2020/12/09
冬ごとにアンテナを撤去!?福島屈指の景勝地「浄土平でスマホが使える」を実現した舞台裏
福島県・磐梯朝日国立公園の標高約1,600メートルに位置する山岳景勝地「浄土平」。
吾妻小富士(あづまこふじ)や一切経山(いっさいきょうざん)といった登山者に人気の山の玄関口でもあるこの地は、ビジターセンター、レストハウス、散策路などが整備され、マイカーやバスで訪れて手軽に美しい景色を堪能できることから、登山者のみならず多くの観光客が訪れる。
浄土平でauの携帯電話が利用可能に
そんな浄土平はかねてより、auの電波が届きづらい状況が続いていた。新たな構造物を建てることが難しい国立公園内にあるうえ、電気や水道といったインフラが整備されておらず、携帯電話の電波を届ける基地局を建てることが条件的に極めて難しい場所だったためだ。
そんななかKDDIは、登山者の安全性や観光客の利便性向上のため、そして地元の関係者からの要望を受け、浄土平で携帯電話が使えるようにしたいと、磐梯朝日国立公園を管轄する環境省や福島県に打診し、協議を重ねてきた。
そして景観に配慮し、基地局を設置する際は目立たない場所に限ることなどを条件に、浄土平における通信エリア対策工事がスタート。2020年8月に工事が完了し、ビジターセンター、レストハウス、登山道、散策路、駐車場など、浄土平周辺の主要スポットでauの携帯電話が使えるようになった。
浄土平のレストハウスやビジターセンターには「auつながります」のステッカーが貼られ、ここでauの携帯電話が使えることを利用者に伝えた。
浄土平で携帯電話が使えることの意義
浄土平でauの携帯電話が使えるようになったことを、地元の人たちや、ここを訪れる観光客、登山客はどのように捉えているのだろうか。浄土平レストハウスを管理するスタッフに話を聞いた。
「浄土平は観光客だけでなく登山者も多く、携帯電話は緊急時の連絡手段としても重要な役割を果たします。以前は『え、ここスマホ使えないの?』とがっかりされるお客様も少なくありませんでした。『仲間と連絡が取りたい』『撮った写真をSNSに投稿したい』と思っても、電波が届いていなかったんですね。
浄土平でauの携帯電話が使えるようになったことは、ここを訪れるお客様にとってはもちろん、レストハウスを管理する私たちとしても非常に意味のあることです。スタッフ間の業務連絡も以前はトランシーバーなどを使っていましたが、最近は携帯電話が主流になりました」(浄土平レストハウス 浅見宗一郎さん)
「私自身、auユーザーなのですが、以前はここでスマホを使えずに困っていました。auがつながるようになったことで、家族や仲間と連絡が取れるようになり、とても助かっています。
最近はInstagramに浄土平の美しい景色の写真などを投稿しています。浄土平は山の上にあるため、下界は雨が降っていても雲上の浄土平は晴れている、ということも珍しくありません。Instagramに写真を投稿すれば、それを見た人は、浄土平がいまどんな状況なのかをリアルタイムで把握できますよね。それも電波がつながっているからこそできることです」(浄土平レストハウス 武藤美輝さん)
冬にアンテナを撤去する理由とは?
一方、浄土平におけるauの通信エリア対策工事は一筋縄ではいかなかった。
「携帯電話に電波を届ける基地局を稼働させるうえで、電気は欠かせません。浄土平は電気が通じていないため、電源の確保は大きな課題でした。そこで浄土平レストハウスさんに相談したところ、レストハウスさんの発電機から電気を提供いただけることになり、電源の問題をクリアすることができました。
また、レストハウスさんには、お客様の目につかない建物裏の屋外の敷地に基地局設置の許可をいただくなど、今回の通信エリア対策工事において多大なご協力をいただきました」(KDDI 亀井秀章)
「浄土平に電波を届けるうえで、もうひとつ大きな問題がありました。浄土平は電気や水道だけでなく通信回線も届いていないため、今回の通信エリア対策工事では衛星から電波を受信するアンテナを利用する必要があったのですが、アンテナを屋外に設置する場合、強度の問題で、冬の厳しい気候に耐えることができません。
浄土平は冬になると深い雪に覆われます。周辺の積雪は5メートルを超え、猛烈な吹雪に見舞われることも。そこで、本格的に冬の到来の前に、設置したアンテナを一時的に撤去しなければならないんです」(KDDI 尾形雅美)
浄土平に通じる磐梯吾妻スカイラインは11月中旬頃から4月上旬頃まで通行止めとなり、レストハウスやビジターセンターなどの施設もすべて閉鎖される。それほど深い雪に覆われるということだ。
磐梯吾妻スカイライン閉鎖後、auの通信エリア対策工事関係者は特別な許可を得てこの道路を通行して浄土平へ向かい、本格的な冬の到来に備えてアンテナを撤去する。
レストハウスの建物裏に設置した携帯電話の基地局からアンテナを取り外す関係者たち。上の写真の白いお皿のようなものが、衛星から電波を受信するアンテナだ。
衛星アンテナを取り外し、基地局を積雪から守る囲い板(下の写真左奥のオレンジ色の板)を設置して、本格的な冬に向けた作業は完了。足元にはすでに雪がちらほらと。また来年の春にここを訪れて、再びアンテナを取り付けることになる。
一度取り付けたものを、本格的な冬が来る前にわざわざ外して、春にまた設置し直す。手間も時間もかかるが、観光シーズンに利用者が安心して携帯電話を使うために欠かせない作業となる。
「浄土平は以前、auの電波が届きづらく、お客様から『ここでも携帯電話を使えるようにしてほしい』と要望が寄せられていました。ようやく電波を届けることができて、『auが使えるようになって良かった』という声を聞くとうれしく思いますし、自分としてもやりがいを感じます。電波を届けることは、安心を届けることにもつながりますから」(KDDI 亀井秀章)
「国立公園であることや、電気や通信回線といったインフラが未整備であることなど、浄土平の通信エリア対策工事は条件や制約が多く、ここに至るまで試行錯誤の連続でした。携帯電話はみなさんの安全・安心な暮らしを支える重要なライフライン。これからも使命感を持って仕事に取り組んでいきたいと思います」(KDDI 尾形雅美)
ひとりでも多くの利用者が、安心して携帯電話を使えるようにするために。KDDIはこれからも、利用者の声に耳を傾けながら、そして自然環境に配慮しながら、「つながらない」を「つながる」へと変える取り組みを進めていく。
文:榎本一生
撮影:有坂政晴
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