2022/03/17

ごみ問題の解決を目指す「GOMISUTEBA」とは?新たな価値をつけ再生させるKDDIの取り組み


KDDI総合研究所のプロジェクト「GOMISUTEBA」でアップサイクルした椅子などのプロダクト例

プラスチック製品をはじめごみ問題が世界中の課題となっている今、KDDI総合研究所が、使われなくなった家具やインテリアなどを3Dデータ化し、バーチャル空間上で組み合わせることで、新しい製品への再生を手軽に行えるようにするプロジェクト「GOMISUTEBA(ゴミステバ)」を開始した。

いったいこの「GOMISUTEBA」とはどんな取り組みで、どう実現するのか。KDDI総合研究所や協力会社のプロジェクト担当者に話を聞いた。


【目次】

GOMISUTEBA とは

GOMISUTEBAは、不要となったものや使わなくなったものにデザインやアイデアといった新たな付加価値をつけ、新しい製品として生まれ変わらせる「アップサイクル」という考え方に基づき開始したプロジェクトだ。テクノロジーの活用により、現在使われていない家具や不要品となったインテリア同士を組み合わせ、新しい製品を生み出す基盤をつくることで、「ごみを捨てる」という概念そのものを捨てることを目指す。

KDDI総合研究所のプロジェクト「GOMISUTEBA」における椅子のアップサイクル例 別々の素材同士を組み合わせ、椅子としてアップサイクルする例

このGOMISUTEBAを始めるきっかけについて、KDDI総合研究所の小林亜令と株式会社qutoriの加藤 翼さんはこう語る。

小林:私たちKDDI総合研究所では2021年8月から、2030年を見据えた「未来のライフスタイル」を提案する研究拠点「KDDI research atelier(リサーチアトリエ)」において、先進的なライフスタイルを実践している生活者の方々(=先進生活者)を中心とした、多様なパートナーとの共創を推進する取り組み「FUTURE GATEWAY(フューチャーゲートウェイ)」を開始しました。

KDDI総合研究所のプロジェクト「GOMISUTEBA」のイメージ画像 FUTURE GATEWAY/KDDI総合研究所

先進生活者の中にはごみをごみと思わず、直したり、素材として組み立てて新しい価値を生み出す、そういうアップサイクルという活動を実践している人がいます。しかしまだこのアップサイクルという活動は、日本で普及しているとは言えません。なぜ普及していないのか、そのハードルを研究課題としたときに、私たちは今の「ごみ捨て場」という場所が課題になっていると考えました。

今の「ごみ捨て場」はリアルに閉じていて、どこにどんなモノがあるかわからない状態です。この「ごみ捨て場」という場所を再構築しようと考えたのが、今回の「GOMISUTEBA」という取り組みのきっかけです。

KDDI総合研究所のプロジェクト「GOMISUTEBA」のイメージ画像 KDDI総合研究所 小林亜令

小林:具体的にはこの「ごみ捨て場」をオンライン化し、今どこにどんなごみが置かれているのかというのをデータ化することで、アップサイクルしたいと思った人がサイバー空間上で探しやすくなる、というようなシナリオをイメージしています。

実現にはまだ数年かかってしまうかもしれませんが、これが今後日本で普及すれば、社会課題の解消にも貢献できるのではないでしょうか。

アップサイクルを一般化するための課題

加藤:その考えのもと推進するGOMISUTEBAのコンセプトは、「“ごみを捨てるということ”を捨てる」です。みなさんも普段の生活のなかで、まだ使えるけど一部が欠けたから捨てるものや、まだ使えそうなのに捨てられているものを見かけた経験がないでしょうか。

KDDI総合研究所のプロジェクト「GOMISUTEBA」のパートナー会社 株式会社qutori CEO 加藤 翼さん

加藤:そもそも「ごみ捨て場」という言葉に「汚い」という印象を持っている人が多いかもしれませんが、ごみを消費の終着点として考えると、誰かが生産・加工して、いろんな人の手を渡り、自分の手もとに来てその役目を終える……。そうやってバトンをパスされた終着点として、人間の活動や文明のなかで「美しい場所」だと捉えることもできるのではないでしょうか。

私たち個人のクリエイターはそんな「ごみ捨て場」にあるごみを「素材」と捉え、自分で直したりDIYして使っていますが、なかなかまだそうやってアップサイクルしている人は少ない状況です。それをどうやって変えていけるか、そのひとつのテストとして、私を含め4名のメンバーと、著名なアーティストであるmagmaさんと一緒にアップサイクルしたプロダクトを発表し、どういう評価を得られるのかを試してみました。

KDDI総合研究所のプロジェクト「GOMISUTEBA」のパートナーとアーティスト

KDDI総合研究所のプロジェクト「GOMISUTEBA」でアップサイクルした椅子などのプロダクト例

加藤:都内のエコステーションから素材を回収してつくったプロダクトを、magmaさんの名前を隠し、「買いたいか」「買うならいくらか」と聞いたところ、ごみからつくったということを知った上で「ぜひこれを買いたい」という人が集まりました。

そこで実際にその人たちと「どこに価値を感じたか」「自分たちでもつくれるようになるか」という視点でワークショップを行い、GOMISUTEBAを世の中に広げようとした際に何が課題になるかを洗い出していきました。

KDDI総合研究所のプロジェクト「GOMISUTEBA」における先進生活者とのワークショップ

加藤:アップサイクルを推進するための課題は大きく2つ。1つめは素材となる不要品をどう集めるかの問題です。実際に素材となる不要品の組み合わせを試してみるには実物を一箇所に集める必要がありますが、それにはかなり手間がかかりますし、組み合わせるためには、毎回その集めた場所に行かなければなりません。そこで場所を問わず素材を確認できるよう写真でも試してみましたが、やはり写真では実物が持つオーラ、存在感が伝わらないという課題がありました。

2つめの課題が、組み立てのハードルです。素材同士を組み合わせたら良いものができそうだというアイデアがあっても、実際にどう接合すれば良いか、職人など専門知識を持っていない人でも気軽に組める仕組みがなければ、やってみようと思う人が少なくなってしまいます。

それをどう解決できるか。KDDI総合研究所の調査・応用研究拠点であるKDDI research atelier(リサーチアトリエ)と共に、テクノロジーのチカラでこの2つの課題に取り組むことにしたわけです。

素材となる不要品の3Dデータ化

ではいったいどのようなアプローチでこの課題に取り組むのか。

GOMISUTEBAでは、まず1つめの課題を解決すべく、不要品の3Dデータ化に取り組んでいる。素材の質感や色、凹みや傷などの使用感まで実物そっくりな3Dデータをバーチャル空間に再現することで、デザイナーがその場所に行かなくてもバーチャル空間上で自由に組み合わせ、デザイン設計できるようにしたいという考えだ。

KDDI総合研究所のプロジェクト「GOMISUTEBA」における不要品の3Dデータ化例

さらに今後はこの3Dデータを活かし、完成品のサンプルや家に置いた状態のイメージを確認できる環境の構築にも取り組んでいくという。

ジョイントモジュールの開発

もう一つの課題である素材同士の接合については、3Dプリンターで汎用的な接合部となるジョイントモジュールを試作。このジョイントモジュールを活用することで、家具製造スキルを持たない人でも、多様な素材同士をかんたんに接合・組み立てできるようにしていく。

KDDI総合研究所のプロジェクト「GOMISUTEBA」で開発した接続モジュール

これらを活用した、GOMISUTEBAにおける具体的なアップサイクルの流れを見ていこう。

①回収した不要品を3D データ化し、バーチャル空間上に集約。
②3Dデータを組み合わせ、新たな製品を設計。
③組み合わせる素材が決まったら、不要品を製造工場へ輸送し、製造。

KDDI総合研究所のプロジェクト「GOMISUTEBA」の提案するアップサイクルの流れ

このように従来のアップサイクルの工程にテクノロジーを取り入れることで、さまざまな人が気軽に利用できる環境を構築し、ごみ問題の解決に貢献していくという。

GOMISUTEBAプロジェクトは始まったばかりであり、一般生活者が利用できるサービスになるまでにはまだまだ課題が多いが、この先にはどういう世界があるのか。KDDI総合研究所におけるGOMISUTEBAプロジェクト担当者に話を聞いた。

KDDI総合研究所のプロジェクト「GOMISUTEBA」の担当者 左から、KDDI総合研究所 GOMISUTEBAプロジェクト 矢崎智基と渡邉慎也

GOMISUTEBA 実現までのハードルと次のビジョン

―――そもそもなぜ、通信会社がこの課題に取り組んでいるのでしょうか。

矢崎:KDDIは通信会社ではありますが、通信も「テクノロジーのひとつ」として考えていて、人が生活を送るなかで課題となりそうなものに対して、テクノロジーでどう解消していくのかを考え、そんな活動を通じた持続的な社会貢献を目指しています。そのなかでも私たちが所属しているKDDIリサーチアトリエは、テクノロジーのチカラで社会課題の解消に取り組む専門組織としてKDDI総合研究所から生まれました。今回、その活動のひとつとしてこのGOMISUTEBAプロジェクトを開始したというわけです。

KDDI総合研究所のプロジェクト「GOMISUTEBA」の担当者

―――ここまでの取り組みにあたり、課題になったところはどこでしょうか。

渡邉:たくさんありますが、なかでも苦労したのは、やはり3Dデータ化による素材の再現です。3Dデータを実物そっくりに再現するのが難しく、特に細い箇所の再現や素材の違いを表わす光の反射の再現には苦労しました。

矢崎:傷や凹みも含め表面の状態をしっかり把握できないと、設計する人が資材として使えるかどうかの判断ができないということもあり、それをどう正確に3Dデータとして表現するかも苦労した点です。最新のiPhoneに搭載されているLiDARスキャナ(レーザー光を利用して離れた物体の距離を測る仕組み)を使って撮るということも試しましたが、ある程度までは再現できるものの、薄い素材の表面がうまく再現できなかったり、暗い色や光沢のある素材の形状を正確に取得できなかったりと、満足のいくデータができませんでした。

LiDARスキャナ

矢崎:そこでほかの技術を探していたところ、一つのものを複数の角度からカメラで撮影してデジタル上で再合成する「自由視点映像」という技術を活用できるのではという声が挙がり、試してみようとなりました。自由視点映像はKDDI総合研究所で以前より研究していた分野で、これまでにも野球やサッカーなどスポーツシーンのリプレイやアイドルのパフォーマンスなど、360度好きな角度で楽しめる映像として活用していましたが、この撮影技術を応用することで、どの角度からでも眺められる質感高い3Dデータを実現できました。

KDDI総合研究所のサービス「自由視点映像」の撮影例 自由視点映像の撮影例

―――KDDI総合研究所内のほかの技術を応用したわけですね。

矢崎:はい、それでもすでにある技術の応用とはいえ、その実現までの道のりは大変で、一個の3Dデータをつくるためには十~数十台のカメラを用いて撮影しなければなりません。今回は空中に椅子を吊るして360度から撮影し、そのデータを合成しましたが、これを1つの素材ごとに繰り返すとなると、設備が整った研究施設ならともかく、一般の家庭ではそんなことはできません。ここがまだ一般の方にご利用いただくには技術的なハードルとなっているので、手元のスマホでパッと撮ってスッとアップできる方法がないか、今はその実現に向けて検討を続けています。

ーーー自宅でできるようになるには、やはりハードの問題があるのでしょうか。

渡邉:たとえば今でも手に持てるサイズの3Dスキャンはありますが、それでも一般の家庭にはないですし、その撮影も360度、自分がまわりながら撮影するか、回転台の上に置いて回しながら撮影する必要があるので、そのあたりをもっと手軽にできる方法にチャレンジしたいと思っています。

KDDI総合研究所のプロジェクト「GOMISUTEBA」の担当者

ーーー確かに今後、手軽に「家にある不要品を撮影して」というのができるといいですね。一般の方にはどのように広げていく計画なのでしょうか。

渡邉:次の取り組みとしては、地域にあるコミュニティごとに家にある使わないものを持ってきてもらえる場所をつくって、そこで実際に3Dデータ化や素材同士の組み合わせを体験してもらいたいと考えています。

家で手軽にできるようにすることも目標のひとつですが、コミュニティごとに不要品を集められる場所をつくることのメリットが2つありまして、ひとつは実際に誰かがアップサイクルしているところを見ることができる点で、もうひとつがアップサイクルという活動が街中に増えてきたという文化つくりができるという点です。

渡邉:まだ世の中にアップサイクルというものがどういうものかイメージつきにくい人が多いと思いますので、実際にアップサイクルされたものとか、使える素材とかを見ることができるリアルの場が必要じゃないかなと思っています。そこで慣れてきた人が2回目からは家でやってみるようになる流れですね。それには、家と街中の両方でできる環境をつくることが大事だと思っています。

矢崎:KDDI総合研究所としても、やっぱり研究にとどまらず、一般の方々に実際に体験できる場をつくっていくことを大事にしていきたいですね。

―――将来はどんな展望をお持ちでしょうか。

渡邉:すごく将来的な、夢のまた夢の話になるかもしれませんが、今は新しく家具をほしいと思ったときの選択肢としては、新品を買うか、誰かに譲ってもらうか、中古を買うかのどれかになると思いますが、そこにアップサイクルという選択肢が入ってくる……そんな世の中になる環境づくりを考えています。

KDDI総合研究所のプロジェクト「GOMISUTEBA」の担当者

矢崎:そんな新しいライフスタイルの提案ですね。今はリサイクルってキレイな状態じゃないと高く買い取ってくれませんが、キレイでなくても素材として価値があるものがうまく再利用できるようになれば、ごみも減り、またモノの価値も変わってくるのではないでしょうか。もともと日本にはそういう文化、ありますよね。着物や時計、宝飾品など直し直しで代々受け継がれるもの。日本には昔からそういうモノを長く使う文化がありますので、このアップサイクルという文化も自然と根付いていくような、そんな未来をつくっていきたいと考えています。

―――GOMISUTEBAから見えてきた社会課題への取り組み。KDDIは、社会の持続的な発展を目指し、テクノロジーを活用した新たなライフスタイルをこれからも提案していく。



文:TIME&SPACE編集部

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