2019/09/03
日本一の花火大会でスマホをつなげ! 電波を届ける舞台裏に密着
花火の夜、人口が普段の10倍に増える町に電波を
長野県諏訪市にある諏訪湖で毎年8月15日に開催される「諏訪湖祭湖上花火大会」。こちらは開催前日となる、2019年8月14日の会場の模様である。あまり人も見当たらない、とてものどかな場所だ。
それが開催当日には……
こうなる。
さて、実際に花火が打ち上がると、こんな感じ。
打ち上げられる花火の数は、日本一を誇る4万発。規模もさることながら、諏訪湖を取り囲む山々の反響効果で打ち上げの音も大迫力で楽しめ、湖上ならではの水上スターマインや全長2kmにおよぶ大ナイヤガラなど圧倒的なスケールを誇る演出が目白押しの花火大会なのである。
もちろん主役は花火であるが、今回、この記事でフォーカスしたいのは花火の手前。写真の下の方に見えるアンテナ。諏訪湖祭湖上花火大会のために、特別に対策したものだ。
8月15日の花火大会当日は、人口おおよそ5万人の長野県諏訪市に、1日だけ約50万人の人が集まる。
KDDIでは、携帯電話をつなぐための設備である電波基地局を全国に数十万局設置している。それでも今回の諏訪湖の花火大会のように、一時的に利用者が、しかも爆発的に増えるイベントでは臨時の基地局を立て、いつものように携帯電話が使えるよう対策を行っているのだ。KDDIがイベントに「出動」する数は、年間おおよそ100件! とくに7月〜9月の夏場が繁忙期だ。花火大会や音楽フェス、夏祭りなどのイベントが重なり、出動機会が増える。
今回、「TIME & SPACE」編集部は、諏訪湖祭湖上花火大会当日、臨時の基地局を設置する舞台裏に密着取材した。
湖岸の南北2kmに約50万人が集結 地形に沿った対策とは?
こちらが今回のイベントの舞台となる諏訪湖岸だ。
②湖岸のホテルの駐車場に設置した車載型基地局
③会場内に設置した可搬型基地局
④JR上諏訪駅前ロータリーに設置した車載型基地局
諏訪湖は周囲16kmの湖である。そして諏訪湖祭湖上花火大会は、1949年(昭和24年)から続く歴史あるイベントだ。湖上に設置された複数の打ち上げ場所から幅広く花火が上がり、湖に面したどのエリアからでも圧巻のパノラマが楽しめる。
では、人口が一気に10倍にも増える諏訪湖にどんな対策が必要なのだろうか。エリアを管轄するKDDI名古屋TC(テクニカルセンター)から現場入りした社員に話を聞いた。
「諏訪湖祭湖上花火大会の場合、会場の西側はすべて湖なので、観客の皆さんは湖に沿って、南北に広がって花火を観覧されます。それらの広い地域にいるお客さまの携帯電話をすべてカバーするために、既設の基地局4局に加えて、車載型基地局2局、可搬型基地局2局を臨時設置し、計8局体制で臨みます。これは名古屋TCが行うイベントへの対策のなかでも最大規模になります」(杉村)
対策を行うのは諏訪湖に沿った湖岸一丁目からヨットハーバーあたりまでの、直線距離で約2km超のエリア。
投入される「車載型基地局」と「可搬型基地局」とは?
こちらは、臨時に設置した「車載型基地局」である。
車載型基地局は、その名のとおり、“クルマに搭載された基地局”である。アンテナや発電機、バッテリーなど、電波を送受信するのに必要なすべての機器を車内に搭載している。
「このクルマは、先日8月10日に静岡県で行われた『ふくろい遠州の花火』から直接、上諏訪にやってきました。車載型基地局は、夏場のこの時期はフル稼働といっていいと思います。こちらはなかでも最新鋭の1台で、主要な7つの周波数帯を網羅するアンテナを搭載しています」(野津)
「駅前の車載型基地局は駅から湖に向かうお客様に向けて、湖岸の車載型基地局はすでに会場近辺にたどり着いたお客さまへ電波を届けるためのものです。湖岸線沿いに露店がたくさん出て、夕方に向けて人出がぐっと増えますので、対策が必要になります」(杉村)
現地に着いた車載型基地局は、近くの電柱から光ケーブルを引き込み、回線を開通させる。
そしてアンテナを伸ばす。
こうして携帯電話の電波は車載型基地局とつながった光ケーブルを通じて全国に届けられる。
一方こちらが今回、会場の公園内に設置された「可搬型基地局」。
可搬型基地局は持ち運んで組み立てる臨時基地局のこと。ここからは公園内の観覧席と、露店の立ち並ぶ湖岸線の歩行者天国に電波を送る。
KDDIでは主にこの2タイプの簡易型基地局を状況に応じて使い分けている。
「車載型基地局はロケーションが限定されます。現場までクルマで入っていけることに加えて、大きな車体を置けるスペースが必要になります。また、アンテナの高さが最大で14m程度なので、それ以上の高さから電波を送りたい場合は可搬型基地局になります。可搬型基地局では、長いハシゴの先にゴンドラを搭載した高さ25mほどのバケット車を運用することもありますし、建物の屋上に設置することも可能です」(杉村)
可搬型基地局は自由度が高いといえる。今回の可搬型基地局のひとつは、ホテルの屋上に設置されていた。
「屋上に設置した可搬型基地局は、ホテル近辺の路上や観覧会場に電波を送る役割だけでなく、公園内の可搬型基地局に対し回線を構築する役割も担っています。公園内には光ケーブルが来ていませんので、ホテル屋上に設置したパラボラアンテナから電波を飛ばし、公園内のパラボラアンテナで受けて可搬型基地局の回線を構築する「無線エントランス」という方法をとっています」(野津)
準備は半年以上前から 対策を開始したのは8年前から
こういったイベントへの対策、準備はいつ頃から始めているのだろうか。
「前年のイベントが終わった直後に“振り返り”を行います。名古屋TCの管制室でモニタリングは行っているので、どのエリアでどのぐらいのお客さまが携帯電話を使われているのかはデータとして残りますが、現地入りした社員が自分の目で見てイベントの状況を把握します。そのなかで“来年はあの建物の上に基地局を置くといいかも”といった改善策を得て、次年度に備えるのです」(上村)
諏訪湖祭湖上花火大会への対策を開始したのは8年前から。手探りの状態からスタートし、年々少しずつスキルアップしてきた。
「今回は、5月ごろから動き始めました。建物の高さや人の流れから“ここがベストだよね”という設置場所は見えてきますが、必ずしもそこに置けるわけではありません。今年の場合はある建物の屋上に基地局を置きたかったのですが、現地調査の結果、カラスが縄張りにしていて攻撃してくるということがわかり、泣く泣く断念しました」(野津)
こうして大会前日の8月14日午前中にはすべての基地局の設置が完了。
現地での設置が終わると、名古屋TCの管制室から遠隔操作で電波が発信される。その後、きちんと携帯電話で通話できるか、インターネットにつながるか、速度は問題ないかを調査し、最適に電波が送れるよう、アンテナの角度を微調整する。花火大会当日は、主に開催までの「最終的なチェック」を行うのが通例だ。
だが今年の花火大会では、当日までさまざまな調整を余儀なくされた。
超巨大台風10号が接近していたからだ。
台風10号西日本上陸! その日どんなふうに町に電波を届けるか
当日は諏訪湖岸には強風が吹き荒れていたため、いかに安全かつ効率的に電波を送ることができるかを開催ギリギリまで模索することになった。
「強風のため、前日までに設定していた高さまでアンテナを上げることができなくなったのです。高さを下げるかわりにアンテナの角度を調整して、うまく電波が飛ぶように調整する必要がありました」(上村)
夜7時からのイベント開始に向け、現地にいるメンバーは連絡を取り合いながら、どんどん増えてくる人波を縫うようにして目まぐるしく基地局間を移動する。
上諏訪駅前の車載型基地局に着くと、杉村が設営を委託している施工会社に指示を出してアンテナの角度を調整する。
アンテナの高さは電動で設定できるが、角度の調整は手動で行う。
調整後のアンテナの角度で電波が問題なく飛んでいるかをチェックし、管制室で遠隔監視をしているメンバーに報告。データをチェックし、結果を上諏訪の現場に連絡。何か問題があれば、改めてアンテナの角度を調整する必要が出てくる。
会場近くの諏訪湖岸の路上では、ホテルの屋上に設置した可搬型基地局の電波を野津が測定。
時折、強い雨もまじる天候のなか、どうにかアンテナの高さと角度も決まった。「これほど直近まで悩まされるケースはなかった」と、例年、イベントへの臨時対策を行ってきたメンバーたち。
そして管制室では、打ち上げ数時間前から花火大会終了まで担当者がモニターにつきっきりで、滞りなく通信されているかを遠隔監視し、状況に応じて必要なオペレーションを行っている。
私たちが会場に電波を届けているのだ! という自負
この花火大会を主催している諏訪市観光課から、例年行なっている電波増強の取り組みに関してしてコメントをいただいた。
「『諏訪湖祭湖上花火大会』は全国のみなさまが大変楽しみにされているイベントです。打上数4万発を誇る国内最大規模の花火大会であり、会場には例年約50万人の人出があります。携帯電話の普及により携帯電話通信の増強の必要性は年々強く感じるようになりました。人出が多い会場で基地局の車両があると、電波がつながりやすい状況だという安心感が持てます」
打ち上げの時間が近づくにつれ、人出は明らかに増えてきた。そして、多くの人々が携帯電話を普通に使っている。
「作業をしていると、お客様から声をかけていただくことがあるんです。『auちゃんとつながるよー』とか。いつも裏方として携帯電話をつなぐ作業をしているなかで、そんな言葉を直接聞けると、この仕事をやっていてよかったと実感します」(杉村)
誰かと待ち合わせの場所を相談したり、写真をSNSにアップしたり、近づいてくる台風の情報を検索したりしている。普段と変わりなくスマホを操作している観覧客の姿を見て、名古屋TCのメンバーもホッと胸をなで下ろす。
「『大丈夫かな』『ちゃんとつながっているかな』といつも心配になります。そこが問題なければ、あとは花火大会が楽しみです(笑)」(杉村)
「現地にいても、管制室からの通信状態の連絡が気になってしょうがないですね。ひたすら『ちゃんと電波が発信できているかな』という思いです」(野津)
こちらは上諏訪駅前に設置された車載型基地局からの花火の様子。この日、台風10号に屈することなく美しい4万発の花火が上がり、携帯電話は街中と同じようにつながっていた。諏訪湖祭湖上花火大会の電波対策は、問題なく終了したのである。
この車載型基地局、翌日には静岡県富士市に向かうのだという。今度は陸上自衛隊が開催する「富士総合火力演習」に電波を届けるためだ。
特別な体験は、その瞬間に誰かと共有したい。そんなときに携帯電話は人と人をつなぎ、喜びや感動を共有する大事なツールとなる。KDDIは人々の集うイベントでも普段と変わらずに携帯電話が使えるよう、電波を届けるために日本各地に出動している。その営みは、秋も冬も、これからもずっと続いていく。
文:武田篤典
写真:中田昌孝(STUH)
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