2018/12/10

ゴーグル・ヘッドセットなしでVRが見られる! 5G通信が可能にした新しい映像体験

ゴーグルなどのデバイスなしでVR体験

ゴーグルをかけるだけでバーチャルな世界が目の前に広がり、360°の仮想空間に身をおくことができる「VR」。ここ1、2年で急速に普及しつつあり、ゲームや動画などですでに体験したことがある人も少なくないだろう。ゴーグルを通して得られる臨場感や没入感には驚かされるばかりだ。

しかし、同時にこうも思わないだろうか。「ゴーグルがなければもっといいのに……」と。

ワンダービジョンテクノラボラトリー社の球体スクリーン型VR「WV Sphere 5.2」

そんな思いを実現したマシンが、ついに登場した。ワンダービジョンテクノラボラトリー社が開発したこちらのマシン「WV Sphere 5.2」は、ゴーグルなどのデバイスなしでVRが体験できる画期的なものだ。

ワンダービジョンテクノラボラトリー社の球体スクリーン型VR「WV Sphere 5.2」

画像のように大きな半球状スクリーンに映像を映すことによって、バーチャルな視覚体験をもたらす映像システムとなっている。先述したようにゴーグルなどのデバイスが一切不要なので、複数の人が同時にVR体験を共有することができるのだ。

複数人で参加できる新しいVR体験

ワンダービジョンテクノラボラトリー社が開発した球体スクリーン型VR「WV Sphere 5.2」 映像にリンクして座席が上下左右に動くことで、体験者はより強い臨場感が得られる
ワンダービジョンテクノラボラトリー社が開発した球体スクリーン型VR「WV Sphere 5.2」 4Kまたは8Kの映像をマシンの上部から投影し、ミラーに反射させ、幅5.2m、高さ3.4m、奥行き2.6mの半球状スクリーンへ映し出す

実際に体験してみたところ、これが凄まじい迫力! ドローンによる空撮映像や、レーシングマシンのコックピットからのVR映像で体験したのだが、映像にあわせてシートが動くことも相まって、臨場感や没入感は想像以上。ゴーグルを着用しているのと同様に、実際にそこにいるかのような感覚を得ることができた。

そしてなにより、「ゴーグルが不要」というのが実に素晴らしい。従来のゴーグル着用で感じる煩わしさやストレスがないうえ、視界が遮られることもなく、隣に着席した体験者と目を合わせて会話もできるからだ。この「VRをほかの誰かと共有する」というのはまったく新しい体験だった。

ワンダービジョンテクノラボラトリー社が開発した球体スクリーン型VR「WV Sphere 5.2」 ワンダービジョンテクノラボラトリー社が開発した球体スクリーン型VR「WV Sphere 5.2」

さらに、このシステムのすごいところは、分解して持ち運びが可能であること。従来、これだけの規模の映像システムは仮設運用が難しかったが、この「WV Sphere 5.2」は細かく分解したうえで、利用先でスピーディに組み立てることができる。組み立てにかかる時間は最短で4時間だという。

高速で大容量の「5G」がVRの可能性を広げる

ゴーグルなどのデバイスを必要とせず、また場所にとらわれることなく、いつでもどこでも誰にでも、これまでにないVR体験を提供する。その価値をより高めるために求められるのが「通信のチカラ」だ。

KDDIはワンダービジョンテクノラボラトリー社と連携し、IT技術とエレクトロニクスの国際展示会「CEATEC JAPAN 2018」のKDDIブースに「みんなでVR」という、この球体スクリーン型VRを共同出展した。

KDDIで次世代ネットワークの開発を担当するモバイル技術本部 次世代ネットワーク開発部の宮内勇介は、通信を活用した球体スクリーン型VRの可能性について次のように語る。

「どこへでも持ち運べる『WV Sphere 5.2』をネットワークにつなげて、映像をリアルタイムで配信する。それができるようになれば、VRの可能性が飛躍的に広がります。しかし、4Kや8Kといった高精細な映像をリアルタイムで配信するのは、現状の4Gネットワークでは厳しい。高速で大容量の5Gネットワークなら、それが可能になります」(KDDI・宮内勇介)

「WV Sphere 5.2」を開発したワンダービジョンテクノラボラトリーの田村吾郎さんも「新しい映像体験の実現のために、通信技術の進化が与える影響は大きい」と期待を寄せる。

「今回は事前に収録した映像を使っていますが、5Gの時代になれば、リアルタイムの映像配信も可能になります。さらに将来的には、たとえばカメラを積んだドローンやクルマを、リアルタイムで映像を観ながら、遠隔で操作することもできるようになると思います」(ワンダービジョンテクノラボラトリー・田村さん)

また、この『WV Sphere 5.2』は、もともとエンタテインメント目的のみで開発したわけではないという。

「たとえば、ハワイで挙式をしたいと考えるカップルがいたとします。おじいちゃん、おばあちゃんが現地へ行きたいと思っても、高齢だったり身体が不自由だったりして、難しい場合がある。そんなときに、この『WV Sphere 5.2』と通信技術を活用すれば、まるで現地にいるかのようなワクワク感をみんなで共有できる。しかも、分解して持ち運びができるので、場所を選びません。たとえば病院や山間部など、利用者の都合のいいところまで持っていくことができます。私たちはこの技術をそのような社会問題の解決に役立てられればと考えていますし、ほかにもアイデア次第で可能性はいくらでも広がります」(ワンダービジョンテクノラボラトリー・田村さん)

ワンダービジョンテクノラボラトリー 顧問 田村吾郎さんとKDDI モバイル技術本部 次世代ネットワーク開発部 宮内勇介 左:ワンダービジョンテクノラボラトリー 顧問 田村吾郎さん 右:KDDI モバイル技術本部 次世代ネットワーク開発部 宮内勇介

ARでバッティング! スマートグラスを用いた初の試み

また、今回の「CEATEC JAPAN 2018」のKDDIブースには、自由視点やARといった様々な技術を活用した「XRによる体感型スタジアム」も展示され、来場者の関心を集めていた。

CEATEC JAPAN 2018でKDDIが展示した「XRによる体感型スタジアム」

「XRによる体感型スタジアム」は、バッターボックスに立つバッターの視点を疑似体験することが可能。用意されたスマートグラスをかけ、スタジアムのパネルのほうを見ると、目線の先にはマウンドがあり、ピッチャーがボールを持って構えている。そして投球体勢に入り、ボールを投げると、実際にボールがこちらに向かってくる!

まるで本当に自分がバッターになったかのような感覚だ。また、ボールにあわせてバットを振ると、そのタイミングに応じてストライクやヒットなどが判定された。これはなかなか面白い。

CEATEC JAPAN 2018でKDDIが展示した「XRによる体感型スタジアム」 手前のタブレットの画面にご注目。ピッチャーが投げたボールが向かってきているのが、お分かりいただけるだろうか。バッターの視点だと、実際に球場にいるかのような臨場感を体験できる
CEATEC JAPAN 2018でKDDIが展示した「XRによる体感型スタジアム」のスマートグラス 「XRによる体感型スタジアム」で用いられたスマートグラス

この「XRによる体感型スタジアム」の開発を担当したKDDI総合研究所 超臨場感通信グループの渡邊良亮によると、これまでの自由視点によるスポーツ観戦体験はタブレットやVRゴーグルを用いて行ってきたが、今回のようなスマートグラスを活用するのは初めての試みだという。

「VRゴーグルだと視線が遮蔽されてしまいますが、スマートグラスなら透過型なので視線を妨げることがなく、周囲の人とコミュニケーションをとりながら楽しむことができます。また、体験者が着用するスマートグラスには、サーバー側でリアルタイムに生成した高品質な映像が配信されます。そのためには高速のネットワークが必要となりますが、大容量かつ低遅延な5Gなら、それが可能となります。将来的には、この技術を活用し、遠くで行われている試合を別の場所で、自由な視点で観戦するといったことも可能になります」(KDDI総合研究所 超臨場感通信グループ 渡邊良亮)

これまではひとりで楽しむ要素が強かったVR/AR。それが5G時代になると、リアルタイムで、そのワクワク感をみんなで共有しながら楽しめるようになる。5Gが実現する、「VR/ARの共有」というまったく新しい映像体験。それが特別なものではなく、多くの人が気軽に楽しめるようになる日も、そう遠くないのかもしれない。

文・写真:榎本一生
撮影:稲田 平

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