2022/03/28

au 5Gエリアができるまでの工程は?企画から設計、工事完了までの裏側を取材


au 5Gエリアができるまで

急ピッチで広がっているauの 5Gエリア。KDDIではお客さまに品質の良い5Gを届けるため、今まで培ってきた技術と現場力を駆使して挑んでいる。この5Gが使えるようになるには、いったいどれくらいの工程があるのか。その詳細について、KDDIで5Gエリアの計画、設計、工事の役割を担うそれぞれの担当者に話を聞いた。

KDDI総合研究所のプロジェクト「GOMISUTEBA」のパートナー会社 左から、KDDI 技術企画部 萩原弘幸、次世代ビジネス企画部 梶原直人、KDDIエンジニアリング エリア設計部 大澤 魁、荒川和範

【目次】

5Gエリアができるまでの工程とは

―――2022年3月現在、東京山手線と大阪環状線の5G化に続き、東名阪の主要路線や札幌大通、名古屋、福岡天神など全国の商業地域に5Gエリアが拡大しています。2021年6月に発表した「鉄道路線5G化」宣言から急ピッチでエリアが拡大しているように見えますが、その裏側ではどのような工程でエリアがつくられているのでしょうか。

梶原:5Gエリアができるまでには、大きく5つの工程があります。企画、計画、開発、設計、工事の5工程です。これにエリアができたあとの品質改善と監視運用をくわえ、みなさんが安心してご利用いただけるよう、日々改善しています。

au 5Gができるまでの工程

―――5Gエリアができるまでには、たくさんのプロセスがあるのですね。それぞれの工程では、具体的にどのようなことを行っているのでしょうか。

梶原:まず「企画」を担当する次世代ビジネス企画部ではエリアの展開方針を取りまとめています。例えば鉄道沿線や駅周辺の商業地域などの生活動線でしっかりエリアをつくるといった方針を整理したり、全国のauショップなどの営業拠点と連携してどの路線や商業地域からエリア化するといったプランの具体化です。また部署全体としては、5Gエリアだけでなく5Gならではのサービスや料金など様々な内容に関わっています。

萩原:そのエリアの展開方針を受け、私たち技術企画部では、今後のお客様の携帯電話の活用方法を想定し、基地局の将来トラフィック(データ量)の予測を立て、どの周波数をどの街や場所で展開していくのか、具体的な基地局設置場所を決める「計画」を策定しています。一度、建設工程に入った後だと変更する事が難しくなるため、場所だけでなく基地局設備の性能や今後の技術進化もふまえ、高い品質が提供できる実行的な計画を立てます。それをわかりやすく関係部署に伝えていくことが「計画」部署の役割です。

会議しているサラリーマン

大澤:その技術企画部で策定した計画を受け、私のいるエリア設計部では、基地局毎の「設計」を行っています。たとえば渋谷駅の周辺をエリア化するという計画に対し、その場所に5Gの電波を届かせるには、どの基地局にどんなアンテナを設置すればよいのか。その最適なエリア化手法を検討します。既存の基地局を利用する場合は、5G設備の増設余地など工事の実現性も確認するなど、お客さまにいち早く高品質な5Gエリアを届けるため、日々知恵を絞りながら設計しています。

荒川:私も大澤さんと同じエリア設計部ですが、基地局設置の工事部門との調整を担当しています。基地局設置が決定した現場で調査すると、設計したアンテナの方向が建物に遮られているケースや、想定した設置スペースが使用出来ないケースなど、机上調査ではわからなかった様々な課題が出てきます。

KDDI・auの5Gアンテナを工事している様子

アンテナ方向の調整や、コンパクトな新しい設備に変更するなど、ひとつひとつ課題を解決しながら、エリア設計プランを確定させていきます。その後も基地局に設置する設備機材や回線、電源取得などの詳細工事の設計や免許申請など多くの工程を経て、ようやく基地局設置の工事に着手。完成後に5G電波を発射、お客様にご利用いただけるようになります。

5Gができるまでにかかる期間は?

―――ひとつのエリアが完成するまでに多くの工数がかかるのですね。実際にこの「企画」から「工事」が終わって5Gが使えるようになるまでに、どれくらいの期間がかかるのでしょうか。

梶原:あるエリアを5G化するためには、大きく分けて5Gの設備を新たに構築するパターンと、4Gの設備を一部活用することで比較的短期間で構築できるパターンがあります。ほかにもバックホールと呼ばれる光回線網を再構築するパターンなど5Gエリアづくりには様々なやり方があり、構築期間も大きく異なっています。

大澤:なかには基地局の設置場所を新たに探すところから始め、建物・土地のオーナーさまと交渉するなどゼロからの基地局建設になるケースもあり、お客さまに快適に5Gをご利用いただけるようになるまでに年単位の時間がかかる場合もあります。

―――工事にはいくつものやり方があるんですね。長い場合はどれくらいかかるのでしょうか?

萩原:少しでも早く5Gをお届けできるよう、お客さまの利用状況やエリアの状況などから展開優先順位を調整したり、先にでき上がった5G基地局のアンテナや無線機に手を加えて、少しでも広範囲に電波が届くようにチューニングしたり、関係部門と何度も調整して、日々お客さまにとって良いエリアの設計を模索しています。難易度は基地局ごとに異なり、ばらつきもありますが、エリアがある程度かたちになる(例えば一つの路線で使えるようになる)までには、構想してから3年程度かかることもあります。

5G化のハードルとは

―――先ほど基地局に引き込む光回線網の話がありましたが、5Gが使えるようになるには、アンテナの工事だけではダメなのでしょうか。

梶原:携帯電話は、携帯電話同士が直接通信しているわけではなく、携帯電話と基地局・交換局を中継して通信しています。携帯電話と基地局の間は「無線通信」、基地局と交換局の間は「有線通信」でつながっているので、5Gの品質を活かそうとすると、無線設備だけでなく、有線設備である光回線もそれに見合った速度の出るものを用意する必要があります。

携帯電話がつながる仕組み 携帯電話がつながる仕組み

梶原:せっかく無線通信部分が5Gで速くなっても、有線回線部分が4G向けの設備のままでは5Gの速さを活かせません。そのことからも、5Gのアンテナの設計にくわえてこのバックホールとなる光回線の工程も含めると、大きな工数になってきます。

萩原:5Gをご利用いただく方は、4Gの数倍の速度が出ることや遅延の少なさに期待いただいていますので、交換局側の回線装置や交換機の入れ替え、アンテナなど無線設備の入れ替え、そして有線回線の入れ替えと、基地局のすべての設備を同時に刷新しなければいけないところが、ひとつのハードルとなっています。

au 5Gエリアができるまでの工程を説明するKDDI社員 KDDI 技術企画部 萩原弘幸

―――5G化の難易度で言いますと、エリアを5G化するには既存の4Gを活用できるという話があります。既存基地局を生かせば工数は少なくなるのではないでしょうか?

萩原:4Gから既存周波数を転用するだけだったら簡単なんじゃないか、と思われるかもしれませんが、そう簡単ではありません。au 5Gの周波数は、大きく分けて「ミリ波」「Sub6(サブシックス)」「NR化」の3つの周波数帯があります。

・ミリ波:28GHzの周波数帯。高速・大容量通信が可能。
・Sub6:3.7/4GHzの周波数帯。高速・大容量通信が可能。
・NR化:700M〜3.5Ghz(4G LTE)の周波数帯。NR規格を適用して5Gに利用。

au 5Gの周波数帯と特徴

萩原:「ミリ波」と「Sub6」は、5Gとして新たに総務省から割り当てられた広帯域周波数帯です。「NR化」は現在4G LTEで使っている周波数帯で、既存の基地局を活用することでより早く5Gエリア化できるという特長があります。

このように5Gエリアをつくるには周波数の特徴を理解して、この「5G用の新たな無線機の追加」と「4G無線機の調整」とを対応していくので、計画策定も一筋縄ではいきません。

また、5G用の新たな高周波数帯は、電波の特性から大容量データを送ることができるようになった反面、ひとつの基地局でカバーできる範囲が狭くなっています。そのため、お客様に5G電波を届けるための最適な場所にこだわったうえで、多くの新たな無線機の追加を行う必要があることも、計画遂行のもうひとつのハードルとなっています。

周波数帯によって変わる5G電波の飛び方の特徴

萩原:さらに、できるだけ広くあまねく全国どこでもご利用いただけるよう、4G LTEの基地局自体の数も増やしています。そのため、「NR化」対象の基地局では4G LTEと5Gの調整が必要になり、ひとつの基地局に対する調整の難易度が上がっています。

梶原:あとは何といっても5Gに前例があるわけではなく、実際に進めていくなかで想定外の修正、変更が発生するところも大きなハードルですね。私たちもここ数年でようやくノウハウが溜まってきましたが、最初は相当苦労しました。

大澤:5Gの設計に初めて取り組む際に苦労したのが、5Gの電波を理想通りに飛ばすことができず、4G基地局を活用するだけでは5Gのエリア化ができないということが分かったときですね。1局ずつ詳細に設計プランを調整することになりました。

au 5Gエリアができるまでの工程を説明するKDDI社員 KDDIエンジニアリング エリア設計部 大澤 魁

―――思ったよりビルが密集していたなどの理由でしょうか。

大澤:それよりも、すでにその場所で電波の利用者である既存免許人との電波干渉を避けるための調整ですね。たとえば5GのSub6に近い周波数帯の電波を使っている既存事業(衛星放送など)に影響を与えないようする必要があります。

この方向にこのくらいの強さで電波を飛ばせば狙ったエリア周辺をきれいにカバーできる理想の設計だけれど、干渉しないよう別の方向に向けたり、電波を弱めたりといった調整が必要でした。

au 5G用のアンテナを設置・調整するKDDIエンジニアリング社員

大澤:このように最初はノウハウもなく、細かな調整を度々行いながら、設計プランを確定させていったことが初期の苦労した点です。

萩原:電波干渉に関しては、既存免許人との事前調整が免許申請時の条件になっているので、そのやり取りも設計プランが決まるまでに期間を要するひとつの原因ですね。基本的にはあとから利用するほうが既存免許人に申請し、OKが出たら工程を進めるという形です。

―――それもあるので、年単位の調整になるというわけなんですね……

萩原:はい、そこまでやって、やっとひとつの基地局の工事計画が決まり、実際の工事に着手できるというわけです。

お客さまの身近な生活動線へ5G エリアを

―――5G化する場所の選定については、どのように行っているのでしょうか。

梶原:4G LTEの基地局から得られるデータに加えて、auショップなど各地のKDDI担当者とも連携し、実際にその地域に住んでいる人の意見を聞いて、お客さまに身近な「生活動線」を重点的にエリア展開しています。

特にこの生活動線のエリア展開にあたって私たちが大事にしているのが、お客さまにずっと5Gを使い続けていただくことです。たとえば駅ホームでは5Gで動画をサクサク観れるけど、電車に乗って動き始めたら4Gに切り替わってしまったらガッカリする人もいるでしょう。KDDIとしては、5Gの体感エリアを「点」ではなく生活動線に沿った「面」としてつくっていきたいと考えています。

au 5Gエリアができるまでの工程を説明するKDDI社員 KDDI 次世代ビジネス企画部 梶原直人

梶原:もうひとつ大切なのは品質です。5Gエリア内で5Gらしい速度をご利用いただくことが重要と考えています。萩原さんの説明にもありましたとおり、私たちは4Gの電波を単に5G転用するのではなく、通信品質が5Gらしくなるように全ての設備を見直しながら、エリアを構築しております。

お客さまに快適な5Gをご利用いただけるようきめ細やかに基地局を設置するKDDI・auの設置イメージ お客さまに快適な5Gをご利用いただけるようきめ細やかに基地局を設置

5G化後にも続く通信エリアの品質管理

―――エリア構築の後も品質管理はされてるのでしょうか。

萩原:実際に計画したエリアで5Gが使えるか、現地現物でテストしています。実際に現地で測定すると狙った場所で5Gにつながらないこともあるので、測定後にアンテナの角度を1度単位で調整し、電波の強さを変えるなど調整しています。

梶原:お客さまが5Gをご利用されるときの体感を大切にしたいので、社員自身もスマホを使って5Gを快適に使えるかを確認しています。例えば鉄道路線をエリア化する際には、実際に駅や電車の中でスマホをサクサク使えることをチェックしています。担当者以外でも全国のKDDI社員一人一人が普段からスマホを快適に使えるか意識しており、もし品質面で気になる場所があれば担当者へ連絡する仕組みになっています。

新宿駅でau 5Gを測定するKDDI社員

―――実際に品質で気になる部分がある場合には、どのような対策をするのでしょうか。

荒川:アンテナの角度調整や電波の出力調整などで改善できるかを検討します。解消できない場合は、追加で工事を行うことでエリアをつくっていきます。ただし、都会のビルの上など限られたスペースを他の通信会社さんと分け合っていたり、建物に載せることができる重量に制限があるため、対応できる手段が限られるケースもあります。こうした場合は、現状ある基地局の資産を最大限に活かして、お客さまにご満足いただけるエリアづくりを進めています。

当たり前を守り、未来へつなぐ

―――企画から工事まで、多くの工程があることがわかりました。最後に、この工程を連携しながら進めることができる、そのモチベーションを教えてください。

荒川:やはり「ここで使えるようになりました。ありがとう」というお客さまからの声が、いちばんの原動力です。パートナー企業さま含め、全員一丸となってエリア構築に邁進できるのも、こういうお客さまからの声があるからこそ、挑むことができています。

au 5Gエリアができるまでの工程を説明するKDDI社員 KDDIエンジニアリング エリア設計部 荒川和範

萩原:それにくわえ、私たちが通信を支えているという思いもあります。今や通信はひとつの社会基盤です。私は10年前に東日本大震災後の復興活動に参加しましたが、そこで「通信が使える」という当たり前をいかに守り抜き、お客さまに喜んでいただけるかというシーンに何度も直面しました。ときには命を預かることもある、このインフラを守っているんだという思いが一番のモチベーションです。

災害地に通信復興に来たKDDI社員

萩原:また、5G時代は高画質のARやメタバース、低遅延を活かしたリアルタイムサービスなど、お客様によりワクワクしていただけるコンテンツや新たなサービスが育ちつつあります。一般のお客さま、法人のお客さま問わず、お客様に寄り添った通信基盤を今後もつくっていきたいと思います。

梶原:現在、鉄道路線や商業地域を中心に5Gエリアをどんどん拡大しています。より身近に5Gを感じていただけるようになりますので、今後のエリアの広がりにもご期待ください。


■KDDI 5Gエリアの広がり
・2021年6月:山手線と大阪環状線の全駅ホームで5Gサービスが利用可能に
・2022年1月:JR東海道線・名鉄名古屋本線などを含む鉄道17路線の主要区間の駅ホームおよび駅間において、5Gサービスが利用可能に
・2021年度末:JR・私鉄を含む関東21路線、関西5路線の主要区間の駅ホームおよび駅間において、5Gサービスが利用可能となる予定



文:TIME&SPACE編集部

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