2020/12/07

国立劇場が音のVRで文化発信に挑戦!雅楽とオーケストラの世界初360度アンサンブル

1966年10月に誕生し、開場以来50年以上にわたり日本の伝統芸能を支えてきた国立劇場。校倉造の正倉院を模した建物には、歌舞伎や日本舞踊などを上演する大劇場、文楽・邦楽・琉球舞踊・雅楽・民俗芸能を上演する小劇場がある。歌舞伎俳優や大衆芸能などの養成も行っており、古典芸能の保存・振興・普及を担う、まさに日本の伝統芸能の殿堂である。

国立劇場の外観と小劇場エントランス

コロナ禍でコンサートやイベントの開催制限が続くなかで、今回、国立劇場とKDDIが手を組み、先進技術を用いたコロナ後の新しい文化発信を目指す試みとして、現存する世界最古の管絃楽である雅楽と、ヨーロッパ文化を代表するクラシックオーケストラの共演を、KDDI総合研究所が開発した5G時代のテクノロジー「音のVR」での配信を実現した。

雅楽とオーケストラが共演した「音のVR」コンテンツ
雅楽とオーケストラが共演した「音のVR」コンテンツ 「音のVR」の視聴映像。上・ステージ奥から客席を見た視点、下・視点を180度反転するとこうなる

「音のVR」とは、KDDI総合研究所による独自の技術。スマホやタブレットで専用アプリ「新音楽視聴体験 音のVR」を用いて、演奏中の好きなパートを画面上でピンチアウト(拡大)すると、映像と同時に、その歌声や楽器の音色に寄って視聴することができるというもの。まるで演奏している舞台上を自由に移動しているように雅楽とオーケストラのアンサンブルの多様な音色を楽しむことができる。

雅楽とオーケストラの共演を、楽器の音色と映像に寄れる360度動画で配信するのは世界で初めてのことだ。

「新音楽視聴体験 音のVR」アプリのダウンロードはこちら ※2020年12月7日現在、iOSのみでの配信となります。

「音のVR」で東西オーケストラが360度アンサンブルを実現

雅楽を演奏する「伶楽舎」は、現代に伝えられている古典作品だけでなく、歴史の過程で失われた曲の復元や、新曲を委嘱制作・演奏して研究と普及に務めている。

一方のクラシックオーケストラの演奏は、「新日本フィルハーモニー交響楽団」。1972年に指揮者・小澤征爾を中心に自主運営のオーケストラとして生まれ、世界的指揮者との共演のみならず、地域に根ざした演奏活動を続けている。

「音のVR」で共演した雅楽とオーケストラのみなさん 「音のVR」で共演した「伶楽舎」と「新日本フィルハーモニー交響楽団」のみなさん

日本の伝統芸能を支える国立劇場の舞台上で、歴史も文化的背景も奏法も音色も異なる東洋と西洋の“オーケストラ”が「音のVR」で融合したのである。今回、共演したのは次の2曲だ。

・君が代(編曲:石井眞木・1998年)
・組曲「惑星」より、ジュピター(雅楽編曲:東野珠実/オーケストラ編曲:山口尚人・2020年)

さらに、伶楽舎の単独演奏で、「平調音取 越天楽」、新日本フィルハーモニー交響楽団単独の演奏で、「くるみ割り人形」花のワルツより、も演奏された。

国立劇場での「音のVR」収録の模様

舞台中央に「音のVR」収録用の360度マイクとVRカメラを設置。コラボ曲と、それぞれの単独演奏曲において楽団の配置は変わったが、いずれも「音のVR」の機材を取り囲むようにして演奏し、収録を行った。

コロナ後に向け、舞台芸術はどうなっていくのか。通信テクノロジーを活用することでどんな展望を持ち得ることができるのか。このプロジェクトに携わった国立劇場、伶楽舎、新日本フィルハーモニー交響楽団、それぞれの思いを聞いた。

日本の伝統芸能の灯をともし続けるために(国立劇場)

舞台芸術のあり方を見据えた新たなチャレンジとして、今回のプロジェクトの舞台となった国立劇場では、コロナ禍以降「つながる伝統芸能」と題したデジタルコンテンツを積極的に配信している。配信を開始したのは2020年3月以降のことだと国立劇場 制作部 伝統芸能課の石橋幹己さんはいう。

国立劇場伝統芸能課・石橋幹己さん 国立劇場 制作部 伝統芸能課・石橋幹己さん

「国立劇場では開場以来、公演の映像を記録しています。国立劇場の意義は古典芸能の保存・振興・普及ですが、記録映像を外部に配信したのは50年以上の歴史で初めてのことでした」

きっかけは、チケットを販売し、稽古まで終わった歌舞伎の公演が新型コロナウイルスの影響により中止を余儀なくされたこと。

「せっかくなので観ていただきたかったのですが、配信なら地方や海外在住で歌舞伎を劇場で観る機会を持ちにくい皆様にもご覧いただけるということに気づきました」

満席の国立劇場 大劇場 コロナ禍以前の満席になった国立劇場 大劇場の様子

今回の雅楽とオーケストラの共演を「伝統音楽の枠組みを見直す機会になるかもしれない」と述べる。

「クラシック音楽は日本に入ってきて150年以上育まれてきました。かたや、雅楽ももとを正せば千年前に中国大陸から日本に入ってきて定着し、伝統となった音楽。東洋の雅楽も西洋のクラシック音楽も同じように定着し、いまやすごい演奏家がいる……世界的に見ても日本ほど多様な音楽を継承している国は他にないのではないでしょうか。雅楽と西洋のクラシック音楽の共演は “新しい日本文化”として発信する可能性に満ちていると思ったんです」

国立劇場小劇場の舞台上に設置された「音のVR」収録機器 国立劇場小劇場の舞台上に設置された「音のVR」収録機器

石橋さんは伝統芸能と「音のVR」は相性がよいという。

「歌舞伎でも文楽でも、古典芸能は同じ演目を何百、何千回と上演しますが、観るたびに新しい発見があります。『音のVR』も、視聴者の嗜好や気分によって好きな演者や楽器をその都度変えて、寄って見直すことができる。そういう点で非常に古典芸能とマッチしていると思います」

同じ演目でも出演者が変わったり、観る席が違うだけでも感じ方は違う。多くの人々が劇場に来て体験するそうした感覚を「音のVR」では擬似的に体感できるのだと石橋さんはいう。

東西古典音楽の共演が音のVRで伝えられること(伶楽舎)

では国立劇場で共演を果たした東西古典音楽の両オーケストラはどんな思いを持ったのだろうか。伶楽舎の笙(しょう)奏者・東野珠実さんは、「『音のVR』は非常に斬新で強力」だという。

伶楽舎の笙奏者・東野珠実さん 伶楽舎の笙奏者・東野珠実さん

「『音のVR』では、皆様がまるで舞台に座っているような感覚で音の響きに囲まれることはもとより、スマホを操作し自ら手を伸ばして音に触れる、これはまさに前代未聞の音楽触覚体験ですよね」

雅楽とオーケストラが共演した「音のVR」コンテンツ
雅楽とオーケストラが共演した「音のVR」コンテンツ 「音のVR」の視聴映像。上・新日本フィルハーモニー交響楽団との共演の模様、下・伶楽舎単独の演奏

さらに雅楽が伝承される仕組みにも、新たな可能性が生まれた。

「雅楽の演奏の修練は、基本は口伝なんです。楽譜はありますが、演奏の仕方は古来『唱歌(しょうが)』という歌をもとに、口伝えで習います。人そのものがメディアとなり、音楽を後世に伝え、千年続いてきました。雅楽は、まさにサステナブル=持続可能性の実証例と言えますが、これからの千年に向けた伝承法の一つに、VRというメディアが寄与してゆくかもしれませんね」

「音のVR」を使って雅楽を体験すれば、あたかも演奏者のそばにいて、その楽器の奏法や音色を目の当たりにしながら、音楽を体得することもできるのだ。

「音のVR」のなかで東西の世界観を融合(新日本フィルハーモニー交響楽団)

新日本フィルハーモニー交響楽団の事業部部長・貝原正三さんは、雅楽との共演で新たな学びを得たと語る。

新日本フィルハーモニー交響楽団事業部部長・貝原正三さん 新日本フィルハーモニー交響楽団 事業部部長・貝原正三さん

「本質的な話でいうと、私たちオーケストラと雅楽では音階にも違いがあります。その一点でも合奏は無理だと思っていたのですが、ご一緒してみて非常に素晴らしいものができたと感じています。

今回の共演では、伶楽舎さんが『ラ』の音を442Hzに上げて演奏できたことに大きな意味があります」

貝原さんによると、オーケストラと雅楽では曲のテンポ感とリズム感が異なり、雅楽では演奏中にテンポが変わるといった違いもあったが、それを個性として生かすことができたのだという。

雅楽とオーケストラが共演した「音のVR」コンテンツ
雅楽とオーケストラが共演した「音のVR」コンテンツ 「音のVR」の視聴映像。上・伶楽舎との共演の模様、下・新日本フィルハーモニー交響楽団単独での演奏

「雅楽の演奏のテンポは、曲のなかで自在に変わります。それは自然と一体になったゆったりとした間合いです。そのため、オーケストラと雅楽が小節ごとにすべてピッタリ合わせて演奏するのは、むしろ不自然なのです。細かく合わせることは無理でも、10小節、1曲全体で同じ世界観をつくりだすことができればいいのだと気がつきました。

共演した『ジュピター』では、私たちの導入部から雅楽の主旋律のパートになると、グッとテンポが遅くなります。その後、私たちが加わって速まる。お互いに違うことをやっているからこその化学変化が生まれたと自負しています」

国立劇場と「音のVR」という組み合わせのなかで、東西オーケストラの共演が実現し、そこから新たな文化発信の可能性が生まれた。それは非常に意義深いことだと話してくれた。

通信テクノロジーのサポートで次世代に向けた文化発信を

日本の伝統芸能を支えている国立劇場での東西の古典音楽の融合を、「音のVR」で実現し、発信するこのプロジェクトで、KDDIはアフターコロナ時代の文化振興におけるひとつの可能性を提示した。

「音のVR」を開発したKDDI総合研究所の堀内俊治は、今回の取り組みにおいて達成できたポイントをこう語る。

KDDI総合研究所の堀内俊治 KDDI総合研究所 イノベーションセンター・マルチモーダルコミュニケーショングループ 堀内俊治

「雅楽とオーケストラの共演ということもあり、各楽器の音量の差が大きかったので、今回、中央の360度マイク以外に、一部の楽器には個別にマイクを立てました。コンテンツ制作の際に、これらを一部ミックスすることで、各楽器がより際立つ音に仕上げることを狙いました」

国立劇場での音のVRコンテンツ制作の模様

今回は、これまでにない広いスペースで、多くの楽器の音を収録した。なにより、国立劇場という舞台で「音のVR」を作り上げることができたことに感慨がある。

「日本の伝統芸能を支えてきたこの大舞台で、アーティストの皆様や制作の皆様と力を合わせ、雅楽とオーケストラの共演、360度VR撮影し、音と映像で近づけるという世界初(※)の作品を作ることができたことを光栄に思います。『音のVR』は視聴していただく方々それぞれに、好みの楽器に近寄ってそれぞれの音色をじっくり聴いていただくことができる仕組みです。今回の作品をきっかけに、より多くの人に音楽や伝統芸能に興味を持ってもらえればうれしいですね」

国立劇場の「伝統をつないでいきたい」という思いと、KDDIの使命である通信のチカラで「人々の命を、暮らしを、心をつなぐ」という思いが共鳴し、今回の企画はつくられた。

では最後にあらためて、関係者のインタビューとともに、「音のVR」体験映像をご覧いただこう。

コロナ禍における特殊な状況だからこそ、それを乗り越えていくためのさまざまな新しい試みも生まれている。「新音楽視聴体験 音のVR」アプリを活用した新しい音楽視聴体験の提供もその一つだ。社会課題の解決や、ワクワクを提案し続けるために、今後もKDDIはパートナーとともに新しい体験価値を提供していく。

※2020年12月7日、KDDI総合研究所調べ。好きなパートに音と映像で近づける、雅楽とオーケストラの共演による360度動画の配信が世界初。

文:TIME&SPACE編集部
写真:落合由夏

※掲載されたKDDIの商品・サービスに関する情報は、掲載日現在のものです。商品・サービスの料金、サービスの内容・仕様などの情報は予告なしに変更されることがありますので、あらかじめご了承ください。

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