2019/04/17

プロスポーツ選手の動きを体得! 5Gが実現する『AIパーソナルトレーニング』の未来

次世代通信規格5Gや、人工知能・AIといった最新技術が普及すると、私たちの暮らしはどのように変わるのだろうか。

たとえばエクササイズ。身体を鍛え、余計な脂肪を落とし、美しい肉体を手に入れたいと誰もが願う。しかし、仕事や家事、育児に忙殺される毎日のなかで、トレーニングジムに行く時間を確保するのは難しい。また、エクササイズを効率的に行い、その効果を最大化するにはプロのトレーナーによる指導が欠かせないが、そのためには時間もお金も必要となる。

KDDI総合研究所が開発した「AIパーソナルトレーニング」は、そんな多くの人の悩みをテクノロジーによって解消しようとする画期的な試みだ。

KDDI総合研究所はかねてから、人に寄り添った技術で社会に貢献するという理念のもと、「行動認識AI」の実現に取り組んできた。行動認識AIとは、これまでの画像認識技術を発展させたもので、カメラの映像から「誰が」「どこで」「なにをしているか」までを認識するという技術だ。

「AIパーソナルトレーニング」はその技術を応用したもので、宅内のカメラ映像から人物の動きや姿勢などを推定し、動作を認識したうえで、姿勢やテンポをチェックして改善点をリアルタイムで音声や映像によってフィードバック。自宅に居ながらにして、より効率的に、正確にトレーニングを実践できるというものだ。

AIパーソナルトレーニングのイメージ図 AIパーソナルトレーニングのイメージ図
宅内行動認識AIの仕組み 宅内行動認識AIの仕組み

KDDIの通信と行動認識AIを活用した実証実験のひとつとして開発段階にある技術だが、今回はプロのフィットネストレーナーとして活躍する浦谷美帆さんに「AIパーソナルトレーニング」を体験してもらい、その感想を聞いてみることにした。

フィットネスインストラクターの浦谷美帆さん 浦谷美帆さん/フィットネスインストラクター、パーソナルトレーナー、ヨガインストラクター、ランニングコーチなど幅広く活躍

ナビゲート役は、「AIパーソナルトレーニング」の開発をとりまとめている田坂和之。KDDI総合研究所で行動認識AIを研究している。

KDDI総合研究所 田坂和之 KDDI総合研究所 田坂和之

スマホで動作を認識し、AIがアドバイス

まずは田坂がお手本を見せる。床に三脚でスマホをセットし、その前に立てば、準備完了。体験者が正しい動きをしているかをスマホのカメラを通してAIがチェックするのだ。

三脚を立てたスマートフォン
KDDIが開発したAIパーソナルトレーニング

モニターの指示に従い、いざエクササイズ開始。最初のメニューは、トレーニングの定番「スクワット」。難易度は「低」。これを10回行い、100点満点で採点される。

KDDIが開発したAIパーソナルトレーニング

右のモニターに表示されているのは田坂のスクワットのフォーム。身体の上に表示されているカラフルな線が、このシステムの根幹となる「行動認識技術」を応用したものだ。この線によって身体の動きを正確に読み取り、正しい動きをしているかどうかをAIが判断する。

左のモニターに表示されているのがAIによるアドバイスだ。GOODと判定されているものの、「太ももが床と平行になるまでしっかり曲げる」という文字が表示され、膝の曲げが足りないことを指摘されている。

続いて浦谷さんがスクワットに挑戦。

KDDIが開発したAIパーソナルトレーニングを体験する浦谷美帆さん

フォームが美しい。さすがはプロのトレーナーである。10回のスクワットを軽快にこなしていく。スコアは100点満点。お見事!

 

浦谷さん「「スクワットはきちんと胸を張って、膝が前に出ないように腰を落とすのがポイント。そこがしっかりと評価されていますね」」

続いて「ランジ」というメニュー。片足を前に出し、ゆっくりと腰を沈めることで、お尻や太ももの筋肉に刺激を与える。難易度は「中」。

KDDIが開発したAIパーソナルトレーニングを体験する浦谷美帆さん

浦谷さんのランジのスコアは79点。スクワットほど簡単にはいかなかったが、なかなかの高評価だ。

 

浦谷さん「「ランジは簡単そうに見えますが、お尻や太ももへの負荷が大きく、正しいやり方で行えば高い効果が得られます。ポイントは、背筋をピンと伸ばして、ゆっくりとした動作で行うこと。今回、少し動きが早くなったとき、モニターに『ペースが早すぎます』ときちんとアドバイスが表示されました」」

最後は「プロペラ」。片足で立って両手を開き、前傾姿勢でバランスを保ちながら、身体を左右に大きく捻る。難易度は「高」。

KDDIが開発したAIパーソナルトレーニングを体験する浦谷美帆さん

浦谷さんのプロペラのスコアは59点。このメニューは、トレーナーの浦谷さんでも完璧にこなすのは難しかったようだ。

 

浦谷さん「「プロペラは体幹の強さと高度なバランス感覚が求められるエクササイズ。私はすこしふらついてしまったのが減点の理由かもしれません。見逃しませんね(笑)」」

さて、実際にAIパーソナルトレーニングを体験した浦谷さんは、どのような感想を抱いたのだろうか。

 

浦谷さん「「スマホのカメラだけでモニターしているんですよね? 想像以上に細かいところまでフォームを見てくれているな、というのが率直な印象です。AIによるアドバイスを踏まえてエクササイズを行うことで、正しい動きを身につけることができるのはすごくいいですね」」

最近はDVDやYouTubeなどの動画を参考にしながら自宅でエクササイズを行う人も増えている。手軽に始められるというメリットはあるが、そのやり方が本当に正しいかどうか、自分では判別がつきにくく、また間違ったエクササイズは怪我にもつながりかねないという。

 

浦谷さん「「正しいやり方でエクササイズを行い、同じ時間で最大の効果を発揮するには、パーソナルトレーナーからマンツーマンで指導を受けることが本当は望ましいのですが、私の生徒さんのなかにも『忙しくてジムに行く時間を確保するのが難しい』という人はとても多いんです。

また、たとえ時間があっても『知り合いに会いたくない』、『エクササイズしている姿を人に見られるのは恥ずかしい』といった理由でジム通いを敬遠される人もいらっしゃいます。

その点、自宅に居ながらにして正しいやり方でエクササイズを行えるAIパーソナルトレーニングはとても魅力的。もしこれが実用化されて、一般に普及したら、エクササイズのスタイルを大きく変えるかもしれませんね」」

KDDI総合研究所の田坂和之とフィットネスインストラクターの浦谷美帆さん

5G時代はAIがコーチや先生代わりに

このAIパーソナルトレーニングの仕組みについて、田坂は次のように説明する。

 

田坂「「コンピュータによる機械学習、すなわちディープラーニングで覚えた人間の骨格の動きをスマホのカメラ映像で捉え、エクササイズの動作を認識。そのデータをもとに、正しいフォームかどうかをAIがリアルタイムで判断してアドバイスする、というのがこのシステムの大まかな仕組みです。

特別な機器を必要とせず、スマホさえあれば誰でも利用できるのがこのシステムの大きな特徴となりますが、映像のリアルタイム解析は高度な処理能力が求められるため、スマホ単体で行うことができません。

分析の精度を上げるには、とても大きな映像データをサーバーに瞬時に送信し、解析処理を行う必要があります。しかし現状の4G通信ではリアルタイムでやり取りすることが難しい。そこで、いつでもどこでもエクササイズの正確なアドバイスをするためには、高速・大容量・低遅延な5Gが必要になってくるんです」」

こういった「手軽に、しかも本格的にできる」ことが増えれば、そこに参加する人たちの裾野が広がる。フィットネスに限らず、さまざまな分野での活用が期待できそうだ。

KDDI総合研究所の田坂和之

AIパーソナルトレーニングはこんな分野にも応用できる!?

5Gが普及すれば、このAIパーソナルトレーニングの技術は、ほかのさまざまなスポーツに応用が可能だという。

【サッカー、野球教室で】

サッカーをする子どもたち
野球をする子どもたち

AIパーソナルトレーニングは自宅の中だけの活用に限定したものではない。屋外でサッカーや野球、ゴルフの練習をするときも、自分のフォームを細かくチェックすることが可能だ。たとえば、好きなプロ選手の動きをそのままトレースするような練習もできるだろう。

【ダンスのレッスンに】

ダンスの練習をする人たち

複数人が同時に、激しい動きのあるものを高精細に撮影すれば、それだけ映像データは大きくなるが、5G通信ではそういった重いデータも瞬時にやりとりが可能だ。たとえば、仲間同士のダンスレッスンの場合でも、みんなで一緒に踊りながら、それぞれの人が同時にアドバイスをもらうことができるようになる。

【ピアノなど楽器のレッスンにも】

ピアノの練習をする女性

スマホの高精細カメラと5Gの大容量通信によって、スポーツのトレーニングだけではなく、ピアノのような繊細な指の動きを求められるものでもAIパーソナルトレーニングは活用できる。世界の超一流ミュージシャンの指の動きをそのままトレースするといった練習ができるのだ。

 

田坂「「『AIパーソナルトレーニング』はまだ開発段階のもので、実用化や商用化については未定です。しかし、それは今後の5G時代になにができるかを具体化したもののひとつであり、私たちが思い描く未来への足がかりとなる実験でもあるのです」」

こういった技術を生かし、次世代通信5Gの未来では、これまでのケータイやスマホでは考えられなかったようなさまざまなサービスが生まれるだろう。行動認識やAIといった最先端の技術もそのうちのひとつだ。5Gが実現する、ワクワクする未来はもうすぐそこまでやってきている。

文:榎本一生
撮影:中田昌孝(STUH)

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