2022/09/26
伝統芸能「太神楽」を3Dでつなぐ。後世に伝えたい技術をKDDIがボリュメトリックで映像化
古くは神話の頃から神楽として生じ、江戸時代から人気を集めた日本の伝統芸能である「太神楽(だいかぐら)」。太神楽師が獅子舞で厄を払い、和傘で枡を回すなどの曲芸で福を呼ぶ姿は、お正月のテレビ番組やお祝いごとをする場などで目にしたことがあるのではないだろうか。
その伝統芸能「太神楽」の太神楽師である鏡味 味千代さんとKDDIが手を組み、先進技術であるボリュメトリックビデオを用いて、さまざまな技を3D映像で保存し、後世に伝えていく取り組みを始めた。
いったいなぜこの取り組みを始めたのか。伝統芸能の課題や取り組みの内容について、鏡味 味千代さんとKDDIの担当者に話を聞いた。
太神楽師 鏡味 味千代さん
伝統芸能「太神楽」における課題
―――あらためて太神楽とはどういうものか、教えていただけないでしょうか。
味千代さん:太神楽は、もともと伊勢神宮や熱田神宮など神社にお参りに行けない人の代わりに、地方の家々をまわって獅子舞などによる厄払いを起源とする神事芸能です。最初は近畿を発祥の地として周辺地域に広まっていましたが、江戸時代になって参勤交代とともに江戸に伝わり、近年になって寄席の世界に入りました。
当時は「太神楽」という言葉も、またその演目も、歌舞伎の題材になるほど誰もが知っている芸能でしたが、今では傘回しや獅子舞の芸は見たことあるけれども、それが太神楽であることを知っている人が少なくなってしまいました。
―――今では浅草演芸ホールなど、寄席が活動の中心なのでしょうか。
味千代さん:はい、当時は江戸の家々を廻っていたと言われていますが、関東大震災や空襲などでまわる家そのものがなくなってしまったことがきっかけで、時代とともに活動の場がだんだん変わっていきました。戦後、盛んだったのは、キャバレーと呼ばれるナイトクラブやショーなど、ステージでの娯楽です。そういう時代の流れのなかで、太神楽も獅子舞中心の演目からショーとして曲芸に重きがおかれるように変化。そしてまた時代が変わってキャバレーもなくなり、少しずつ寄席の世界の活動へと移って今に至ります。
―――芸の目的も、厄払いから見て楽しむものにだんだん変わってきたんですね。
味千代さん:その変遷とともに、今の課題としては芸の継承問題が出てきています。戦前は300人ほどの太神楽師がいましたが、今では太神楽曲芸協会に登録している人数も22名。そのなかでも師匠と呼べる「芸を教えられる人」の数が少なくなってきました。
また、歌舞伎などの舞台でやる芸能は映像が残っていることが多いのですが、太神楽は元々家々を廻る芸で、昔はスマホなどもなかったので、映像が残っていません。たとえば文献には羽子板を使った芸という記載がありましたが、それがどんなものかの記録映像がなく、今や誰も再現することができない状況です。
太神楽の芸はひとつの芸を覚えるのに、毎日稽古しても数年の年月を要します。この芸の継承問題に対し、どうにかして今ある技を残したいと考えていました。
ボリュメトリックビデオ×太神楽に期待するもの
山田:味千代さんからその話を聞いたときに、KDDIが培ってきた5Gやデジタル技術を伝統芸能の保存に生かすことができないかと考えました。
ボリュメトリックビデオというのは、人の動きを衣装も含めてそのまま3D化する技術です。
今まではスポーツ選手やアーティストなどエンターテインメントの世界を中心に映像化していたのですが、ボリュメトリックビデオは人にフォーカスした技術なので、太神楽の継承や技の面白さを伝えるのに使えるのではないかと考えました。
伝統の継承という点では、通常のカメラだとその撮った人が見た面の映像しか撮れないので、360度3Dで映像化できるボリュメトリックビデオは、技術の詳細をそのままに伝えることができるというメリットがあります。
味千代さん:この360度いろんな角度で見えるというのが資料映像としてとてもありがたいです。たとえば獅子舞は2人でやるものなのですが、芸を習う側からすると、正面だけでなく後ろや横から2人目がどう動いているかも見たいので、360度映像化できるこの技術が非常にありがたく感じます。
また、お祭りの舞や獅子舞などの芸能は路上が舞台になることも多く、周囲で見るお客さまから見た360度すべてが正面になることがありますので、演じる観点からも、どう動いたらどう見えるのかの確認にもなり、お客さま目線で練習する観点からも非常にありがたい技術です。
伝統芸能の立場から見た今後デジタルに期待すること
―――伝統芸能の立場から見て、今後ITやデジタルのチカラに期待することは何でしょうか?
味千代さん:ボリュメトリックビデオはスマホさえあれば誰でも簡単に見えるものですので、寄席に来ていただいているお客さまにも普段とは別の角度から太神楽を楽しんでもらうことができますし、場所も寄席の場に限らず家に帰っても楽しんでいただくことができます。
何よりデジタル化することで、日本の伝統芸能を世界中の人に簡単に紹介することができるようになることが嬉しく思います。伝統芸能は敷居が高いと思われがちですが、そこでどういうことをやっているのか、少しでも興味を持つ人に臨場感を持って、手軽に見える機会をつくることができるというのは、今後期待することのひとつです。今回のボリュメトリックビデオをきっかけに「これだったら見に行ってみようかな」という新たに興味をもってもらえるそのきっかけになると嬉しく思います。
また、その場にいなくても臨場感を持って体験することができるのがすごく大事で、特に伝統芸能のファンの方はお年寄りが多いのですが、寄席まで来ることができない人も多い状況です。そういう方もスマホの画面やスマートグラスを使って、自宅のリビングでも楽しむことができるという、エンターテインメントのバリアフリー化にもすごく期待しています。
3D映像化技術が進化する未来
―――KDDIとしては、今後どのような展開を考えているでしょうか。
山田:太神楽以外にも、伝統芸能の技の伝承や日本古来の文化の楽しさなどをボリュメトリックビデオを使って体験してもらえるコンテンツが用意できないかと考えています。ほかにも、スポーツ選手のフォームを学生に伝える環境など、教育シーンでの活用も検討しています。
3D映像を手軽に見られるという環境づくりの観点では、3D映像を見るのには専用アプリが必要なケースが多かったのですが、今回はスマホのブラウザのみで見ることができるようになったのも、大きなひとつの進化点です。ハードルをひとつなくすことができました。
この技術を活用すれば、ミュージカルのパンフレットや映画のチラシ、雑誌の一面などいろんなエンターテインメントにも転用できます。ほかにも暑中見舞いや年賀状で使うなど、アナログなものにスマホのカメラをかざして見るという体験は今もよくあるものですが、3Dと掛け合わせることでまた新しい価値を付与し、新しい映像コミュニケーションを提案できるのではないかと考えています。
―――KDDIはこれまで通信のチカラでコミュニケーションを中心に人々をつなげてきた。これからもITや通信のチカラを駆使し、現在と未来、人と文化をつないで守っていく。
文・撮影:TIME&SPACE編集部
撮影場所:浅草演芸ホール
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