2017/07/12

『カオス絵日記』が話題に! 25万人をとりこにするイラストレーター、パントビスコ その魅力の正体は?

ハッとするほどのイケメンに惹かれて、「誰コレ?」とクリックしたみなさん。実は彼、SNSで話題沸騰中の超人気クリエイターなのである。

名前は「Pantovisco(パントビスコ)」。

2014年秋頃から始めたという手描きイラスト日記は、その味のあるタッチが話題を呼んでSNSでブレイク。その後も劇画調のものからほのぼの系まで、さまざまなタッチの作品と絶妙に笑いのツボをつく作品が評判を呼び、あれよあれよという間に約2年で25万人以上のフォロワーを獲得。

日本国内のInstagramランキング(イラストレーター部門)では第5位、個人総合ランキングでは1,800万人中第300位に輝くほど注目を集め、現在はSNSの枠を飛び越えて雑誌や書籍、アニメーションやアパレルブランドとコラボするなど、活動の幅を広げている。

はたして、彼は何者なのだろうか。そしてなぜ人々は彼の作品にハマってしまうのか? その魅力の正体を明らかにするべく、本人にインタビューを行った。

始まりは『カオス絵日記』

――巷では“謎”のクリエイターと呼ばれていて、プライベートな部分はあまり見かけませんが、普段はなにをされているんですか?

「基本的に、イラストを描くなどしてクリエイターとして暮らしています。一応、会社員としても働いていますが、パーソナルな部分はこれ以上お話できないんです。理由は後ほどお話します」

――ウワサ通り謎めいていますね。では、Instagramにイラストを投稿するようになったきっかけを教えてください。

「もともとイラストを描くのは好きで、始めの頃は日記帳に日々のできごとを元におもしろおかしく描いた、『カオス絵日記』というネタをFacebookに投稿していました。そのときは友達限定で公開していて、身内ネタが多めでしたね。

投稿を続けていたある日、知り合いから『これはもっと外に出した方がいいよ!』と助言をもらって。それで、当時流行り出していたInstagramに投稿するようになりました」

「カオス絵日記」より。パントビスコさんとカオスな“先生”とのやりとりが繰り広げられている。なお先生が情緒不安定になった日は“校長”が代筆するらしい

――それでInstagramに移行したんですね。

「そうです。Facebookでは、200人くらい友達がいるなかで、自分の投稿に反応してくれたのは2〜30人ほど。でも、Instagramではいろんな人から『いいね!』やコメントをもらえたので、うれしくなって発表の場を移しました」

――『カオス絵日記』は今も続いているんですか?

「毎日描いてますよ。最近、描き始めてから丸4年が経ちました。『カオス絵日記』はシュールで、コアなファン向きですが、これは自分のいちばんやりたいこと、おもしろいと思っていることがカタチになっている作品。今後も続けていきたいと思っています」

パントビスコさんの作業風景。道具は「普通の万年筆とクロッキー帳です。日記帳はジャポニカ学習帳をずっと使っています」

――現在の投稿は「カオス絵日記」以外にも、キャラクターものだったり、恋愛ものだったりとさまざまですが、そういった作品が生まれた理由は?

「Instagramを始めた当初は『カオス絵日記』のみの投稿でしたが、次第に男性向けに描いたものより女性向けに描いたものの方が『いいね!』の数が多いことに気づきました。それで自分なりに調査した結果、Instagramのユーザーは約65%が女性だということがわかったので、女性に共感してもらえそうな日常のあるあるネタなどを意識的に増やしていきました。

女性向けのコンテンツとしては、『ぺろち』や『にんにん』などのキャラクターが登場する『ヘチタケシリーズ』、『乙女に捧げるレクイエム』、『やめるシリーズ』、『LINEシリーズ』などがあります」

「ヘチタケシリーズ」より。左からタケノコ、にんにん、ヘチマ、ぺろち。ぬいぐるみやスマホケースなど、グッズ化もされている

素性を明かさなくてもいい

――各コンテンツはどうやって分類されているんですか?

「『ぺろち』や『にんにん』などのキャラクターや『LINEシリーズ』は、言葉遊びをコンセプトにおいた1コマ漫画です。恩座マユコちゃんという女性が登場するイラストは恋愛系。いちばん反響が多いのはLINEシリーズですね。これは多分、ツッコミどころが多いからだと思います」

「恩座マユコちゃんシリーズ」より

――ツッコミどころ、ですか?

「『LINEシリーズ』だったら、キャリアや未読の数に意味をもたせたり。ほかの作品にも、なにかしらツッコミどころをつくるようにしています。男性はツッコミどころを見つけても、ひとりで楽しむ傾向がありますが、女性はツッコミどころを見つけると、それを誰かと共有してくれるんです。

こちらが狙って描いた部分に対して的確なコメントがくるともちろんうれしいですけど、時にはこちらが予想していなかった角度のコメントをもらうこともあって。SNSは、そこがすごくおもしろいですね。イラストを投稿して完結ではなく、フォロワーさんのコメントとともに作品をつくりあげているように思います」

「LINEシリーズ」より『歴史上の人物とのLINE』

――イラストのアイディアはどこから生まれるんですか?

「『カオス絵日記』は、日々本当に起こったことや考えたことを元に描いているものですし、ほかのシリーズもすべて僕が思ったこと、感じたことをイラストに投影しています。

僕はもともと、人を笑わせたり楽しませることが好きでした。小さい頃は、吉田戦車先生の『伝染るんです。』とか、植田まさし先生の『かりあげクン』とか、ちょっとシュールなギャグ漫画を好んで読んでいました。

その頃は、おもしろいと思ったことを友達にボソッと言ったりしていましたが、大抵『また変なこと言ってる』みたいな感じで軽くいなされることが多くて。でも、当時とまったく変わらない内容をイラスト化すると、人に受け入れられるようになったんです」

――なぜ受け入れられるようになったんでしょう。

「イラストにすると、内容がソフトになるからだと思います。それに、僕がパーソナルな部分を隠していることも関係しているかもしれません。僕自身が言葉で伝えようとすると、相手は僕の内面に気を取られてしまい、伝えたい内容がうまく届かないことがあります。でも、言葉をイラスト化してキャラクターに代弁してもらえば、受け手側は僕自身に目を向けることもないので、内容のみを素直に受け取れることができるんです。

僕のプライベートを知られすぎると、フォロワーさんが作品を見る目もちょっと変わってしまうでしょうし。シンプルに作品だけを楽しんでもらうためにも、素性を明かさないことが大事だと思っています。まあ僕自身、ちょっとシャイな性格だからというのもありますけど(笑)」

47冊目に突入したクロッキー帳。「1カ月に1冊のペースで消費しています」

炎上しないコツは「誰も仲間はずれにしないこと」

――25万人以上のフォロワーがいますが、ほとんど炎上したことがないんじゃないでしょうか。

「そうですね。そこは自分自身すごく気を遣っています。ひとつネタができたら、誰かを傷つけない内容になっているかどうか必ず見返します。炎上するかしないかの分かれ目って、人を傷つける可能性があるかないかなんですよ。

たとえば、『お仕事頑張ってね』と描くと、『仕事をしてる人は偉くて、してない人は褒められる価値がないのか』と捉える人もいるかもしれない。物ごとをなにかに限定してしまうと、それ以外の人は疎外感を感じてしまうかもしれないんです。だから、もしそういうネタを描く場合は、『仕事も家事も育児も勉強も学校も全部頑張ってね』といった感じで、誰も仲間はずれにならないようにしています」

――炎上しがちな人に対してはどう思いますか?

「それもひとつの表現方法かもしれませんね。ただ、そういう人の作品は、見ている人たちの気持ちをささくれ立たせてしまう場合もありますよね。せっかくの作品が、嫌な気持ちの受け皿のようになるのはもったいない。もっと柔らかい表現で伝えたらいいのにな、とも思います」

――日常生活や仕事の場でも役立ちそうですね。その感覚はどうやって身につけたんでしょう。

「僕は誰にも嫌われたくないっていう思いが根底としてあるんです。だから、嫌われないためにも多方面に気を遣います。せっかくフォローしてもらったんですから、ストレスを与えるような作品を見せるのは違うなとも思いますしね。

その代償として、もしかしたら『パントビスコが大好き!』というコアなファンは付きづらいかもしれません。でも、僕はそれでいいと思っています。電車で移動しているときや休憩時間中に、スマホで僕のアカウントを見て、フフッて笑ってもらうくらいでいいんですよ」

「気軽に楽しんでくれれば、それでいいんです」と語るパントビスコさん

――スマホといえば、おすすめのアプリはありますか?

「僕のイラストを使った『ナデナデぺろち!』ですかね。犬の『ぺろち』を撫でるだけのシンプルなアプリですが、これも『癒される!』、『かわいい!』と結構好評です。本当に、ただ撫でるだけなんですけどね(笑)」

左/パントビスコさんのスマホのホーム画面。右/「ナデナデぺろち!」起動画面

「今年は、いろんな表現方法に挑戦したい」

――今、やってみたいネタはありますか?

「今までは女性に寄ったネタが多かったので、男性向けのネタを増やしてみようかなって思っています。あくまで僕の感覚は女性寄りなので、男性には『あるある!』と思ってもらいつつ、女性には『男性ってこういうことを考えてるんだ』みたいな、なにかしら得るものがあるネタ。『乙女に捧げるレクイエム』に対して、『男にまつわるセレナーデ』とかいいかもしれません(笑)」

――ぜひ見てみたいです。ただ、これ以上ネタが増えて管理できるんでしょうか。

「実際、いっぱいいっぱいで。これ以上ネタを増やすことが難しい状況なんです。ありがたいことにお仕事をたくさんいただいているので、イラストを描く時間を確保するために食事の誘いもなかなか行けない状態で。お酒を2杯飲んだら頭が回らないな、とか思っちゃうんです。

本当に、アシスタントを雇いたいくらいの忙しさで。フォトショップとイラストレーターが使えて、パワーポイントで簡単な資料がつくれて、今の仕事を辞めてでも手伝いたいという方がいたら、連絡もらえると助かります(笑)」

「パントビスコのインスタストーリー」より。投稿した動画や画像が24時間で自動消滅する「ストーリー(Stories)」というInstagramの機能に投稿されている作品。基本的に絵文字のみで構成されている

――最後に、今後の抱負をお聞かせください。

「以前から僕の作品を使って映像関連でなにかできないかとずっと考えていましたが、最近は映像に関する案件も徐々に増えてきました。こんな風に、映像に限らず、いろんな業種の人と僕の作品のマッチングが実現していければいいなと思います。いろんな表現方法にチャレンジして、新しくておもしろいものを生み出していきたいですね」

25万人以上のフォロワーがInstagramをチェックしているなか、今日もイラストをアップし続けるパントビスコさん。“人を楽しませたい”という気持ちと、他人に対する“優しさ”が作品から滲み出ているから、ここまで人気が集まったのだろう。まだ見ぬ新たな作品も、きっと私たちを笑わせ、そして楽しませてくれるに違いない。

文:服部桃子(アート・サプライ)
撮影:玉井幹郎

Pantovisco(パントビスコ)

フォロワー数25万人を抱えるInstagram上に、毎日「カオス絵日記」などの作品を投稿している謎のクリエイター。2016年には著書『あるあるカオス劇場 人生1コマファンタジー』『乙女に捧げるレクイエム』を出版。現在は雑誌・WEBで6つの連載を抱えるほか、企業コラボやTV出演など、業種・媒体を問わず活動している。