2021/08/04
宙に浮かぶ巨大な彫刻にダンサーが舞う!au 5G、ARなどが可能にした現代アート体験
「au Design project」(以下・aDp)と彫刻家・名和晃平氏とのコラボレーションによる最新作が現在公開されている(2022年4月30日まで)。東京・銀座の商業施設「GINZA SIX」の2階から5階までの吹き抜け空間に展示されている名和氏作のインスタレーション「Metamorphosis Garden(変容の庭)」を舞台として体験することができるAR作品だ。
名和晃平氏は、無数の透明な球体(セル)でオブジェクトを覆う《PixCell》シリーズなどで知られ、世界中から高い評価を受ける彫刻家だ。2000年代初頭から新しい素材や技法、テクノロジーを用いて彫刻やインスタレーションを残してきた。そんな名和氏にとっても、この規模でAR(拡張現実)を用いたインスタレーションの表現を行うのは初めてのこと。
吹き抜け空間に展示されているのは、生命を象徴する「神鹿」とそれを取り囲むようにした不定形の島々。そして、重力と水滴をテーマとした「Ether(エーテル)」と呼ばれる6本の柱の彫刻。4階フロアレベルと厳密に高さを合わせて吊られており、そこに見えない“海面”を感じさせることを意図している。
名和氏は「地球規模のマクロな視点と、わずか数ミリの海面上昇が生態系全体に大きな影響を与えるというミクロな視点の両方の感受性をもつことの大切さをテーマにしている」という。
aDpは2002年からスタートし、「INFOBAR」をはじめとする数々のデザインケータイを発表してきたプロジェクトだ。2020年以降、「au Design project[ARTS & CULTURE PROGRAM]」として、文化財や現代アートと、5GやARといった最新テクノロジーを融合させた新たな文化芸術体験の提案を行っている。
昨年は東京国立博物館、文化財活用センターとの共同プロジェクト「5Gで文化財 国宝『聖徳太子絵伝』ARでたどる聖徳太子の生涯」を開催。1面あたり18億画素の超高精細画像を5GスマートフォンやARグラスに配信し「絵伝」の知られざる魅力を体感できるコンテンツを開発し好評を博した。
今回、5GとARを融合した名和晃平氏の作品では、どんな新しいアート鑑賞体験ができるのかを見ていこう。
「Metamorphosis Garden_AR」でどんな鑑賞体験ができるのか
GINZA SIXに設置されているこの彫刻は、いわば“舞台”だ。aDp提供の「AR×ART」アプリを介して観ることで、「Metamorphosis Garden」は5Gと先端テクノロジーにより、超高精細でダイナミックなARダンスパフォーマンスと融合した現代美術作品として体験することができる。
こちらがiPhone/iPadで鑑賞できるARコンテンツ「Metamorphosis Garden_AR」だ。
名和晃平氏と振付家のダミアン・ジャレ氏による共作で、ディスプレイには、まず無数の粒が発生する。そして6本の彫刻の柱「エーテル」を起点に、粒が渦状に拡散しはじめ、やがて男女のダンサーが演じる精霊が出現。精霊は渦と一体になって踊りだすのである。
映像はこちら。
■ARについて
このARコンテンツはiPhone/iPad専用です。推奨機種はiPhone12シリーズ以上/iPad Pro 2020年モデル以上。推奨機種以外では再生品質が低下する又は再生できない可能性があります。iPhoneの5Gモデルをご利用でauのデータ使い放題料金プランご契約の場合はGINZA SIX館内のau 5Gで快適に鑑賞いただけます。iPhoneの5Gモデルをご利用でauのその他プランをご契約又はau以外のご契約の場合、あるいはiPhoneの4Gモデル/iPadをご利用の場合は専用Wi-Fi経由でau 5Gに接続しての鑑賞となります。鑑賞には「AR×ART」アプリのダウンロードとArtStickerの会員登録が必要です。
日本列島の原風景を巨大な彫刻とARで表現
「Metamorphosis Garden」は、生命と物質、あるいはその境界にある曖昧なものが共存する世界をテーマにしたインスタレーションだという。名和晃平氏にこの作品のテーマやテクノロジーの可能性について話を聞いた。
「中心にいる『神鹿』は日本の美術史にも頻出しています。命という神秘的な存在を見守るものの象徴として、作品の中央に配置しました。
日本列島の原風景にも重なるイメージで全体に島々を配置し、そこから『エーテル』が重力に逆らって垂直に立ち上がろうとしています。これは生命を象徴です。鹿の足下に植物のつぼみは、動物と植物が互いを補完しながら生態系を維持している様子を表しています。
日本列島の原風景は、イザナミとイザナギが日本を作った『国生み神話』にもつながる。そのアイデアをARで表現したくて、パフォーマンスアートを共同制作しているベルギーの振付家・ダミアン・ジャレと一緒にARコンテンツを作りました。男女のダンサーは精霊を表現しています。そこから渦を巻くように粒が広がり、力が広がっていくというイメージです」
25年以上前、名和晃平氏が美大で学んでいた頃には、すでにコンピュータによる2Dのデザインや作曲は一般的だったが、そういったデジタル表現の流れはいずれ彫刻や立体物の分野にも広がると考えながら活動してきたという。
「そうした流れがようやく普及してきた感はありますね。コロナ禍においてリモートが一般的になり、さらに加速していくなかで、ARは技術的にはすごい可能性を持っていると思います。まだまだ黎明期だと思いますが、いまチャレンジをすることでその道が一気に開ける可能性を感じています」
「Metamorphosis Garden_AR」の背景にある5GとVPS
aDpを立ち上げ、現在「au Design project[ARTS & CULTURE PROGRAM]」で5GやARを駆使してアートの新たな体験価値を提供しているKDDIの砂原 哲に、今回の取り組みを支える通信テクノロジーについて聞いた。
「名和晃平さんとは11年ぶりのコラボレーションになります。2009年に『アートとしての価値を持つ携帯電話』をコンセプトとしたシリーズ『iida Art Editions』を開始したのですが、その第1弾が草間彌生さん、そして第2弾が名和さんの『PixCell via PRISMOID』でした。携帯電話を取り巻く無数の情報を視覚化した作品です。名和さんは当時からデジタルとリアルの関係性を問う作品を手がけられていて、その同時代感覚にとても共感を覚えたのが名和さんとのコラボのきっかけでした
『iida Art Editions』は身近な携帯電話をアート作品化することで、アートと日々触れ合う心豊かな生活を提案しようという試みでした。このコンセプトを受け継ぎ、5GやXRと接続してアップデートした活動がau Design project[ARTS & CULTURE PROGRAM]です。今回の名和さんとの取り組みを開始したのは2020年1月。最初は、名和さんのスタジオで5G、AI、AR/VR、ARグラス、自由視点、VPS、バーチャルヒューマンなど、最新技術の情報共有やデモからスタートし、そうした技術を具体的にどう作品表現に落とし込んでいけるのかじっくり検討を重ねていきました」
今回のこのインスタレーションの背景には、大きく2つの先端技術がある。
まずは「au 5G」。今回のAR作品では20万点という膨大な数の粒がさまざまな形に変容しながら吹き抜け空間全体を動き回る。その点群データの大きさは実に数十GB(ギガバイト)。その大容量データを特殊な技術で1/100に圧縮し、5Gにより遠く離れたサーバーからストレスなく瞬時にダウンロードすることを可能にしている。
もうひとつは「VPS(Visual Positioning System)」。今回の大きなチャレンジは、吹き抜けに吊られた彫刻の複雑な形状に合わせてバーチャルなARの点群データを精緻かつ正確に重ね、出現させることだった。これを実現するためにかかせない技術のひとつがVPSだ。
GINZA SIXの2〜5階の吹き抜け周囲のフロアはau 5Gのエリアとなっていて、大容量データをAWS WavelengthでiPhoneに5Gで配信している。AWS WavelengthとはKDDIとAWS(アマゾン ウェブ サービス)による新たなサービスだ。
AWS Wavelength ではインターネット上ではなく、auのネットワーク内にAWSのサーバが存在するので、5Gとの組み合わせでダウンロード速度の大幅な高速化に貢献している。
「言われないと、ARの大きなデータがいつダウンロードされたのか、わからないかもしれません」(砂原)
一方、VPSでは、事前にこのGINZA SIXの吹き抜けと彫刻をスキャンし、3D空間マップを生成する。そこに今回のARダンスパフォーマンス作品のデータを正確に配置する。鑑賞スポットでアプリを起動したiPhoneを彫刻に向けるとVPSが鑑賞者の位置を特定し、リアルな吹き抜け空間と彫刻をバーチャルな3D空間マップのデータとぴったりと重ね合わせることで、リアルとバーチャルが精緻に融合したAR体験が可能となるのだ。
砂原はこのインスタレーションをぜひ実際に足を運んで「体験」してほしいという。
「5Gを用い、巨大な彫刻作品にAR演出を正確に重畳させ、もうひとつの芸術体験を生み出す今回の試みは、私の知る限り世界初だと思います。無数の粒子の渦から精霊が7カ所に立ち現れ、ダンスを舞い、また不定形な粒子へと霧散していく、3分半繰り広げられる出現と消滅、変容のドラマを体験いただきたいですね。
どの鑑賞スポットで見るかによっても、まったく印象が異なります。俯瞰でダイナミックな動きを鑑賞できるスポット、全体の演出が見て取れるスポット、湯浅永麻さんと大宮ダイスケさんという2人の素晴らしいダンサーが目の前で舞う迫力を感じられるスポットと、さまざまな視点で鑑賞いただくことをおすすめします。
映像だけでなく、作曲を手がけた原摩利彦さんの感動的な音楽を十二分に体験いただくためには、ノイズキャンセリング機能付イヤホンの着用がおすすめです。鑑賞しているうちにリアルとバーチャルの区別が曖昧になる没入感を体験することができます」
「AR×ART」アプリで体験できること
「Metamorphosis Garden_AR」を体験するためにはGINZA SIXに足を運ぶ必要があるが、iPhone/iPad専用の「AR×ART」を使用すれば、自宅や全国のさまざまな場所で以下のような独自のARコンテンツが体験できる。
たとえば「PixCell_AR」(公開準備中)では、カメラを通して見たものがAR技術でリアルタイムに彫刻化され、無数のビーズで覆われる。また、「AR×ART COLLECTION」では名和晃平氏の作品「Velvet-White Deer」や「Velvet-Ether」をARでコレクションし、好きな位置にARで出現させることができる。
「White Deer_AR」では、石巻や京都、那覇など名和晃平氏にゆかりのある場所や、au関連施設など全国いくつかの場所限定で、名和氏の彫刻作品「White Deer」がARで出現する。運良く出現させることができると、上記「AR×ART COLLECTION」の作品を増やすことができる仕掛けにもなっている。
ちなみに、東京・銀座の「GINZA 456 Created by KDDI」 で「White Deer_AR」を立ち上げると、エントランスにWhite Deerが出現。エントランスのLED演出を背景に、雄々しい姿に出会うことができる。「White Deer_AR」のアニメーション版も準備中とのことだ。
White Deer_AR出現スポット
https://artsticker.app/augart/arart_kn/whitedeer_ar/spot/
「GINZA 456」について
https://ginza456.kddi.com/
アートの進化とテクノロジーの進化は両輪
東京・多摩センターにある「KDDI ART GALLERY」では、2021年3月に発表されたバーチャルヒューマン「coh(コウ)」がガイドとして活動中だ。スマートグラスをかけると目の前にARで出現し、作品解説を行う。また、エミール・ガレの花瓶「風景文花器」はARで完全再現され、現物の7倍サイズでの表示も可能だ。16Kの高精細画像により、肉眼では見にくいディテールも見ることができ、さらに花瓶の中に入ることもできる。
5GやXRなど、かつてなかったテクノロジーによってアートの表現は進化を遂げる。一方で、「こんな表現がしたい」というアーティストからの希望に応えることで、テクノロジーも進化する。いまやテクノロジーとアートは相互に作用し、表現・鑑賞の仕方も多様に進化している。
人間の日常生活を便利にするだけでなく、人間の文化をいかに豊かなものにすることができるか。さまざまな分野でKDDIの通信テクノロジーは貢献していくのだ。
文:TIME&SPACE編集部
撮影:森カズシゲ
※掲載されたKDDIの商品・サービスに関する情報は、掲載日現在のものです。商品・サービスの料金、サービスの内容・仕様などの情報は予告なしに変更されることがありますので、あらかじめご了承ください。