2020/01/31

横浜みなとみらい再開発の裏にスマホ電波対策あり! 知られざる「先読みと工夫」とは

現在、東京の渋谷や豊洲、横浜などでは大規模な都市開発が進み、日々、街が大きく変化している。一方、その裏では、携帯電話が問題なく使えるように、通信会社によるさまざまな電波対策が行われていることはあまり知られていないだろう。今回は横浜みなとみらい(正式名称/横浜みなとみらい21)の再開発地域で行われた電波対策を紹介しよう。

約30年で劇的に変わった横浜みなとみらい

ランドマークタワーや横浜赤レンガ倉庫などで知られる横浜みなとみらいは、横浜駅東口地区や中央地区、新港地区を合わせて186ヘクタール(東京ドームの約40倍)からなるエリアである。実は、その多くはみなとみらいの事業が着工した1983年以降に埋め立てられた土地で、それ以前は造船所や国鉄の貨物支線などがあった。

1985年、埋め立てが進む横浜みなとみらい(横浜市史資料室所蔵資料) 1985年、埋め立てが進む横浜みなとみらい(横浜市史資料室所蔵資料)

現在の横浜みなとみらいは再開発ラッシュを迎えており、ショッピングモールやオフィスビル、ホテル、学校や住居が建ち並ぶ大都市として、発展し続けている。

現在の横浜みなとみらい 現在の横浜みなとみらい

2019年には、客船ターミナルを中核にホテルや商業施設を備えた複合施設の横浜ハンマーヘッドをはじめ、資生堂グローバルイノベーションセンター、横浜アンパンマンこどもミュージアム、京急ミュージアムといったさまざまな施設が開業。2020年にはJR横浜タワーや横浜市市庁舎をはじめ、ホテルや商業施設、ライブ会場などが続々と誕生する予定だ。

横浜ハンマーヘッド 2019年に開業した横浜ハンマーヘッド

このような長い年月をかけた大規模な都市開発では、電波対策も特別なものになる。

変化し続ける横浜みなとみらいで“先読み”しながら電波対策を行う

再開発が進む横浜みなとみらいで、携帯電話をつなぎ続けるためにどのような電波対策が行われているのか。KDDIで屋外対策を管轄するエリア品質管理部の川島優子に聞いた。

KDDI エリア品質管理部 南関東EC 川島優子 KDDI エリア品質管理部 南関東EC 川島優子

「横浜みなとみらいのように新しいビルや施設が次々とできると、人の流れや動線、量に変化が生じて、電波にも影響が出てきます。ひとつは通信エリアへの影響。たとえば、横浜みなとみらいには開発中の空き地がたくさんあります。

横浜みなとみらいの空き地 横浜みなとみらいの空き地

ここに新しい建物が建つと、今まではつながらなくてもよかったところで携帯電話を使いたいというニーズが生まれて、新たに電波対策が必要になります」

電波対策の1つは携帯電話の基地局を設営することだ。

横浜みなとみらいで基地局を設営する 横浜みなとみらいで基地局を設営する

とはいえ、せっかく基地局を設営しても、再開発で周辺に高いビルや大きな商業施設が建つと、建物に遮蔽されて電波が弱くなることがある。その結果、これまでは電波がつながっていたのに、圏外になってしまうというケースもある。

ビルが基地局の電波を遮るイラスト 基地局から奥の建物に電波を送っていたが、目の前に新しいビルが建ったため、電波が遮られて弱まってしまう

「商業施設やホテルなどが開業して、お客様に電波の影響が出てしまってからでは遅いため、私たちはどこにどんな建物が建つかの情報を事前に入手し、その建物ができるとどのくらい電波に影響が出るかを“先読み”しながら対策を検討しています。

横浜みなとみらいの再開発に合わせた対策の検討は10年以上前からスタートしましたが、広大な敷地で常に開発が進んでいるうえ、段階的に建設予定情報が発表されるため、どの場所からどこに向けて電波対策を行うかの予測が非常に立てづらいのです。土地が限られている渋谷駅周辺の再開発などとは大きく違う、横浜みなとみらいならではの難しさがここにあります」

埋立地を広げながら再開発する横浜みなとみらい 広大な敷地で再開発が進む横浜みなとみらい

基地局はむやみに設置すれば電波がよくなるわけではない。広い範囲を複数の基地局でエリアをカバーする場合、それぞれの基地局から届く電波の範囲が重なってしまうと、互いに干渉しあって、中央部はつながりにくくなってしまう。基地局を設置する際は、事前にシミュレーションを行い、電波が届く範囲を確認する。基地局の設置後には現地調査でシミュレーション通りになっているかの再確認を行う。そうやってアンテナの角度や向きを細かく調整して、電波の干渉を抑えているのだ。

電波が重なるA地点は干渉しあってつながりにくくなる 電波が重なるA地点は干渉しあってつながりにくくなる

「横浜みなとみらいはオフィス地区や商業地区、居住地区、イベント地区など、さまざまな目的の建物や施設が融合するエリアです。開発によって街が刻々と変化するなかで、数年後にできる建物による電波の影響を見極め、電波の干渉抑制や通信量の対策を行う必要があります。そのために綿密なシミュレーションと現地調査をしながら電波対策を行っています」

横浜みなとみらいに設置された屋外用の基地局 横浜みなとみらいに設置された屋外用の基地局

このように横浜みなとみらいでは、非常に難しい調整が必要だったのだ。

イベント時には一時的に人口が増え、個別の電波対策が必要に

一方、横浜みなとみらいでは花火大会やお祭り、ゲームの大会など、多くのイベントが開催されている。イベント時には一時的に人口が増え、携帯電話がつながりにくくなることもある。そこで、自動車に基地局を搭載した車載型基地局などを使用して、特別な電波対策を行う。

車載型基地局 車載型基地局

特に大規模なイベントなどで快適な電波状況を目指すときには、“奥の手”を使うことも。たとえば、横浜みなとみらいで行われた花火大会のときは、電波の通信量を5倍にできる「5ビームアンテナ」という特殊な基地局を使用して電波の増強を行った。

横浜みなとみらいの花火大会で使われた5ビームアンテナ 横浜みなとみらいの花火大会で使われた5ビームアンテナ

KDDIでは横浜みなとみらいに限らず、こういったイベントに合わせた電波対策を、全国で行っている。

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横浜みなとみらいで地域全体を緻密にカバーする「屋外対策」。それに対して、建物の中でも快適に携帯電話がつながるようにするために行うのが「屋内対策」だ。再開発地域では新しいビルが次々と建造される。こういった場所ではどういった屋内対策が行われているのだろうか。KDDIで屋内対策を管轄するエリア品質管理部の中村正憲に聞いた。

KDDI エリア品質管理部 南関東EC 中村正憲 KDDI エリア品質管理部 南関東EC 中村正憲

「たとえば、横浜ハンマーヘッドのような大きな建物の場合は、屋内専用基地局を設置して電波を確保します。屋内専用基地局は、オフィスフロアや商業施設フロアなどの天井裏にアンテナを設置する大掛かりな工事です。ビルが建ってからの対策ではお客様に影響が出てしまうので、開業2、3年前の早期から、建築主と相談しながら、アンテナやケーブルの設置交渉や設計を行います

2019年10月31日に開業した横浜ハンマーヘッド 2019年10月31日に開業した横浜ハンマーヘッド

横浜ハンマーヘッドは2019年10月31日に開業しましたが、開業の2年前にあたる2017年から関係者への対策要否の確認依頼などを実施し、さまざまな調整を行い、2019年7月頃に基地局工事がはじまりました。

開業が迫る10月23日に基地局の利用がスタートし、横浜ハンマーヘッド内でauの電波がつながる状態になったんです」

丸い機器が屋内対用のアンテナ 丸い機器が屋内対用のアンテナ

屋内専用基地局は、屋内や屋外に設置した無線機から中継器を経由して、各フロアにあるアンテナから電波を飛ばす仕組みだ。フロアのレイアウトや人数の条件によってもアンテナの設計が変わる。大きなビルの場合、ビル内に這わせたケーブルの総長が10kmを超え、300基以上のアンテナを設置したケースもある。

屋内対策では無線機から中継器を経由して各フロアに電波を届ける 屋内対策では無線機から中継器を経由して各フロアに電波を届ける
※無線機は屋内に設置する場合も多くあります

「現在、横浜みなとみらいではオフィスビルの開発も進んでいますが、工事の段階では入居するテナントがわからず、使用人数が見えていないという状況もあります。そういった場合も未来の使用条件やシーンを予測して、“先読み”しながら電波対策を行っています」

屋内対策はビルの工事と同時に行うが、屋内の電波の品質を建設前に想定することは難しく、また、ビルの建設前は問題ない想定だったが、建設時に周辺環境が変わってしまい、電波が弱い場所が見つかることもある。そういったときは、屋内対策よりも工事がしやすい方法で電波対策を行う。

屋外に基地局からの電波を送受信するドナーアンテナを設置し、屋内にあるレピーターという装置で電波を増幅させるのだ。

基地局からの電波をキャッチしてレピーターで増幅させる 基地局からの電波をキャッチしてレピーターで増幅させる

「横浜みなとみらいでは、常に新しいビルが誕生し、古いビルが解体されることもあります。そうすると屋外から届く電波状況が変わり、その影響でこれまで屋内でつながっていた電波が弱くなることもあるんです。

一度、電波対策を行ったからといって、将来ずっとその電波が安定して使えるわけではありません。常に最適な電波状況に“更新”する必要があり、横浜みなとみらいはその頻度が非常に高いのです」

屋外にせよ屋内にせよ、良い電波状況を維持し続けるためには、都市開発に合わせた基地局の新設・移設・調整が必要となる。

時代とともにドラスティックに変化してきた横浜みなとみらい。2020年以降は、JR横浜タワー(ニュウマン横浜など)、横浜市市庁舎、ハイアットリージェンシー横浜、横浜東急REIホテル、ぴあアリーナMM、パシフィコ横浜ノースなど、新しいビルや施設が続々と誕生する予定だ。

これらの場所でも電波がつながるように、引き続き対策が行われる。どんなに街や人の流れが変わっても、みなさんの携帯電話がいつもどおり安心してつながるように、KDDIは“先読み”しながら電波対策を行うのだ。

横浜みなとみらい

文:TIME & SPACE編集部

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