2022/04/28

エリア定額乗り放題の「mobi(モビ)」に乗ってみた 新たな近距離移動サービスの可能性は?

雨の日や、荷物が多いときなど徒歩での移動に不便を感じたことはないだろうか。また、新しい生活様式となり自宅周辺で過ごす時間が増えた方も多いだろう。そのような状況で、「ラストワンマイル」と呼ばれる最寄り駅やバス停から自宅などの最終目的地までの近い区間や、暮らしのなかのちょっとした移動といった近距離を回遊する移動手段のニーズが高まっている。

エリア定額乗り放題「mobi」

そんななかKDDIと、バス・鉄道からAIオンデマンド交通や自動運転などの新たなモビリティサービスまでさまざまな移動サービスを手がけるWILLERは、半径約2km圏内で気軽に使える定額乗り放題のモビリティサービス「mobi(モビ)」を共同で2022年1月から提供開始。2022年4月には全国展開を見据えて「Community Mobility株式会社」を合弁会社とし始動した。

この記事では実際に「mobi」に乗車して、使い心地やサービス内容を紹介。さらに、通信会社のKDDIが「移動」というサービスに参画した背景や、新たな移動体験のビジョンを伝える。

「mobi」を体験

エリア定額乗り放題の相乗り交通「mobi」とは?

まずは「mobi」の基本的なサービスを紹介しよう。

「mobi」はエリア定額乗り放題の相乗り交通だ。アプリや電話で配車でき、半径約2kmを目安としたエリア内を出発地から目的地へと効率よく移動できる。

「mobi(モビ)Community Mobility」アプリ 「mobi(モビ)Community Mobility」アプリの画面

各エリアには乗降スポットがいくつも設定されており、ユーザーは好きな乗降スポットを選んで自由に乗り降りできる。別のユーザーと相乗りになるため乗合バスのようでありながら、乗降場所がより身近で時刻表もないため、自分の都合に合わせて利用しやすい。

現在の運行エリアは、東京都渋谷区、豊島区、名古屋市千種区、大阪市北区・福島区、京丹後市、海外ではシンガポール、ベトナム・ハノイといった8地域の、近距離移動する人が多いエリアだ。(2022年4月時点)。

「mobi」の渋谷区の運行エリア

価格は、定額乗り放題プランが30日間5,000円。家族オプションでひとりあたり+500円で契約者の家族も利用できる。たとえば夫婦と子どもの3人家族なら、6,000円で家族みんなが乗り放題に(最大6名様まで登録可)。定額利用以外に1回あたり大人300円、子ども150円で利用することも可能だ。

渋谷区在住のライターが「mobi」に乗ってみた

ここからは渋谷区在住、二児の父である筆者が渋谷エリアの「mobi」に乗車して使い心地を紹介していこう。

「mobi(モビ)Community Mobility」アプリをダウンロードして名前やメールアドレスなどの情報を設定。アプリを開くと、地図の運行エリアにある乗降スポットと車両の現在地が表示された。渋谷区エリアには163もの乗降スポットがあり(2022年4月時点)、車両がどこを走っているのかがリアルタイムでわかる。

「mobi(モビ)Community Mobility」アプリ 「mobi(モビ)Community Mobility」アプリの画面。地図上のmが乗降スポット

今回は渋谷駅の南西、「渋谷ストリーム」付近から乗車してみた。

渋谷駅で「mobi」を呼ぶ

体験乗車として、「渋谷駅から松濤にある美術館に行き、子どもを習い事教室へお迎えに行って、買い物をして代々木上原の自宅に帰る」という想定で乗ってみた。まずはアプリで乗車位置を決定し、目的地には松濤周辺を設定。

「mobi(モビ)Community Mobility」アプリ

乗車人数を確定して、配車手続きをすると8分後に「mobi」が到着する予定と表示された。あとは決済方法を選択して[mobiを呼ぶ]をタップ。

「mobi(モビ)Community Mobility」アプリ

近くを走る「mobi」とマッチングが成功し、アプリにはこちらに向かっている車両情報が表示される。ドライバーにメッセージや電話もできるので安心だ。ちなみに、この時点でキャンセルも可能だ。

「mobi(モビ)Community Mobility」アプリ

待つこと約8分。「渋谷ストリーム」付近の乗降スポットに「mobi」がやって来た。車両の側面にあるロゴが目印だ。

「mobi」が到着

アプリの画面をドライバーに見せて、いざ乗車。松濤に向けて出発だ。車両はトヨタの「アルファード」(※)、7人乗りで座席が広くて快適だ。
※エリアによって車種は異なります。

「mobi」に乗車

渋谷エリアを運行している車両の車内にはスマホの充電ケーブルがあるので、移動中に充電できるのがうれしい。ドリンクホルダーも装備されている。

「mobi」の車内

目的地までの道筋は、ほかの人の予約状況や道路状況を考慮してAIが提示する最適なルートに沿って、走行してくれる。今回は道が混雑しておらず、10分弱で松濤の乗降スポットに到着した。

支払いは、定額プランならアプリ内でクレジットカード決済または口座振替のため、支払いの手間もなく降車できる。1回利用の場合は、降車時に現金支払またはアプリ内のクレジットカード決済で300円を支払えばOK。

「mobi」が到着

ちなみに、今回降りた松濤は、渋谷駅から約1km離れていて、歩くと15分ほどかかり、バスは本数が限られていて交通の便が悪い。その点「mobi」なら渋谷駅からピンポイントで向かえるのだ。

さて、美術館のあとは、松濤から北に約1km強離れた富ヶ谷の習い事教室に子どもを迎えに行こうと思うが、上り坂になっていて徒歩で向かうと15分ほどかかる。再びスマホで「mobi」を呼び出して、目的地を富ヶ谷付近に設定して待つこと約10分、やって来た車両に乗り込む。

「mobi」に乗車

富ヶ谷へ向かう途中にドライバーさんが、このあとに他のお客様が乗車するので予定ルートを少し変更する、と教えてくれた。

「奥渋」エリア

お洒落なカフェやギャラリーなどが立ち並ぶ奥渋谷の近辺を走っていると、新たな乗客が待っていた。

「mobi」に相乗り

「mobi」は相乗りサービスのため、途中で別の乗客がマッチングした場合は、その乗降スポットを通りながら、自分が定めた目的地に向かう。そのため予定のルートから変更して、少し遠回りすることもある。

「mobi」に相乗り

予定よりも6分ほど遅れて、富ヶ谷付近へと到着。筆者のみ先に降りる。

「mobi」を降車

ここでは習い事の教室に子どもを迎えに行き、その後、少し離れたスーパーへ寄って買い物をする。再びスマホで「mobi」を呼び出して、約10分後にやって来た「mobi」に乗車する。

「mobi」に乗車

5分程度走り、すんなりと1km弱離れた富ヶ谷交差点へ到着した。

「mobi」を降車

子どもを連れての買い物や移動は大変だ。普段であれば、まず自分と子どもの荷物で手が塞がり、自転車やベビーカーに子どもを乗せるのもひと苦労。買い物を済ませて、物が増えた状態で、再び子どもを自転車やベビーカーに乗せてぐったり。そこからようやく帰路につく。

しかし、今日は「mobi」があるから移動は簡単。買い物のあとは代々木上原の自宅に帰る。ここでも「mobi」を呼び出し、代々木上原駅に目的地を設定。10分ほどして到着した車両に乗り込む。ベビーカーがあったとしても、たたんで乗せることも可能だ(※)。
※運行エリアや車両タイプ、乗車状況によってはお断りすることもございます。

「mobi」に乗車

これで幼い子ども(※)や自分たちの荷物、スーパーで買った物も運んでくれるのだから、とてつもなくラクである。今回のように、回遊しながら移動するときも「mobi」が役立ちそうだ。約7分程度で代々木上原駅に到着し、乗車体験は終了した。
※mobiでは、タクシーやバスと同様にチャイルドシートの着用義務が免除されています。

「mobi」を降車

実際に「mobi」を使用した感想は?

「mobi」を使ってまず驚いたのは、道路幅や停車位置などを踏まえて、乗降スポットがきめ細やかに数多く設置されていること。これなら近くの乗降スポットがすぐに見つかるし、住宅街など大通りから離れた場所でも目的地に設定しやすい。

「mobi」の乗降スポット

また、渋谷区は、渋谷駅から松濤や富ヶ谷、代々木上原といった南北方向の移動は電車1本での行き来ができないなど公共の移動手段が少なく、交通の便はあまり良くない。そのため筆者は普段、自転車移動が中心だが、雨の日に子どもの保育園や習い事の送迎は難しく、10分以上歩くこともある。そんなときに「mobi」で近距離移動ができればスムーズだ。

とはいえ、交通状況に依ってはアプリで「mobi」を呼んでから到着まで予定よりも時間がかかったり、相乗りで寄り道したりすることもあるので、時間の余裕は見ておいたほうがいいだろう。混む時間を避けて使うのも手。また、渋谷区のなかでも対象エリア以外だと「mobi」は走らないので、注意が必要だ。

自宅や職場、子どもの保育園や習い事、買い物や銀行など、渋谷区での半径2km以内の近距離移動のニーズは多いだろう。普段から頻繫に行く場所がたくさんあれば、月額5,000円でおトクに利用できるし、300円の1回払いもリーズナブルで使い勝手が良い。筆者もこれを機に、渋谷エリアで移動する場所や頻度を家族と相談して、定額プランを検討してみたい。

通信会社が「移動」のためにできることとは?

ここからはKDDIとWILLERが共同で「mobi」の利用を開始した背景や、サービスから見えてきた課題や将来のビジョンを、2022年4月から始動したCommunity Mobility株式会社の松浦年晃さんと菊池美緒さんに聞いた。

Community Mobility株式会社 代表取締役副社長 松浦年晃さん、取締役 菊池美緒さん Community Mobility株式会社 代表取締役副社長 松浦年晃さん、取締役 菊池美緒さん

――まずは通信会社であるKDDIが「mobi」という移動サービスに取り組むことになった背景を教えてください。

Community Mobility株式会社 代表取締役副社長 松浦年晃さん Community Mobility株式会社 代表取締役副社長 松浦年晃さん

「KDDIでは私が所属していた2年前から、ITを活用してあらゆる移動をシームレスにつなげる次世代交通サービス『MaaS(Mobility as a Service)』に取り組んできました。通信データを活用して、より効率的に、より便利に、行きたいところにすぐ行ける、そんな新しい移動の在り方を検討するなかで、MaaSの最先端を行くWILLERさんに出会い、2022年1月から『mobi』の共同利用をはじめ、新しいサービスを共創することになりました。WILLERさんの、移動をベースとしたマーケティングのノウハウと、KDDIが持つ位置情報のビッグデータなどは非常に親和性が高いと思います」(松浦年晃さん)

「WILLERでは『人の移動に新たな価値を創造することでライフスタイルを豊かにする』というビジョンを掲げています。その手段として高速バス事業や鉄道事業などを展開してきましたが、公共交通の利便性向上において自宅から半径約2kmの生活圏の『ラストワンマイル』における移動のピースが欠けていたため、『mobi』の事業をスタートしました。暮らしに密着した移動サービスの『mobi』ですが、移動に関するデータが足りない部分があり、KDDIさんの持つデータがサービス向上につながるのではないかと考えています」(菊池美緒さん)

――KDDIがデータを提供することで、「mobi」はどう発展していくのでしょう?

Community Mobility株式会社 取締役 菊池美緒さん Community Mobility株式会社 取締役 菊池美緒さん

「たとえば、乗降スポットの策定に活用できます。最初に“仮想的な停留所”である乗降スポットを設定する際、スタッフが利用者の気持ちや立場になり、幅広い年代の方が歩く距離としてストレスを感じない距離を200〜300mと考え、現地をすべてまわって乗降スポットを決めていきました。そのうえで、お客さまの声を反映して2、3週間ごとに、より最適な乗降スポットにアップデートしています。

「mobi」の乗降スポット 渋谷駅前スクランブル交差点近くの乗降スポット

今後、『mobi』のエリアを広げて全国展開していくためには、すべての地域をスタッフが調査して乗降スポットを設定するのは難しい。そこで、KDDIさんの人流データを活用して道路単位の人の移動量などを参考にすれば、新たにサービスを提供するエリアでも乗降スポットの最適な配置を効率的に決めることができるはずです」(菊池美緒さん)

「大前提として、人流データを活用して、エリアや乗降スポットなどを決めていきますが、その後にお客さまの声を反映して、最適なものにチューニングしていくプロセスは変わりません。また、KDDIは全国で60を超える自治体と地域連携協定を締結していますし、約2,300店舗のauショップもあります。そういったお客さまとの接点からも新たなニーズをくみ取っていきたいですね」(松浦年晃さん)

地方の“移動格差”を「mobi」で解決したい

――「mobi」のサービスを開始して、見えてきた課題はありますか?

「すでに『mobi』の運行エリアとなっている京都府の京丹後市は移動のメインが自家用車で、そこでは自家用車で子供の送迎をしたり、飲み会帰りの家族を迎えに行っていたりすることが多く、家族の負担が想像以上に大きいことがわかってきました。そういった際に『mobi』を利用していただくことで、家族の送迎をする方々の送迎の負担を減らすことができます。

また、意外と地方部では高校生の利用者が多いことがわかりました。両親が会員になって子どもが利用しているケースです。公共交通機関が少ない地方部では1時間に1本しか来ない電車やバスを待つことがあり、自転車で移動できる距離が自分たちの生活範囲になりがちです。高校生が『mobi』を利用することで、少し離れた駅や友だちの家などに気軽かつ安全に行けるので、行動範囲を広げることができます」(菊池美緒さん)

京丹後 京丹後市の久美浜町

「いまは移動に関わる地域課題が増えており、地域によっては、人口減少により路線バスが廃止され、高齢者が移動手段を失ってしまうというケースもあります。私自身、先日、3年ぶりに実家に帰省したら、叔父が高齢で免許を返納しクルマを手放していて、少し寂しそうに見えました。公共交通機関が少ない地域ではクルマがなければ出かけることが難しくなります。自分が外出したくても、送迎をお願いするために、家族や知り合いの顔色を伺うこともあります。家族や誰かに頼らなくても、自分ひとりで行きたいところに行くことができる生活になってほしい。そのために『mobi』のエリアを広げて、多くの方々にこのサービスを届けていきたいです」(松浦年晃さん)

「マイカーを持っている人や、持たない人、私のように運転が苦手であえて持たない選択肢を選ぶ人もいます。さまざまな年代や立場の人に寄り添いながら、『mobi』によって移動に対するあらゆる障壁をなくしていくのが目標です。自由にお出かけする機会が増えれば、人の出会いや交流が促進されて、消費が生まれて、地域の活性化にもつながるはず。

ただ、これは『mobi』だけでは完結しなくて、マイカーや電車、バス、タクシーなどを組み合わせて補完し合うことで、人の移動が便利な世の中が実現する。『mobi』のコンセプトはCommunity Mobility(コミュニティ・モビリティ)で、コミュニティづくりを支援するための移動サービスなんです。今後はKDDIさんと共創することで、全国のみなさんにこのサービスを届けていきたいと思います」(菊池美緒さん)

2022年4月1日に両社は合弁会社「Community Mobility株式会社」を始動。松浦さんと菊池さんは同じ会社の一員として「mobi」の全国展開を目指して活動している。

「mobi」で運行している車両 「mobi」で運行している車両

交通課題や移動のニーズが多様化するなかでも、人々がどこかへ移動することは変わらない。ベビーカーを押す人も、通勤通学をする人も、運転するのが難しくなってきた人も。誰にとっても、安心して自由に外出できる生活の実現を目指し、KDDIは「移動を、感動に変えてゆく。」をコンセプトに、新たなモビリティサービスを活用して地域の暮らしをつないでいく。

文:TIME&SPACE編集部
撮影:瀬谷壮士

※掲載されたKDDIの商品・サービスに関する情報は、掲載日現在のものです。商品・サービスの料金、サービスの内容・仕様などの情報は予告なしに変更されることがありますので、あらかじめご了承ください。