2020/10/15

尾瀬国立公園の課題に通信が果たす役割 登山者の安全確保からシカ対策まで

尾瀬の全山小屋でauの携帯電話が利用可能に

群馬県、福島県、新潟県、栃木県の4県にまたがる尾瀬国立公園。日本有数の広大な高層湿原を擁し、ミズバショウやニッコウキスゲをはじめとする希少な高山植物が生育していることから、国の特別天然記念物に指定されているほか、国際的に重要な湿地を保全し生態系を守るためのラムサール条約湿地にも登録されている。

尾瀬国立公園
尾瀬国立公園
尾瀬国立公園 湿地帯を縫うように木道が続き、その脇でミズバショウが美しく咲き誇る

そんな尾瀬はかねてより、携帯電話の電波が届かない状況が続いていた。新たな構造物の建設が難しい国立公園であることに加え、歩きスマホによる事故や希少な動植物への影響、尾瀬の静かな景観を損ねることなどが懸念されていたためだ。

そんななか、懸念される景観を考慮しつつ、登山者の利便性の観点から、尾瀬国立公園で携帯電話が使えるようにしたいとKDDIと関係各所に協議を重ねてきた。そして山小屋やビジターセンターの建物内での通信に限定し、利用状況をモニタリングすることを条件に、2017年9月より同公園内の山小屋内の通信エリア対策工事をスタート。

2019年9月には対策工事および現地調査が完了し、尾瀬国立公園の全山小屋20カ所の建物内においてauの携帯電話が利用できるようになった。またKDDIは、各山小屋の建物内にて、すべての携帯電話で利用可能な無料Wi-Fi「OZE GREEN Wi-Fi」も提供している。

尾瀬ヶ原散策や至仏山(しぶつさん)登山の拠点として人気の山小屋、至仏山荘では、周囲の景観に配慮し、基地局は小屋内の床下に設置した。

尾瀬・至仏山荘
尾瀬・至仏山荘 至仏山荘の地下に設置された携帯電話の基地局

各山小屋には「auの4G LTE ここでつながります」のステッカーが張られ、auの通信エリア対策工事が完了し、携帯電話が利用可能になったことを示している。

尾瀬・至仏山荘に貼られた「auの4G LTE ここでつながります」のステッカー

登山者の安心・安全のために

かつて使えなかった携帯電話が、使えるようになった。そのことを尾瀬の現地の人たちはどのように捉えているのか?

福島県の檜枝岐村(ひのえまたむら)にて御池ロッジや尾瀬沼ヒュッテなど山小屋の支配人を務める星睦彦さんは、登山者の安全確保の観点から、尾瀬で携帯電話が使えることの意義を次のように語る。

檜枝岐村役場 観光施設事業所 星 睦彦さん 檜枝岐村役場 観光施設事業所 星 睦彦さん

「いまやどこでも携帯電話が使えるのが当たり前の時代。それは山も同じで、かつて電波が届いていなかった北アルプスや南アルプスでも、主要な登山道や山頂では携帯電話が使えるようになってきました。携帯電話は登山者に怪我や事故があったときの連絡手段として非常に重要な役割を果たします。尾瀬の山小屋で携帯電話が使えるようになったことは、登山者の利便性を高めるとともに、安全確保や人命救助の面でも大きく貢献してくれます。もちろん、利用者のマナーの問題もありますが、それは山でも街でも同じこと。携帯電話を利用する際は、周りの状況や環境に配慮しながら、マナーを守って使うことが求められます」

尾瀬ヶ原の入山口、鳩待峠(はとまちとうげ)にある鳩待山荘の支配人・林友一さんも、登山者の安全確保における携帯電話の有用性を指摘する。

鳩待山荘 支配人 林 友一さん 鳩待山荘 支配人 林 友一さん

「静かな尾瀬を求めて訪れる方はたくさんいらっしゃいますが、携帯電話の使用については、いろいろな意見があります。ただ、登山者の安心・安全、救助の面から見ると、携帯電話が使えることのメリットもあります。

以前に尾瀬の登山道で心肺停止になってしまった登山者がいました。そこは携帯電話がつながらないエリア。たまたま通りかかった別の登山者が山小屋に伝えてくれましたが、もし電波がつながっていれば、もっとスムーズな救助活動ができたかもしれません。

そういった生死に関わることは稀ですが、足をくじいたり、熱中症になったりして、行動不能になってしまうケースは少なくありません。そのような状況を踏まえると、迅速な救助のためにも、携帯電話が使えたほうがよいことは間違いないと思います。ただ、緊急を要しない場面での利用については、十分マナーに気をつけて使用してほしいです」

山小屋で働くスタッフが望むこと

至仏山荘の副支配人・松場加奈さんは、山小屋で働くスタッフの視点から、尾瀬で携帯電話が使えることのメリットを語る。

至仏山荘 副支配人 松場加奈さん 至仏山荘 副支配人 松場加奈さん

「山で携帯電話が使えることに対する捉え方は、世代によって異なります。年配の登山者の方のなかには『山で携帯電話なんて使えなくていい』という方もいらっしゃいますが、若い世代にとってはいつでもどこでも携帯電話が使えて当たり前。『えっ、山に入ったらスマホって使えないの?』と驚かれる方もいるほどです。

また、登山者だけでなく、私を含めた山小屋で働くスタッフにとっても、休憩時間にSNSで友だちとやり取りしたり、動画を見て楽しんだり、スマホはなくてはならないもの。若いスタッフのなかには『電波が通じるから』という理由で働く場所を選ぶ人も少なくありません」

シカの食害対策に通信を活用

KDDIは尾瀬における携帯電話の通信エリア化に加え、尾瀬エリアが抱える課題解決に向けて、通信を活用した取り組みを進めている。

尾瀬の玄関口のひとつである福島県檜枝岐村は、かねてよりニホンジカ増加による湿原植物の食害被害に悩まされてきた。尾瀬の湿地帯に咲く希少な植物が、ニホンジカに食い荒らされてしまっていたのだ。

大きな音と煙を放つ轟音玉による追い払いなど、さまざまな対策を実施してきたが、その効果を検証するには村役場から離れた湿地帯へ足を運ばなければならないため、人的負担が大きく、移動や作業の効率化のためにニホンジカの生態を把握する必要があった。

そこでKDDIと檜枝岐村は、ニホンジカの生態把握のため、au 4G LTE対応の自動撮影カメラを食害エリアに設置。動物を感知すると自動的にシャッターが切られ、撮影した写真はリアルタイムでメール送信される仕組みだ。

尾瀬・御池田代エリアに設置されたKDDIの自動撮影カメラ
尾瀬・御池田代エリアに設置されたKDDIの自動撮影カメラ 尾瀬・御池田代エリアに設置されたKDDIの自動撮影カメラ
尾瀬・御池田代エリアに設置されたKDDIの自動撮影カメラ 自動撮影カメラで撮影された写真。奥にはシカが映っている

シカの食害対策を担当する檜枝岐村役場の星広大さんによると、KDDIの自動撮影カメラはシカの生態把握に一定の成果が得られたという。

檜枝岐村役場 産業建設課 星 広大さん 檜枝岐村役場 産業建設課 星 広大さん

「これまでは轟音玉を投げてシカを追い払っても、それが一時的なものなのか、その後ずっと寄り付かなくなるのか、確認することが難しかったんです。

KDDIさんの自動撮影カメラで撮影された写真から、日時や温度、雌雄などの種別、移動方向などを特定することができ、一度轟音玉を投げるとしばらくはそこに寄りつかないことや、雨の日や雷の日はあまり活発に動かないこと、20時以降がもっとも活発に動くことなど、シカの生態についてさまざまなことがわかりました。今回のKDDIさんとの取り組みを踏まえたうえで、今後の対策を考えていきたいと思います」

通信のチカラで、地域の課題解決へ

尾瀬の通信エリア対策を担当したKDDIの早戸洋介と鈴木毅は、携帯電話の電波を届けることや地方自治体との取り組みの意義について次のように語る。

「ただ通信をつなげるのではなく、どのように通信を活用していくのか? お客様と一緒に考えていくのが私たちの仕事です。これからも通信を活用し、地域のみなさんのお役に立ちたいと考えています」(KDDI 早戸洋介)

「つながっているからこそ、できることがあります。KDDIの強みは、通信を活用した包括的なソリューションを提供できること。これからも地域が抱える課題解決にKDDIの通信技術を役立てていきたいです」(KDDI 鈴木 毅)

KDDI 建設本部 エリア品質管理部 北関東エンジニアリングセンター 早戸洋介、鈴木 毅 KDDI 建設本部 エリア品質管理部 北関東エンジニアリングセンター 早戸洋介(左)、鈴木 毅(右)

つながらなかったところが、つながるようになる。それによって助かる人たちがいる。KDDIはこれからも、自然環境の保全に配慮しながら通信エリア対策を進め、地域が抱える課題解決や利用者の利便性の向上のために通信のチカラを活用していく。

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文:榎本一生

撮影:小池彩子

※掲載されたKDDIの商品・サービスに関する情報は、掲載日現在のものです。商品・サービスの料金、サービスの内容・仕様などの情報は予告なしに変更されることがありますので、あらかじめご了承ください。