2020/07/29

【au20周年】au20年の携帯電話史 創刊20年のケータイWatchだけが知っていること

auとケータイWatch20周年ロゴ

2020年7月、auは20周年を迎えた。TIME & SPACEでは、同じく20周年を迎えた、インプレスが運営するニュースサイト「ケータイ Watch」とのコラボレーション企画を実施。

20年前のネットワークといえば、まだ第2世代移動通信システム(2G)が主流で、そろそろ第3世代移動通信システム(3G)が始まろうかという時期。その後、現在の4Gや次世代の5Gへと進化してきたが、この20年間にauではどんな動きがあったのだろう。

本記事では、同じ20年を歩んできたケータイ Watch編集長・関口聖さんとITジャーナリストの法林岳之さん、そしてフィーチャーフォンをほとんど知らないスマートフォン世代の若手編集部員・竹野弘祐さん、北川研斗さんが、過去の記事アーカイブを掘り起こしながらその歴史について語り合う。今回は前編として、携帯電話端末の話題を中心にその足跡を追ってみた。

左上:ケータイ Watch編集長・関口聖さん 右上:ITジャーナリスト・法林岳之さん 左下:ケータイ Watch編集部員・北川研斗さん 右下:同・竹野弘祐さん 左上:ケータイ Watch編集長・関口聖さん 右上:ITジャーナリスト・法林岳之さん 左下:ケータイ Watch編集部員・北川研斗さん 右下:同・竹野弘祐さん

20代の若手編集部員が初めて手にした携帯電話とは

竹野さん「ついに3月から高速・大容量通信の5Gのサービスが始まりましたね。auの「データMAX 5G」のプランだと、定額料金で高速通信し放題。すごい時代になりました。僕は大学受験のときにプリペイド型の携帯電話を持たされたのが初めてで、大学入学直後にスマートフォンにしたんですけど、北川さんはどうでしたか。」

北川さん「僕も高校2年のときだったから、10年前ですかね。最初に出たXperiaで、そのときは珍しかったイヤホンジャックが搭載されていて、音楽関連の機能に強かったから選んだのを覚えてます。auからはソニー・モバイル・コミュニケーションズから「Xmini」という機種が出ていて、それと迷ったんですが、専用の平形イヤホン端子がネックで……。」

「Xmini」レビュー auの超コンパクトなWalkmanケータイ - ケータイ Watch

Walkman Phone, Xmini Walkman Phone, Xmini

法林さん「「Xmini」って、正確には「Walkman Phone, Xmini」っていう名前だったよね。ソニーの代表的なブランドである「ウォークマン」を携帯電話の商品名に初めて入れたってことで、メーカーとしてもかなり気合が入っていた製品だったと思う。イヤホンジャックを搭載していなかったのは、当時はイヤホンジャックの部品が大きくて、コンパクトな本体に収まらなかったからっていう事情もあったみたい。「Xmini」には3.5mmのイヤホン端子に変換するアダプターも同梱されていたから、普通のイヤホンも使えたんだけど。」

関口さん「折りたたみ式の携帯電話が多いなかで、「Xmini」はテンキー部分を引き出せるスライド式という、当時のソニー・モバイル・コミュニケーションズならではの少し珍しいスタイルでしたね。この端末の発売に合わせて「着うたフルプラス」という高音質の音楽配信サービスもスタートして、携帯電話で本格的に音楽を楽しめる時代がいよいよきた、という感じでした。そういう意味で、「Xmini」はケータイを音楽プレーヤー化した先駆けでもあったと思います。

今のスマートフォンでは当たり前になっているWi-Fi通信の機能はもちろんなかったので、高音質の音楽ファイルをダウンロードするのはけっこう大変でした。でも、遡ると2003年にはauが下り最大2.4Mbpsの高速な3G通信サービス「CDMA 1X WIN(CDMA2000 1xEV-DO)」を導入して、データ通信が定額になる「EZフラット」というプランが利用できるようになったから、ダウンロードに時間がかかっても通信料金を気にすることはなくなった。4Gのときはありませんでしたが、3Gの時代にはデータ通信定額プランが実は存在していたんですよね。」

2003年11月発表の「EZフラット」 2003年11月発表の「EZフラット」

法林さん「定額プランの「EZフラット」って、発表された当日まで始まることを知らなかったというメーカーの人がいたくらいのサプライズだった。もちろん、他のキャリアの人たちも定額プランが発表されるとは思っていなかったから、先を越されて焦ったんじゃないかな。」

竹野さん「まさに寝耳に水だったと。」

法林さん「そうだね。定額制を導入するのはそう簡単な話じゃない。設備投資も必要だし、トラフィックの需要予測も重要。極秘ながらもKDDIは積極的に設備投資を進めていたのだろうし、ユーザーひとりが利用できる通信容量も経験上見えていたために、定額でもいけると踏んだんだと思う。当時は、パケット通信(データ通信)を使いすぎて利用料が高額になってしまう「パケ死」という言葉もよく耳にしたけど、それ以降はなくなったよね。」

関口さん「「EZフラット」を最初に利用できた端末が日立製「W11H」と京セラ製「W11K」の2機種でした。特に「W11K」のほうは角張ったインパクトのある外見から、ロボットアニメのキャラクターっぽい携帯電話だと話題になりました。」

au、高速通信と定額制を実現した新サービス「CDMA 1X WIN」 - ケータイ Watch

ケータイ Watchではその頃、年に一度の特集として、読者投票で注目ニュースを選ぶ「読者が選ぶケータイ10大ニュース」という記事を出していて、2003年は見事「CDMA 1X WIN」のニュースがトップ。その前年の2002年も「CDMA2000 1x」がトップだったから、2年連続でauはユーザーに強い印象を与えてきたんだなあと。

読者が選ぶ 2002年 10大ニュース 結果発表 - ケータイ Watch

読者が選ぶ 2003年 10大ニュース 結果発表 - ケータイ Watch

2002年の結果(ケータイ Watch) 2002年の結果(ケータイ Watch)
2003年の結果(ケータイ Watch) 2003年の結果(ケータイ Watch)

地図でナビできる初めての「GPSケータイ」から、タフネスケータイ「G'zOne」シリーズまで

関口さん「ちなみに2008年の話に戻ると、「Xmini」の少し前に登場したのが、東芝製の「Sportio」っていう端末。この形、個人的には好きなんですが、若手の2人にはグッとこないですかね。従来はテンキーの上に選択・決定キーが配置されているのが当たり前だったところを変えた、画期的な製品だったんだけれども。」

モーションセンサー搭載のスポーツモデル「Sportio」 - ケータイ Watch

Sportio Sportio

竹野さん「これはまたユニークな形ですね……。」

法林さん「「着うたフルプラス」のときの「Xmini」もそうだけど、「携帯電話の進化を新しいサービスと連動させたい」っていう考え方がおそらくauには強く感じられた。

「Sportio」も歩数や消費カロリーなどを自動計測できるようにした初めての端末で、その年の初めにリリースしていたフィットネスデータの記録が可能な「au Smart Sports」というサービスを活用するための端末でもあったんだよね。

携帯電話の性能が上がってきたときに「どれだけ性能が高いか」ではなくて、ユーザーがそれで「なにができるか」「どう楽しめるか」というところに重きを置いてアピールしてきている。

3Gでもそうだったし、今の4Gや5Gでも同じことを繰り返しているけど、携帯電話会社は「どれだけ高速か」みたいに技術先行で話をしたがってしまうもの。でも、auは昔からそうじゃないんだよね。

そのいちばんわかりやすい例として他にも挙げられるのが、2001年以降の動画メールに対応する「ムービーケータイ」や2002年に発売された「C3003P」などの「GPSケータイ」。特に「C3003P」は端末に搭載したGPS機能を地図サービスと連携してナビゲーションできるようにした、日本初の「GPSケータイ」だった。」

電子コンパス搭載のGPSケータイ「C3003P」 - ケータイ Watch

C3003P C3003P

法林さん「そうして下地をつくっておいて、高速・定額通信が可能な「CDMA 1X WIN」で一気にサービスを普及させる。単に高速だとか画面がきれいとかじゃなく、高速な通信でなにができるか、精細な画面だからなにに使えるか、ということを意識しつつ、ハードウェアと一緒にサービスをつくり込んで出してくるのがauの強みなんだよね。」

関口さん「そういった、auが「ユーザーがどう使えるか」を意識しつつもチャレンジングな携帯電話としてぜひ押さえておきたいのが、2000年に初めて登場し、その後長くシリーズ化したカシオの「G'zOne」です。」

IDO、C303CA・C304SAを2月17日(木)発売 - ケータイ Watch

ケータイWatch スタパトロニクスーホントにタフで防水でした:IDO C303CA - ケータイ Watch

C303CA(2016年、au SHINJUKUでのイベントで展示されていたもの) C303CA(2016年、au SHINJUKUでのイベントで展示されていたもの)

竹野さん「わりとゴツい、タフネス系の端末ですよね。腕時計の「G-SHOCK」にも似ているような……。」

法林さん「そう、要するに携帯電話版の「G-SHOCK」なんだよね。KDDIの前身であるIDOとDDIセルラー時代だけではなく、auブランドでも発売された機種。カシオがauに供給した最初の携帯電話であり、携帯電話として初めて防水性能と耐衝撃性能を備えたモデルだった。最初はストレート型の2機種を発売して人気を集めたんだけど、それからしばらく新製品が出なかった。

これはどうしてかというと、折りたたみ式がトレンドになったのがいちばんの大きな理由。折りたたみ式だと、配線のあるヒンジにどうしても水が浸入してショートしてしまう。なので、逆転の発想で水に浸かっても大丈夫なケーブル素材にしたうえで、上下のボディへケーブルが入る部分に防水のためのパッキンを新たに設けるという、当時としてはウルトラCな対策で実現したんだよね。それで2005年に満を持して「G'zOne TYPE-R」という形で発売して、再び人気を博した。」

au、折りたたみ型のタフネスケータイ「G’zOne TYPE-R」 - ケータイ Watch

G'zOne TYPE-R G'zOne TYPE-R

関口さん「その後もいくつか新しい機種が出ましたが、「G'zOne TYPE-R」の正統進化版として2010年に発売された「G'zOne TYPE-X」が、フィーチャーフォンでは最後のモデルになりました。2011年には初めてスマートフォンの「G'zOne IS11CA」が生まれて、2012年の「G'zOne TYPE-L CAL21」でいったんG'zOneシリーズは終わりましたが、タフネススマホとしてはそれ以降、京セラの「TORQUE」シリーズに受け継がれていきましたね。」

上/G'zOne TYPE-X 左/G'zOne IS11CA 右/G'zOne TYPE-L CAL21 上/G'zOne TYPE-X 左/G'zOne IS11CA 右/G'zOne TYPE-L CAL21

また、カシオ製端末でもうひとつ面白かったのが2011年発売の「CA007」という携帯電話です。アデリーペンギンを大々的にフィーチャーした製品で、待受画面にアデリーペンギンがいろいろなアニメーションパターンで登場するっていう。

アデリーペンギンを大々的にフィーチャー「CA007」 - ケータイ Watch

CA007。アデリーペンギンがそこかしこに登場 CA007。アデリーペンギンがそこかしこに登場

北川さん「あ、カワイイですね。」

法林さん「折りたたみ型の端末なんだけど、閉じて開くたびに違うパターンのアニメーションが待受に表示されて、とにかくたくさんバリエーションがあるので長く楽しめるというものだった。かわいらしいペンギンの姿もそうだけど、こういうユーザーが携帯電話そのものを楽しめるようにする工夫にもauは積極的に取り組んでいたよね。」

カメラ付きケータイで出遅れるも、カシオ製「A3012CA」で挽回へ

竹野さん「ところで最近のスマートフォンは、特にカメラ機能がフォーカスされがちですよね。4Gや5G、Wi-Fiのような高速通信のおかげで誰とでも写真を簡単に送り合ったり、SNSに投稿したりと、幅広い楽しみ方ができるから、ということでもあると思うんですが、通信がそこまで高速じゃなかった以前のカメラ機能ってどんな感じだったんでしょう。写真の楽しみ方も限られていたんじゃないですか。」

法林さん「auはサービスを連動させる形で携帯電話を進化させてきたけど、なんでもタイミングよく出せてきたわけじゃない。たとえば、カメラ付きケータイという意味ではちょっと他社から出遅れてしまったんだよね。」

関口さん「auの初めてのカメラ付きケータイはカシオ計算機製の「A3012CA」で、発売は2002年でした。「写メール®」で有名になった他キャリアのカメラ付き携帯電話は2000年には発売されていたから、2年もあとになってしまいました。」

カメラ搭載「A3012CA」などCDMA2000 1x対応のGPSケータイ - ケータイ Watch

A3012CA A3012CA

法林さん「それでもカシオは、初期の民生用コンパクトデジタルカメラである「QV-10」や薄型の「エクシリム」といった、当時のデジカメの流行の先端を生み出した開発者が携帯電話の開発にも携わったりして、遅れたけど、遅れたなりに頑張っていた。カシオのケータイで撮った写真は、当時としてはすごくきれいだったね。

活用の仕方としては、メールに写真を添付して交換することが多かったと思う。だけど、メールで送れる写真のファイルサイズや解像度には制限があったので、画質は低かった。外部メモリーカードを利用できる機種もあったけど、そういうのはまれで、パソコンに写真を取り込むにはケーブル接続して専用のソフトを使わなければいけなくて、手間はかかったね。」

関口さん「ただ「CDMA 1X WIN」で通信もそこそこ高速、料金も安価になったおかげで、写真と携帯電話の相性は一気によくなりましたよね。2000年前半は海外でSNSが広がり始めた頃。日本だと「mixi」が2004年にスタートしていますが、そこに投稿する人も多かったかと。メールから送信してブログみたいなサービスに投稿する仕組みがあったり、あとは端末の壁紙に設定する、という楽しみ方をしていたかな。」

法林さん「その頃はどちらかというと、海外より日本のほうがケータイ写真の活用については進んでいたと思う。日本の携帯電話は折りたたみ式が主流で、画面サイズを比較的大きくしやすかった。画面が大きいと写真は当然扱いやすいから、相手にメールアドレスを聞いて写真交換する行為がわりと当たり前だったんだよね。でも海外はストレート型の携帯電話が中心で、カメラ機能にもあまりピンときていなかった。海外はテキストメッセージのみのSMSが主流で、写真なども扱えるMMSが普及し始めるのはもう少しあとだったから。」

竹野さん「日本の携帯電話は日本人好みの形に発展していったわけですね。」

法林さん「当時、携帯電話市場で世界一の座にいたノキアが日本に研究所をつくったり、Appleが今も日本に研究所を置いているのは、そういうところも関係しているんだと思う。ケータイの新しい使い方を見つけるという点では、日本はすごく早いものがあるんだよね。」

世界に認められた「au Design project」シリーズと、初の日本仕様のAndroid端末「IS」シリーズ

関口さん「新しさという点で印象深いのは、2003年の「INFOBAR」から始まる「au Design project」のシリーズです。「INFOBAR」のあとは「talby」「neon」「MEDIA SKIN」といったモデルが登場して、2009年からの「iida」というブランドにつながっています。スマートフォンになってからも「iida」ブランドで2011年以降に再び「INFOBAR」シリーズが復活しているので、2人も記憶があるんじゃないかな。強いインパクトを与えたデザイン携帯電話の、まさに金字塔と呼べるモデルですよ。」

au、厚さ11mmでタイル状ボタンが印象的な新端末「INFOBAR」 - ケータイ Watch

au、フラットデザインに高機能を搭載した「talby」 - ケータイ Watch

au design project第5弾の「neon」 - ケータイ Watch

上/INFOBAR 左/talby 右/neon 上/INFOBAR 左/talby 右/neon

竹野さん「「INFOBAR」、見たことあるかなあ……。10歳くらいのことなので、あまりよく覚えていませんね。」

北川さん「初代の「INFOBAR」、もちろん知ってますよ。スマートフォンの「INFOBAR」にも触ったことがありますし。ニューヨーク近代美術館(MoMA)にもあるんですよね。」

法林さん「「INFOBAR」「talby」「neon」「MEDIA SKIN」の4機種はMoMAの収蔵リストに入っている。いわば美術品、芸術品として捉えられているわけで、「au Design project」の端末は文句なしにケータイの一文化、一時代をつくったモデルだよね。特に初代「INFOBAR」は、無印良品の製品も手がけている深澤直人さんがデザインして、ものすごくヒットした。「talby」もマーク・ニューソンというデザイナーの作品だけど、彼はその後Appleへ入り、デザイングループに参加していた。どちらも注目のデザイナーの手によるもので、auの人選は見事だったなと。」

北川さん「僕としては2011年に登場したiidaブランドの「G11」が格好いいなあと思いましたね。あとは草間彌生モデルの携帯電話シリーズも気になりました。」

写真で見る「G11」 - ケータイ Watch

iidaのArt Editions、草間彌生モデルが7月30日発売 - ケータイ Watch

左/G11 右/私の犬のリンリン 左/G11 右/私の犬のリンリン
左/宇宙へ行くときのハンドバッグ 右/ドッツ・オブセッション、水玉で幸福いっぱい 左/宇宙へ行くときのハンドバッグ 右/ドッツ・オブセッション、水玉で幸福いっぱい

竹野さん「草間彌生モデルの100万円っていう価格にはびっくりしましたが、企業としてはかなり勇気のいる決断だったんじゃないですかね。」

関口さん「これほどまでにデザインにフォーカスした携帯電話を先駆けて発売したのは、世界でもauじゃないですか。」

法林さん「本当にそう。草間彌生という世界で評価されている日本の芸術家が携帯電話をデザインしたということは、大きな話題になったし、今では考えられないくらい斬新な取り組みだったと思う。ところが、auがそうやってデザイン重視の端末をリリースしている頃、米国ではiPhoneが登場し、2008年には日本でもデビューした。」

北川さん「その頃のauはスマートフォンにあまり積極的ではなかったような印象があります。」

関口さん「それを挽回するモデルとして登場したのが、2010年発売の「IS」シリーズですね。折りたたみ式でQWERTYキーボード付き、トラックボールも備えていて、パソコンっぽいところもある。なので、当時は「スマートフォン」ではなく「スマートブック」という呼び方をしていました。インターネットのコンテンツを使う端末としてはこういう装備が必要ではないか、というauなりのひとつの解ですよね。」

Android搭載のシャープ製スマートブック「IS01」 - ケータイ Watch

IS01 IS01

法林さん「基本的な通話の仕方がハンズフリーで、通話機能はおまけみたいなところがあったのが、「スマートフォン」ではない理由のひとつではあったんだろうね。でも個人的には、この路線で進化した端末もほしかったなあとは思ってる。ただ、「IS」シリーズのポイントはまた別のところにもあって、それは、いわゆる「日本仕様」がしっかり搭載されたAndroid端末として出してきたということ。

他のキャリアでもすでにAndroid端末は発売されていたんだけど、それらは海外向けのグローバル端末をほとんどそのまま日本に持ってきているような形で、日本の市場で求められる仕様は入っていないんだよね。auが「IS」シリーズとして出してきたのは、まさにその日本仕様を実現するためだった。「IS01」はワンセグが見られて、「IS03」はおサイフケータイを搭載してきたわけで。

竹野さん「どちらも製造はシャープなんですね。」

法林さん「シャープは当時、Googleと密に連携できる体制と関係性を整えていた数少ないメーカーだった。もっと言うと、シャープにはAndroid OSのベースとなっているLinux OSに精通している開発者が多かった。なぜなら、シャープはそれ以前からLinuxベースのPDA端末である「Zaurus」を作っていたから。

「Zaurus」を開発していた人たちがau向け端末の開発チームに異動になって、後に「IS」シリーズの開発や企画に携わったと聞いてる。ワンセグやおサイフケータイの機能は、日本のユーザーにとって絶対に必要とされるもの。そう思ってはいても、Androidはグローバル仕様をベースにしているし、他のメーカーはなかなかスマートフォンに手出しができなかったんだよね。

連続表示時間が延びたVGAザウルス「SL-C750」「SL-C760」 - ケータイ Watch

左/SL-C750 右/SL-C760 左/SL-C750 右/SL-C760

北川さん「ワンセグやフルセグ、モバイルSuicaなどの日本独自の電子マネーがAndroidスマートフォンで使えるのは、そのときのシャープ、auの資産が今に生きているおかげなんですね。」

竹野さん「それがなければ、今みたいにスマートフォン1台だけでお出かけするなんて不可能になっていたのかも……。」

法林さん「Android初期の端末である「IS03」でおサイフケータイにまで踏み込めたからこそ、現在の「スマートフォンで電車に乗れる」というところにつながっているのは確かだと思う。そうしたことは、アップルがiPhoneでFeliCaを搭載したことにもつながっていく。それまで各社は“素”のAndroidを採用していたけど、「IS」シリーズの登場によって、それ以降各社が日本向けのAndroid端末を出す決定的なトリガーになったと思う。」

IS03 IS03

auのスマートフォン戦略に欠かせなかったグローバル端末メーカー

関口さん「auにとってシャープは、そういう意味で重要なメーカーだったわけですけども、auの端末の歴史を語るうえで外せないメーカーは他にもいくつかあります。そのひとつは、北川くんの好きなあのメーカーです。」

北川さん「HTCですね!」

関口さん「意欲的なグローバル端末を作っていたHTCのようなメーカーをいち早く日本市場に適した形で取り込んだのも、実はauだったりするんですよね。」

法林さん「海外の端末メーカーが日本市場に参入するのは、意外と難しかった。当時は、海外と日本で電波の周波数帯の配置が違ったのもあったけど、実はSMSの処理も細かい部分が違っていた。そこを海外メーカーが入ってきやすいように徐々にネットワークを修正し、それによってHTCが日本向けのモデルを開発する流れに結び付いたわけ。

2012年、最初のモデルとなった「HTC J」からさっそくワンセグやおサイフケータイなどの日本仕様にも対応してきたし、そういう意味でもHTCは日本市場に早くから熱心に取り組んできたメーカーのひとつだったといえる。「HTC J」は最新のグローバルモデルをベースにしていたこともあって、新しいものを求める日本のユーザーのことをよく考えている、っていうところも感じられるよね。

HTCとKDDI、日本市場に特化したスマートフォンの開発で合意 - ケータイ Watch

au、おサイフケータイなど日本向けに開発された「HTC J」 - ケータイ Watch

HTC J HTC J

関口さん「日本仕様をしっかり考えて作っていたメーカーとして、もう1社ここで取り上げておくべきなのが「isai」シリーズのLGです。2013年に発売された「isai」は最初から日本専売モデルとして、auと密接な協力関係のもと開発された機種でした。ワンセグやおサイフケータイ、防水性能を備えるだけでなく、デザインやインターフェースにもこだわっていました。「水」をモチーフにしていて、画面に触れたときのインタラクションの仕方とか、操作していて面白いという感覚もありましたね。」

LGとKDDIが共同開発した新端末「isai」 相互理解につながった一大プロジェクト - ケータイ Watch

au、5.2インチスマホ「isai」を23日発売 - ケータイ Watch

isai isai

法林さん「2015年に出た「isai vivid LGV32」だと、背面を本革張りにするっていう遊び心も見せた。ちゃんと日本の市場のことを考えて工夫を凝らしていて、それでいてLGとしての意図も、auのエッセンスもしっかり入っている。ものすごくよくできた端末だったよね。」

「isai vivid LGV32」の本革モデル 「isai vivid LGV32」の本革モデル

北川さん「「isai」はもちろん知っています。僕がたしか十代後半だったから、わりと最近ですよね。au端末ということで、インターフェースにはau側の意見も取り込んでいたかと思うのですが、一般的にはメーカーとキャリアでどうバランスを取って作り上げていくものなんでしょう。」

法林さん「ユーザーインターフェースはキャリアが決めたガイドラインから外さないようにする場合もあれば、メーカーのカラーを尊重した形で作ることもある。そこはメーカーや端末のシリーズごとにまちまちじゃないのかな。ただ、この「isai」のときはLGとじっくり話し合って細部を詰めていったみたいだから、そういう意味でいうとauの思い入れもかなり強いモデルになっているとは思う。」

関口さん「思い入れの強さという点で印象深いものとしては、2014年発売の「Fx0」という端末もありました。Firefox OSを採用したスマートフォンで、当時の田中社長の強い情熱が感じられたことを覚えています。」

au、Firefox OSスマホ「Fx0」を12月25日発売 - ケータイ Watch

Fx0 Fx0

北川さん「名前は聞いたことがありますけど、本当に発売されていたんですか?(笑)」

法林さん「突然、12月25日のまさにクリスマスに発売されたのが、気付かなかった原因かもしれないな(笑)。Firefox OSを採用した「Fx0」は、位置付けとしては今でいうChromeOS搭載の「Chromebook」に近いものといえると思う。それをスマートフォン上で実現したのが「Fx0」だった。当時、他にもFirefox OSを採用した端末はあったけど、どれもローエンドモデルで、「Fx0」ほど本気のスペックで出してきたものはなかったんだよね。」

KDDIに聞くFirefox OS導入の狙い - ケータイ Watch

関口さん「「Fx0」はスペックのわりには安価で、どんどん高額になっていくスマートフォンに対するauとしてのチャレンジのひとつでもあったんですよね。残念ながら日本ではヒットすることなく終わってしまいましたが。」

5Gスマートフォンのラインナップから見るauの狙い

関口さん「こうしてauが、HTCやLGのようなグローバル端末メーカーと協力して日本仕様のスマートフォンをいち早く投入してきたり、「Fx0」みたいに独自の斬新な取り組みにチャレンジしてきた、ということを踏まえたうえで、2020年春夏のauが発表した5Gモデルのラインナップを見たときに、なにか気付くところはありませんか。」

au、5Gスマホ7機種を発表 - ケータイ Watch

北川さん「中国で人気のメーカーであるシャオミの「Mi 10 Lite 5G XIG01」がありますね。ZTEの「ZTE a1 ZTG01」も、auからスマートフォンで出すのは初めてじゃないですか。」

竹野さん「あとOPPOの「Find X 2 Pro OPG01」もラインナップしている。」

au、国内キャリア初のシャオミ製スマホ「Mi 10 Lite」発売へ - ケータイ Watch

auから、「ZTE a1 ZTG01」、ミドルレンジの5G対応スマートフォン - ケータイ Watch

OPPOの最新フラッグシップモデル「Find X2 Pro」、au限定で日本上陸 - ケータイ Watch

Mi 10 Lite(シャオミ発表会より) Mi 10 Lite(シャオミ発表会より)
左/ZTE a1 右/Find X2 Pro 左/ZTE a1 右/Find X2 Pro

関口さん「そうですね。特にシャオミとZTEの端末は、5G対応で十分に高いカメラ性能をもちながら、安価な価格が期待されている機種でもあります。手に取りやすいミドルクラスのラインアップを揃えることで、より多くの人に5Gを体感してほしいという気持ちの表れでもあるのかなと。海外で一定のシェアを獲得しているメーカーが端末を出す、という意味では、ここでも再びauのチャレンジングな姿勢が見えるようにも思います。」

法林さん「今回のように世代が変わるタイミングでは、どうしても新機種の値段は高くなってしまう。そこで「最高級品を揃えます!」というキャリアもあれば、ハイエンドなモデルも用意するけれど、「できるだけみんなに手に取ってもらいたい」と考えるauみたいなところもある。各社それぞれの考え方の違いが出て面白いよね。」

関口さん「グローバルの人気端末という意味では、サムスンの「Galaxy S20 Ultra 5G」や、5G対応ではないですが2019年に発売したサムスンの「Galaxy Fold SCV44」、2020年2月発売の「Galaxy Z Flip SCV47」といった、最先端モデル、ハイエンドモデルをau独占で出しているところにも注目したいですよね。」

au、6.9インチの「Galaxy S20 Ultra 5G」を7月3日販売 - ケータイ Watch

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上/Galaxy S20 Ultra 5G 左/GalaxyFold 右/Galaxy Z Flip 上/Galaxy S20 Ultra 5G 左/Galaxy Fold 右/Galaxy Z Flip

法林さん「グローバルで最先端を走っている端末を日本市場に持ってくるのは、本当にすごいことなんだよね。事実として、他のキャリアができていないわけだから。これはメーカー側の努力ももちろんあるけど、auもその引き出しを開けられたという底力があってこそなんだと思う。」

関口さん「ここまで振り返ってきて、2人はauの携帯電話、スマートフォンにどんな印象を受けましたか。」

竹野さん「auがこれまで長きにわたって「ユーザー目線」で取り組んできたんだな、ということがよくわかりました。携帯電話は端末メーカー各社がそれぞれ独自にサービスを入れ込んでいくイメージがあったんですけど、そこにauとして「ユーザーにこう使ってほしい」「こういうのがあったら便利になりそう」といった部分を考えてさまざまな要素を加えてきたんだ、と。今後も僕らのような世代の人から高齢者の方々まで、幅広い年代の人にとって使いやすいサービスがスマートフォンに入ってきてほしいですね。」

北川さん「たとえば「Galaxy S20 Ultra 5G」や「Galaxy Fold 」「Galaxy Z Flip」もそうですけど、値段から考えると、正直なところそこまで販売数は多くならないだろうなあと思うんです。でも、それら独自性のある面白そうな端末はしっかり出していく。そういう精神が垣間見えるのは、auならではなのかなと思います。音楽が聞ける「Xmini」や地図と連動するGPSケータイ、Firefox OSの「Fx0」についても、au的には「ユーザー目線」だけでなく、たくさんの人が「ワクワクするもの」を志向しているようにも感じます。これからもそういう姿勢が見える製品を期待したいですよね。」

法林さん「2人が言ったように、auは「ユーザー目線」を大事にして、携帯電話のハードウェアを進化させてくるのと同時に、関連するサービスもそれに連動させる形で発展させてきた。auほど、携帯電話のハードウェアとサービスがマッチしている会社はないし、それぞれを密接に結びつけるべきものとして提供してきたんだよね。そういうわけで、次回はauが手がけてきたその「サービス」の歴史にフォーカスしてみたいと思います。」

※この記事は、「ケータイWatch」編集部による寄稿記事です。