだ正式に決まっていないからなんです。

――なるほど。5Gができると、4Gはどうなるんですか?

松永 4Gは、現在のスマホやルーター、タブレットのデータを流すうえでは、非常にうまくつくられています。5Gの時代になってもそういった通信機器は引き続き使われると思いますので、5Gが4Gに置き換わるというよりは、4Gが5Gの一部として取り込まれていくことになります。

――通信機器の数だけでなく種類も増えるというお話がありましたが、どのような工夫が必要になるんですか?

末柄 通信機器の種類は、高速道路を走る車の種類にたとえることができます。スマホやルーター、タブレットのデータが大半の4Gのネットワークでは、おもに大型トラックが交通量の大半を占めているイメージですね。一方、センサーなど通信機器の種類が増えると、色々な種類の車が高速道路を走るようになります。なかには救急車のように一刻を争うような車もあるかもしれません。そんな多種多様なデータを効率よく運ぶためには、高速道路の車線もたくさん必要ですし、交通整理もとても大切になります。

――交通整理ですか?

末柄 5Gはデータの用途に応じて最適な送り方をするんです。高速道路に登坂車線があるように、特別なデータが優先的に通れる車線をつくったり、渋滞しないよう臨機応変に車線変更を指示したりするようなイメージですね。そういう技術も確立していかなければなりません。

5Gの通信システムでは、道路の数が増え、通行する車(通信機器)の数や種類も大幅に増加する。そのため、事故や渋滞などの回避がこれまで以上に重要になり、道路にヒビが入ることを事前に予測して補修したり、時間帯によって通行できる車種を制限したりといった交通整理をネットワーク内のA.I(人工知能)が担うようになる

林 通秋(KDDI研究所グループリーダー) 5Gでは、ネットワークの 「交通事故」を予防することが非常に大事です。

――交通事故を予防できるんですか?

 はい。ハードウェアが故障したり、システムを動かしているプログラムがおかしくなることも想定しないといけません。5Gでは、4Gだけのときとは比べものにならないほど膨大な量のトラフィックが発生しますので、事故が起こってトラフィックが止まるととても大きなインパクトを社会に与えてしまいます。ですから、事故が起こる前に事故が起こりそうな場所を事前に見つけることが必要になるんですね。

――そんな「予見」みたいなことをどうやって行うのでしょう?

 "オーケストレーション"という、私達が研究開発してきた技術がそれを実現できます。これまではネットワークの中央にある監視システムが、故障をしたという警報を受けてから対処していたのですが、それでは間に合いません。そこで自分で学習できる人工知能をネットワークのいろんなところに配置して、徹底的に観察させるんです。

少しでもおかしな兆候が見てとれたら、人工知能は故障が予測される場所をオーケストレーターというシステムに報告します。オーケストレーターは自動的に対策プランをつくり上げ、実際に故障が発生する前に、その場所にデータが流れないようにしたり、故障を未然に防ぐプログラムを実行したりするわけです。

道路のたとえで言えば、ヒビが入りそうな路面を人工知能が見つけると、実際にヒビが入って通れなくなる前に、その場所を通らなくていいように誘導し、別の車線や高速道路を使うように指示したりするというイメージでしょうか。

5Gで変わる私たちの未来

――5Gがスタートするのはいつごろですか?

松永 2020年ごろにはスタートさせたいと思っています。

――ワクワクしますね。5Gになると、実際、どんなふうに私達の生活は変わるんでしょうか?

畑川 今はネットでニュースを読んだり、メールを読んだりするには、ネットワークの世界にスマホで自分から能動的にアクセスする必要がありますよね。5Gの時代になると、様々なモノが通信ネットワークにつながることで、スマホを取り出して操作したりしなくても、無意識のうちに必要な情報が手に入るようになるでしょう。つまり、ネットワークの世界と現実の世界の境界が無くなって結び付くんです。

5Gの時代になると、様々なモノが通信ネットワークにつながることで、スマホを取り出して操作したりしなくても、無意識のうちに必要な情報が手に入るようになる

具体的に言えば、腕時計型や眼鏡型のウエアラブル端末が主流になって、それで通話もできれば動画も見られるようになるでしょうし、そこにいろんな情報が自動的に流れてきたりするんじゃないでしょうか。歩いていると「この先、工事中ですから回り道してください」とか、ホームで電車を待っていると「1本あとの電車のほうが空いていますよ」などと勝手に教えてくれたり。

こういったことは、社会のさまざまなところにセンサーが置かれ、5Gのネットワークにその情報が乗ることで初めて実現できるんですよね。スポーツ観戦の仕方も変わるかもしれませんね。たとえば、サッカー選手に心拍数などを計るセンサーを取り付けて、そこから5Gに情報が流れるようにしておきます。そしてその情報が映像とともともに、視聴者のウエアラブルデバイスを通して伝わることで、選手の緊迫感を自分自身も体感しながら、試合を観戦できるかもしれません。

5Gでは、歩きながら道路や店の混雑状況を事前にキャッチし、効率よく目的地に到着できるという

スポーツ選手の心拍数を視聴者が同時に体感しながら、より臨場感あるスポーツ観戦が可能となるかもしれない

――近未来社会があと数年でやって来るんですね。

畑川 はい。ものすごい進化のスピードです。2、3年でガラリと変わってしまいますから。ネットワーク以外にもさまざまなイノベーションが必要ですが、その土台には、5Gというインフラがあるわけです。そのインフラがしっかりしていないと、イノベーションを阻害することにもなり、社会の発展にマイナスの影響を与えかねません。そういった意味では、私達の役割は社会の根幹を支えるとても大事なものなんですね。

――責任重大なんですね。今日のお話で、5G時代のイメージがなんとなくつかめたような気がします。ありがとうございました!

今回お話をうかがった4名。右から、末柄恭宏(KDDI研究所グループリーダー)、松永 彰(技術開発本部シニアディレクター)、畑川養幸(コンシューマ事業企画部課長補佐)、林 通秋(KDDI研究所グループリーダー)

文:太田 穣、T&S編集部
絵:中村 隆

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