2020/03/02

急斜面を滑走する選手をドローンが自動追尾! 白馬で実現した新たなスポーツ観戦体験

雪の急斜面を「ライダー」と呼ばれる選手たちがスキーあるいはスノーボードで滑走する。ほかの選手たちが滑らない、いかに独創的で難易度の高いコースを選び、転倒などのミスなしに美しく、速く滑りきるかが勝負の基準となる。その様子はリアルタイムで中継され、観戦者は映像を通してライダーが滑っている場所の標高やスピードを逐一知ることができる――

「Freeride World Tour」(以下、FWT)はフリーライドスキー・スノーボードという競技の世界最高峰大会のひとつだ。雪山の自然のままの斜面をコースとし、決まっているのはスタート地点とゴール地点だけ。その間をまさに自由に滑走する、世界的な人気を誇るスポーツイベントである。

FWT Hakuba 2020で滑走する選手

審査員がジャッジする基準となるのは、「滑るラインの難易度」「滑りの流動性」「板のコントロール」「ジャンプ」「滑走技術」という5項目。この合計点数をもとに順位が決まる。

FWTの5つの採点基準

このFWT、2018年以降アジアでは唯一、長野県白馬村が開催地として選ばれている。カナダやオーストリア、スイスなどの世界の名だたるマウンテンリゾートをめぐる全5戦の大会だが、最高のパウダースノーや急角度の斜面を有する地形、都市からのアクセスの良さなどが評価されたのだ。

KDDIはこの白馬村で開催する「FWT」において、通信技術の面からサポート。今大会「FWT Hakuba Japan 2020」(以下、「FWT Hakuba 2020」)」では、標高2,000メートルの雪山を4G LTE ネットワークでエリアカバーし、先端テクノロジーを活用した新しい映像体験を提供した。

世界的エクストリームスポーツを、先端テクノロジーで、いかに伝えることができたのか。KDDIが「FWT Hakuba 2020」で実現した新たなスポーツ観戦体験と、その裏側を紹介する。

ドローンで選手を自動追尾撮影。滑走データと重ねて配信

こちらは、今回KDDIが「FWT Hakuba 2020」で提供した観戦映像をまとめた動画だ。

雪山を滑走する選手の位置情報をもとに、ドローンが自動追尾&撮影。その映像に、選手が持つauのタフネススマホ「TORQUE G04」から取得した“選手が今いる位置”の高度(標高)や速度といった滑走データを可視化して重ね合わせた映像を配信したのだ。

auのタフネススマホ「TORQUE G04」

今回、KDDIの通信技術によって実現した「新しいスポーツ観戦体験」には、大きく2つのポイントがある。

①ドローンが自動追尾中継! 選手の「トリック」を見逃さない

「FWT Hakuba 2020」の会場は、ゴンドラでアプローチできるゲレンデの、いわば裏山。スタートからゴールまで、斜面のどこをどう通って滑ってもよい。

FWT Hakuba 2020の開催会場となった白馬村の斜面

この自由さがフリーライドの魅力なのだが、観戦するうえでの課題でもあった。通常のアルペンスキー競技のように旗門を通るわけではないから、決まった場所にカメラを設置できないのだ。

そこで昨年の大会ではドローンを導入して競技中の選手を追尾した撮影を行ったのだが、手動での操縦だったため、予測不能な選手の動きを完全に捕捉できなかった。また、「引き」の映像が中心になり、それでも選手のスピードに追いつけずにフレームアウトしたり、肝心の「トリック(技)」を撮り逃してしまうことがあった。

こうした課題解決のために開発されたのが、ドローンによる自動追尾システムだ。

FWT Hakuba 2020の中継映像とドローン

赤い丸印が自動追尾ドローン。

競技中、選手はauの京セラ製タフネススマホ「TORQUE G04」を持つ。ドローンはこの「TORQUE G04」が発信する位置情報をキャッチして、一定距離を保って追尾するようにプログラミングされている。そのため、今年の大会では「引き」の中継映像だけではなく、横からのアングルやアップで選手たちを間近に捉えるなど、配信できる映像の自由度が格段に上がったのだ。

FWT Hakuba 2020の中継映像
FWT Hakuba 2020の中継映像

②TORQUE G04のセンサーによるデータの可視化

下の画像の右下に注目。

FWT Hakuba 2020の中継映像

この数字は、滑走する選手の時速と、いまどこを滑っているかを表した標高である。

「FWT Hakuba 2020」では、選手に配られたauの「TORQUE G04」の位置情報データを利用してドローンによる自動追尾撮影を実現すると同時に、このスマホが持つ各種センサーを活用して、中継映像で選手の滑走データをリアルタイムで配信することが可能になったのだ。

それが大会の中継における時速と標高の表示。

FWT Hakuba 2020の中継映像

いま滑っている標高を表示することでゴールまでの距離感がわかり、その選手がコースをどう滑ってきたのかを理解することができる。また速度がわかれば、技術重視なのかスピード重視なのかなどの判断基準になる。さらには「TORQUE G04」の位置情報データを使って、選手がどんなルートをたどって滑ったのかも表示された。

FWT Hakuba 2020の中継映像

滑るコースは選手が決める。観戦者は選手ごとのシュプールを確認することで、コースの難易度や、選手間の駆け引きを視覚的に確認することができる。こういったデータが選手のパフォーマンスやテクニックを把握するための大きなヒントになり、競技観戦を何倍もおもしろくするのだ。

タフネススマホ「TORQUE G04」のスペックを雪山で最大限に活用

こうして、今大会で大活躍したauのタフネススマホ「TORQUE G04」。1月の氷点下の雪山という過酷な条件のもと、激しいフリーライド競技での転倒や滑落といった衝撃に耐え、見事にその役割を果たすことができた。

auのタフネススマホTORQUE G04 FWTの選手たちに配られたauの京セラ製タフネススマホTORQUE G04
雪山のauのタフネススマホTORQUE G04

実は今回、「TORQUE G04」は選手だけでなく、イベントの現場でスタッフにも配られ、スタッフ間の通信手段として大いに活躍した。グローブを装着したまま、いつものようにスマホをタッチして操作できる「グローブタッチ」機能は、白馬という極寒の雪山においてスタッフ・選手を問わず大好評。

auのタフネススマホTORQUE G04

2020年から搭載された「トランシーバー通話」機能は、本体側面の「ダイレクトボタン」をワンプッシュすれば、あらかじめ設定したグループ全員と同時に通話できる便利な機能。実際にドローンを飛ばしていたFWTの開催会場とパブリックビューイングの会場でのコミュニケーションに大いに活用された。

「TORQUE G04」はタフネスさはもとより、こうした機能性の高さにおいても、使用した現場のスタッフから高い評価を得ることができた。

auのタフネススマホTORQUE G04活用の模様 TORQUE G04で屋外のスタッフと連絡を取りながらLIVE配信を進行するスタッフ

これらすべてを実現するための「4G LTE」エリア化

今回、新たな映像体験の提供が実現した仕組みがこちら。実際に構築された映像データ中継システムの模式図だ。

FWT Hakuba 2020のドローン自動追尾中継システムの模式図

選手が持つTORQUE G04のGPS情報は4G LTE回線でドローンの管制システムへと送られ、プロポ(無線コントローラ)を通じ、選手の位置をドローンに伝える。

一方、TORQUE G04のセンサーが感知した選手の速度や高度などの情報は、4G LTE回線でビジュアライゼーションサーバ(センサーが感知した情報を文字に変換し画面に表示する装置)へ送られ、ドローンから届く映像と重ね合わせてパブリックビューイング会場へと配信される。

これらすべてを実現するだけでなく、ゲレンデから離れた競技会場との通信をスムーズに行うためには、安定した4G LTEが必要だ。「FWT Hakuba 2020」において、選手たちが実際に滑走する標高約2,000メートルというゲレンデ外の斜面に電波を届けるため、KDDIは今回、期間限定で会場の4G LTEエリア化を行ったのである。

こちらが白馬村の山中に建設された可搬型基地局。4G LTEの電波はこの基地局から届けられる。

白馬村山中に設置された可搬型基地局

設営メンバーが取り付けているものがアンテナだ。このアンテナは「FWT Hakuba 2020」が開催された山の斜面に向けられる。

白馬村山中に設置された可搬型基地局

大会会場も、電波を送るこの場所も、人里からは遠く離れている。そこでKDDIは基地局の設営場所の選定のために、2019年秋から現地の下見をしていた。

可搬型基地局設置に向かうスタッフ

その結果、村外れの細い山道を約2km行った場所に設置することが決定したが、そこは冬場にはクルマの乗り入れが禁止される地域。すべての資機材を徒歩で運ぶことは不可能なので、2019年末、積雪で山道が通行止めになる前に、基地局を設置する機器架台のポール、ケースなどの資材のみをクルマで運搬した。無線機や電源装置は、年が明けてから実際に設置工事を行うタイミングでクローラで運んだ。

資機材を運搬する「クローラ」 雪山に基地局を設営するための資機材を運搬する「クローラ」

そうして、なにもなかった場所を基地局設営スタッフはシャベルで大量の雪を掘り返し、機材を降雪から守る架台を設置。

白馬村山中の可搬型基地局の設営場所

プロジェクトの決定から、おおよそ4カ月。こうして白馬村山中の可搬型基地局は設営を完了。大会期間の前々日に電波発射した。

白馬村山中に設置された可搬型基地局

「FWT Hakuba 2020」の競技時間はおおよそ2時間。その瞬間のために、これまで誰も経験したことがなかった新しいスポーツ観戦体験を実現するために、舞台裏では長い期間をかけて粛々と準備が進められていたのである。

白馬村に対してKDDIができること

今回のKDDIによる「FWT Hakuba 2020」へのサポートは、長野県白馬村の地域活性化にどんな効果をもたらしているのだろうか。白馬村観光局事務局長の福島洋次郎さんに聞いた。

白馬村観光局事務局長 福島洋次郎さん 白馬村観光局事務局長 福島洋次郎さん

「大会の盛り上がりこそが、白馬村の活性化にもつながっていると思います。白馬村にとってFWTの存在は大きく、2018年の大会開催以降、スキー・スノボのメインストリームである欧米での白馬の知名度が上がりました。以前は欧米のメディアで『JAPAN』『NAGANO』としか紹介されていなかったのが、今やきちんと『HAKUBA』に言及されるケースも多くなっています」

実は、白馬村とKDDIは2018年に「地域活性化を目的とした協定」を結んでいる。KDDIは、2019年1月に5Gを用いた除雪車の実証実験を白馬村で実施。役場の労働環境のスマート化に寄与しただけでなく、ワンストップで白馬のすべてが分かるアプリ「HAKUBA VALLEY」も手がけている。

「『HAKUBA VALLEY』は5カ国語対応で、多くの外国人観光客のみなさんに利用いただいています。白馬村という広大なエリアをアプリひとつで網羅することができ、白馬のことをより深く知っていただけるのはうれしいですね」

また、TORQUE G04を用いたドローンの自動追尾など「FWT Hakuba 2020」のプロジェクトを担当した、KDDI アグリゲーション推進部の繁田光平は、次のように語る。

KDDI アグリゲーション推進部長 繁田光平 KDDI アグリゲーション推進部長 繁田光平

「白馬村さまからのお声がけがあり、FWTという大会に対してKDDIの持つテクノロジーを掛け合わせることで、なにか新しいことができるのではないかと考えたのが、今回のプロジェクトの発端でした。雪山の過酷な環境下でフリーライドのすばらしいパフォーマンスを、より多くの人々に届け、新たなファンをつくり出していくことができたと感じています」

今回の「新たなスポーツ観戦」で使用したのは、4G LTEの電波である。だが、このプロジェクトは「5G」を見越したものでもある。

「5Gによる通信の進化で、リアルをいかに拡張できるか、ということにいま全力で取り組んでいます。そこで、新しいリアル体験として『スポーツが変わる』『街が変わる』『エンターテインメントが変わる』という3本柱を打ち出しています。今回のドローン中継システムは、今後5Gのエリア拡大とともに、あらゆるスポーツやチームを対象に、さまざまな場所で新しい観戦体験をみなさんに楽しんでいただけると考えています」

今回は、白馬という立地とFWTというスポーツ大会の特性を活かして「新しいスポーツ観戦体験」の提供を実現することができた。

今後もテクノロジーを活用して日本各地の様々な地域の創生に貢献し、Jリーグ、プロ野球、クライミングなど多くのスポーツにおける新しい観戦体験を提供していく。そしてまた、そこで得た新たな経験を糧に、スポーツに留まらない5Gによるさらなる変革を打ち出していくのである。

    TORQUE G04のバナー

FWT Hakuba Japan 2020のレポートは『TORQUEスペシャルサイト』でも紹介しています

写真:中田昌孝(STUH)
文:武田篤典

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