2019/03/14
スマホ育児のメリットとデメリット 保育士てぃ先生とママリ編集長に聞いてみた
スマートフォンやタブレットを育児に利用する「スマホ育児」は、もともとスマホを用いた知育やしつけ用のアプリを利用することを指した言葉でした。しかし近年では、「電車で泣きやまない子どもにスマホを与えて静かにさせる」「親がスマホを見ながら育児をしている」といった少々ネガティブなニュアンスを含む言葉として、テレビやネットで使われるようになっています。
では、スマホは子どもたちに見せてはいけないもの? そもそもスマホ育児はアリ? ナシ? ……この問題に対する意見は、考え方や世代によってさまざまです。そこで今回、TIME & SPACEでは子どもや子育てママの現場に詳しい3人による座談会を実施。
集まっていただいたのは、「スマホ育児は悪ではない」など、新しい時代の子育てを発信する現役男性保育士「てぃ先生」と、子育てママたちのお悩み解消サイトとして注目を集めている「ママリ」の湯浅大資編集長のおふたり。そしてKDDIから、子どもとスマホの付き合い方を提案する「スマホ・ケータイファミリーガイドon WEB」を運営するKDDIサステナビリティ推進室の海崎千恵子が参加。
未就学児童を持つ保護者が置かれている現状をはじめ、スマホとの上手な付き合い方、ルールづくりについて話し合ってもらいました。
子どもにスマホを見せることは「うしろめたい」?
湯浅「この座談会にあたり、まず「スマホ育児」に関するママたちの声を見てください。ちなみにコメントしているのは、未就学児を持つママたちです。」
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「スマホ育児を卒業したいです。外出中で静かにして欲しいとき(外食、買い物、電車等)スマホを渡してしまいます。私が悪いのですがすっかり癖がついてしまい、スマホがないとギャン泣きして困ってしまいます。普段スマホを見せることがない方やスマホ育児を卒業された方はお子さんがグズったときどう対応されてますか?」
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「娘と同じ歳ぐらいの子が外でスマホを見てると外では私は見せませんが『あ、よかった。スマホに頼っているのは私だけじゃないんだ……』と少し安心してしまいます(^^;) 同じ様な方いますか?? みんながやっているとは思わない方がいいんですかね(><)」
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「一歳八カ月の娘がいます。スマホ育児をやめたいのですが、私がご飯をつくっている時、いたずらしたり、抱っことせがまれるので、ついスマホで動画を見せてしまいます」
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「2歳の息子がいるのですが、YouTubeが大好きです。スマホ育児がいいことではないとわかっていても、つい家事を終わらせるためにはスマホに頼ってしまう自分がいます。依存性になってる気がしてまずいな~とは思っていました。そして主人から『育児を楽にするのは簡単だけど、ホントに子供を思うんだったらスマホを渡すのはやめた方がいい』と言われました」
海崎「ママたちのコメントを見ていると、スマホ育児に対して少なからず、うしろめたさがあるようですね。」
湯浅「ママリの投稿でも「何時間までなら見せてもいいですか?」「本当はやめたいけど、外でうるさくすると、つい見せてしまう……」という声はとても多いです。」
海崎「てぃ先生の保育園では、保護者からスマホについての相談があったりしますか?」
てぃ先生「「料理をしている最中につい見せちゃうんです」といった相談はありますね。お父さん、お母さんが忙しいので、スマホを使わざるを得ないシーンは当然あるのかなと思います。」
湯浅「一方で、スマホに関しては、日本小児科医会が明確に「スマホに子守をさせないで!」というメッセージを出していて、小児科などにポスターが貼られているんです。スマホはネガティブなものだ、という情報しか入らないから、それはママたちもうしろめたさを感じますよね。」
てぃ先生「でも、実際には子どもがスマホを見ていてくれると、家事や仕事がはかどるわけで、育児に欠かせないアイテムになっていることも事実です。保育園と幼稚園に通う子どもがいる家庭でも子どもと接する時間が全然違うし、小学生になればまたどんどん変わっていくと思うので、その時々で家庭に合ったルールのもとに使うぶんには、僕は問題ないかなと思っているんです。」
海崎「KDDIでも、スマホを使う際には親と子どもで一緒にルールづくりをしましょう、という啓発活動を実施しています。親からの一方的なルールではなく、一緒に決めれば、子どもも守りやすいのではないかと思います。」
湯浅「今のママたちは、子どもが生まれたときからスマホが身近にある、スマホ育児をする初めての世代だと思うんですね。初めての経験に対しては当然迷いもありますし、間違えたくないという思いもある。だから、最低限の目安というか、ここまでならスマホを使ってもOK、みたいに示してあげられると、ママの肩の荷も軽くなるかもしれません。」
てぃ先生「一般的に2歳以下のメディアへの接触は1日2時間以下と言われてます。そのなかにはデジタル絵本も含まれるのか、その良し悪しを時間という単位だけで区切ってしまうのも、ママたちにとって難しい気がするんです。」
湯浅「コンテンツ選びもありますよね。てぃ先生がつくった動画はいいけど、YouTuberの動画はちょっと……とか。これも膨大な情報のなかからリテラシーが求められるわけで、ママたちにとってはしんどいはず。」
てぃ先生「同じYouTubeでも子ども向けの動画だけを楽しめるアプリ「YouTube Kids」は、すでにフィルターがかかった状態なので少し安心ですよね。」
海崎「ひとつの対策ではあるのですが、スマホにはフィルタリング機能というものがあって、子どもに見せたくないサイトやコンテンツは、あらかじめ親が制限できる。そういった機能を使っていただくことも、ママたちの負担を減らす方法になると思います。こういう機能を上手に使いつつ、ママが子どもにスマホを見せるだけでうしろめたさを感じないで済むような状況が増えてくるといいですね。」
上手に使えば、スマホで子どもの知識の幅はどんどん広がる!
湯浅「いろいろな機能ができていて、大人がコントロールできる部分は、どんどん進んでいるんですよね。それでも、スマホを使うと目に悪い、ゲーム脳になる、依存症になるといったネガティブな情報がママたちを苦しめているという状況があります。」
てぃ先生「今の子どもたちは、将来的にずっとスマホと付き合っていく世代ですよね。僕が子どもの頃、親にゲームを禁止されてコソコソ隠れてやったりしていたんですけど、そういう経験があると「ゲームはよくないもの」という刷り込みってずっと消えないんです。今の子どもたちに対して、親が「スマホはよくない」と思いながら使わせていると、きっと子どもも同じ考え方になる。スマホに抵抗感があるまま付き合っていくのは、子どもにとっても辛いと思います。」
湯浅「それはすごく納得ですね。そもそも、スマホは悪いことばかりではないですからね。」
てぃ先生「むしろ、いい面もたくさんあると思っています。うちの保育園では、3歳児から部屋にタブレットが置いてあるんですけど、タブレットがあるだけで子どもの知識の幅はとても広がります。新幹線好きな子どもが絵本や図鑑を見るのもいいけれど、うちでは子どもと先生が一緒にタブレットで検索しています。同じのぞみでもいろいろ型があるんだとか、「黄色の新幹線もあるんだ」とか。子どもたちの知的好奇心を膨らませる効果もあるんですよね。」
湯浅「十数年前に、何時間もパソコンにかじりついて掲示板を見ていた人たちの中から今のIT業界を引っ張る人が出てきたりしているのも興味深いですよね。当時は想像できなかった未来が今ある。今後のことを考えても、子どもとスマホとの付き合いを無理やり遮断することだけが、スマホとの付き合い方ではない気がします。」
てぃ先生「使い方にもよると思うんですよね。あるママが小学生の子どもにスマホを渡すときに、一緒に課題を与えるんだそうです。たとえば、動物の名前を50個検索して、書き出して、とか。検索の方法は教えずに、子どもに考えさせる。これって、今後もっとも必要だと言われている「自分で考える力を育む」ためのすごくいい方法だと思います。」
海崎「まずはやっぱり、スマホは道具なんだとしっかり伝えることが大事かなと思います。スマホがダメなのではなく、付き合い方が大切だということを教えていきたいですね。」
てぃ先生「保育の現場でもいいタブレット教材も増えていますし、それこそ教科書がタブレットになり、軽量化するという話もあります。上手に付き合うルールさえできれば、いいことずくめだと思います。」
ルールを決めれば、スマホは見せてもいい
海崎「そうなると、やはりルールづくりは必要ですよね。てぃ先生は、スマホとルールについてどうお考えですか?」
てぃ先生「僕は「不必要な場面で見せない」ことだけ守れば、あとはそこまで神経質にならなくてもいいのではないかなと思います。」
湯浅「これは僕も同感です。「シチュエーションを決める」のはわかりやすいですよね。夕ご飯をつくっているあいだだけとか、スマホを見せるタイミングを決めてしまう。あとは、たとえば公共の場で騒いだときに「優先順位を決めて」おいて、お菓子をあげても、絵本を見せてもダメならスマホOKにするとか。」
てぃ先生「ママたちがスマホをダメだと思う原因って、世間の目もあると思うんです。スマホ育児をするとダメな親だと思われてしまうとか。」
海崎「特にシニア世代にとっては、自分たちが育児をしていた頃になかったものに対して少し抵抗感があるのかもしれないですね。スマホとは違うんですが、私の子どもが小さい頃、紙おむつにするか、布おむつにするか悩んだ時期がありました。私の親の世代のなかには、やはり「布おむつが子どもにはいちばん!」と考える人もいて。今思うと、それぞれの特性を生かして、使い分けるという方法もあったと思います。その状況とスマホ育児の状況は、ある意味少し似ている気がします。」
てぃ先生「なるほど。それは興味深いエピソードですね。」
湯浅「見せないほうがいいという理想はありながらも、現実的にはスマホも必要、とママ自身が納得できる社会になってくれるといいですよね。先ほど、てぃ先生が保育園で子どもと一緒にタブレットで調べ物をするとおっしゃっていましたが、「一緒に使う」というのもポイントだなと思いました。」
海崎「大人が与えっぱなしにしない、ということですよね。」
てぃ先生「保育園では、子どもと過ごすことが我々保育士たちの仕事なのでそれができるのですが、ご家庭でもできる範囲でいいので、子どもと関われるといいですよね。たとえば、一緒にどういう動画を見るかを決めて、動画の最後の部分は一緒に見る。これができるとママ自身も安心なはずです。あとは、どんな動画だったとしても、終わったら「どういう内容でなにを感じたか、子どもが必ず感想を話す」というルールもおすすめです。」
湯浅「今のママたちは情報が多すぎて、いくつも選択肢があると迷うと思うので、こんなふうにこのルールだけは守りましょう、と選択肢を狭めてあげられるといいと思います。」
海崎「KDDIでは子どもと保護者向けに「スマホ・ケータイファミリーガイドon WEB」というサイトを公開しています。親が知っておくべきリスクや子どもを守るために親ができること(ペアレンタルコントロール、家庭内でのルール・マナーの実践)を掲載しています。ぜひ参考にしてください。」
てぃ先生「ルールの可視化、明確化ってことですよね。目安になっていいですね。」
湯浅「KDDIという通信会社が言ってくれることならママたちも信用できるし、ひとつの基準として参考にしやすいと思います。」
てぃ先生「こういった情報を考慮したうえで、そのまま取り入れるのではなくて、それぞれの家庭や親子なりのルールで、スマホとの付き合い方を考えてほしいですね。先日、保育園のママから「子どもが保育園に行きたくないとグズって大変だったから、登園中にスマホでしまじろうを見せることにしたら大丈夫になりました!」と明るく報告してくれて。登園中はスマホOKと決めて、それで生活がスムーズになるのなら、なにも悪いことはないですからね。」
湯浅「僕も基本的には、ママが笑っていられる育児がいちばんだと考えているんです。スマホとの付き合い方を家庭で考えた上で、子どもにスマホを渡して、そのぶんママの心に余裕ができるならいいのかもしれないと考えています。スマホが子どもの健康に与える悪影響は心配すべきですが、ママの心にゆとりができることも子どもには大切だと思うんです。」
てぃ先生「子どもももちろん大事なんですけど、お父さん、お母さんの人生だって大事なんです。子どものためだと自分を犠牲にしすぎず、ハッピーになれる子育てをしたほうがいい。もちろん、ルールやマナーは必要なのですが、そのためにスマホを活用するのは、むしろ僕はすごくいいことだと思いますね。」
湯浅「本当にそう思います。ママリとしては、今後もこのようにママの気持ちに寄り添っていけたらいいなと思いますね。お医者さんの医学的な視点はわかりやすくママたちに届けたいですし、「スマホは悪」だと見る社会的な側面には、ママに対する理解を求めていきたいと思います。今後も、引き続き議論を続けていきたいですね。」
海崎「今回の座談会でてぃ先生や湯浅さんからの貴重なご意見も参考に、通信会社の立場としても、子育てママの参考になるような情報を発信し、この問題に取り組んでいきたいと思います。」
――みなさん、本日は貴重なお話をありがとうございました。
文:野々山 幸
撮影:斎藤美春
てぃ先生(てぃせんせい)
都内の保育園に勤務する現役保育士。1987年生まれ。Twitter(@_HappyBoy)のフォロワーは46万人以上。ブロガー、コラムニスト、保育園の監修・研修、アドバイザー、講演会、保育・育児事情企画など、その活動は多岐にわたる。
twitterオフィシャルブログ
湯浅大資(ゆあさだいすけ)
コネヒト株式会社のお悩みを解消してくれるサイト『ママリ』編集長。ママリの記事の編集全般を担当する。
海崎千恵子(かいざきちえこ)
KDDIサステナビリティ推進室マネージャー。『スマホ・ケータイファミリーガイドon WEB』、KDDI『スマホ・ケータイ安全教室』等を運営、青少年の情報モラル啓発活動行う。
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