2018/11/06

YOUは何しに南極へ? 越冬隊員の「最新研究」を現地で直撃

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日本から14,000km離れた「南極」に赴任中のKDDI社員・齋藤勝による現地レポート。2017年11月に日本を出発し、その後14カ月も日本に帰れない彼の南極滞在中のミッションは「昭和基地の通信環境をひとりで守る」こと。日々の業務の様子から、食事や暮らし、そして休日の過ごし方まで、現地からのレポートをお届けしていきます。


TIME & SPACE読者のみなさん、こんにちは! 第59次南極地域観測隊 LANインテルサット担当隊員の齋藤勝です。

5月末から続いた極夜期(太陽が昇らない日)は40日間続き、その期間は基地周辺でオーロラの鑑賞を頻繁に行いました。何回見てもオーロラの神秘さには感動を覚えます。その極夜期を終え、夏に向かって日増しに日が長くなっている状況です。

南極では時々、強烈なブリザードがやってきます。ブリザードの後にはスコップを片手に全員総出で基地の除雪を行うことも珍しくありません。

第59次南極地域観測隊L ANインテルサット担当隊員の齋藤勝
第59次南極地域観測隊L ANインテルサット担当隊員の齋藤勝

それでは今回は、南極での活動を共にしている観測隊員の方々を紹介します。南極越冬隊は各分野のスペシャリストたちによって構成されていますが、みなさんどういった目的で南極へ来ているのでしょうか? 題して「YOUは何しに南極へ?」。

「YOUは何しに南極へ?」オーロラを研究する大学院生・内田ヘルベルト陽仁さんの場合

まずは、オーロラを研究する大学院生の内田ヘルベルト陽仁さんです。

オーロラ研究者の内田ヘルベルト陽仁さん 内田ヘルベルト陽仁さん/東海大学工学部で航空宇宙学を専攻したあと、修士課程では電離層の変動予測を研究。修了後は極地研究所をキャンパスとする総合研究大学院大学へ。オーロラ研究者として一般研究観測の募集に応募し、南極へ

齋藤:南極観測隊に参加する事となった動機について教えてください。

内田:極地研究所に在籍してオーロラの研究を始めたことがいちばん大きいと思います。この2年の間に、北極(アイスランド)やアラスカ、カナダの観測所で光学観測を行うといった貴重な経験ができたこともあって、オーロラが見える地に長期間滞在することに興味が湧いてきたんです。

北極だけでなく、南極でもオーロラの観測を、しかも1年も生活しながら行うというのは面白そうだなと思っていたところ、極地研究所で一般研究観測の募集があり、それに応募するかたちで南極に来ることになりました。

齋藤:日本でのこれまでの経歴や専門分野について教えてください。

内田:東海大学工学部で航空宇宙学を専攻していました。超小型の人工衛星をつくるプロジェクトに携わりながら、だんだんと自然のなかの電気現象というものに興味が移っていきました。修士課程では電離層の変動予測を研究テーマとしていました。課程を修了する頃、次の行き先に迷っていたところ、学会会場で極地研究所の今の指導教官に当たる先生に出会い、自分で観測したデータで研究するのは、脳をフル活用して、とんでもなく面白い、という話を聞き、ワクワクが止まらなくなってしまい、極地研究所でオーロラ研究を始める動機になりました。

観測とデータ解析の両方を行うことは大変ですが、楽しみながら進めています。

齋藤:南極での活動内容についてお聞かせください。

内田:宙空圏の一般研究観測隊員として南極に来ています。一般研究観測は、自分の研究内容を持って南極で研究を行う区分で、私は南半球のオーロラと北半球のオーロラを両方同時に観測して比較検証する「共役点観測」が主なテーマです。

今回の南極での観測では、高速カメラを使っての観測を行っているのが大きな特徴です。これまでのオーロラ観測は、30フレーム/秒といったカメラを使うのが一般的でしたが、今回、100フレーム/秒での撮影が可能な高速カメラを持ち込みました。そのため、より細かく詳細なオーロラの変化をとらえることができるのでは、と期待しています。

高速カメラの調整を行っている様子

100フレーム毎秒クラスの高速カメラを使う理由は2つあります。最近の研究では、30フレーム毎秒よりも短い時間でオーロラが変化していることが確認されています。たとえば、オーロラのブレークアップ(オーロラ爆発)やとても明るいオーロラが現れる時、オーロラのカーテンの一部分が物凄い速さで点滅するフリッカリングオーロラというものが出現します。今回の高速カメラではこれらの速いオーロラの時間的な変化を捉えることができます。

高速カメラを使う2つ目の理由は空間的な速い動きをするオーロラを捉えることができるためです。オーロラは暗いため、画像として捉える為には、露光時間を長くする必要があります。しかしオーロラはダイナミックに動き回るので、露光時間が長いとぼやけてしまう。今回の高速カメラは高感度のCCDを搭載しているので、短い露光時間で、オーロラの空間的な素早い動きを分解して捉えることが可能です。

そのような高速カメラを2016年に北極側のアイスランドに設置し、今回は昭和基地に同じ高速カメラを設置できたことで、南極側と北極側の同時観測を行える環境が整いました。ただし、南北両極で同時に観測できる時期は限られていて、年間で約2カ月間のみ(3月と9月)。今は9月ですから、まさに同時観測を狙えるんです。

昭和基地とアイスランドで同時刻にオーロラが出現!?

齋藤:南極で観測を行う意義についてお聞かせください。

内田:私の研究テーマでもある共役点観測がキーワードです。専門的な話になりますが、地球は南極がN極、北極がS極の磁石になっていて、南半球から出た磁力線は北半球につながっています。つまり、磁力線を辿ると南極の昭和基地と北極のアイスランドは1本の磁力線でつながっているんです。これを「共役点」と言います。

磁力線のイメージ図。磁力線は南極から北極に結ばれている 磁力線のイメージ図。磁力線は南極から北極に結ばれている

オーロラを光らせている粒子は、この磁力線に沿って、南半球にも北半球にも降り込んできます。すると、昭和基地とアイスランドで、同じタイミングでオーロラが活発になったりするのが見えるのです。実は共役点観測の歴史は古く、当初、1本の磁力線で結ばれる南半球、北半球それぞれの地点では似たような形のオーロラが、同時刻に出現することが予測されていました。

ところが実際に観測を行ってみると、似ていないオーロラが多く発生することがわかったんです。その後の研究で、両極のオーロラを同時に観測し、その類似性や違いを検証してきたことで、オーロラとその発生機構の関係や、宇宙空間で起こる現象への理解がより進んできました。そして今回、北極側と南極側に設置した高速カメラを使っての共役点観測は、前例がなく初めての試みとなります。

昭和基地とアイスランドで、同じタイミングでオーロラが出現するイメージ 昭和基地とアイスランドで、同じタイミングでオーロラが出現するイメージ
高速カメラにて同時撮影された、アイスランドのチョルネス(Tjornes)(左)と昭和基地(右)で観測されたオーロラ 2018年3月17日に高速カメラにて同時撮影された、アイスランドのチョルネス(Tjornes)(左)と昭和基地(右)で観測されたオーロラ。北極側と南極側で同時にオーロラ爆発が発生していることが確認できる

オーロラは宇宙空間を映し出すスクリーン

齋藤:今までの共役点観測で見えなかったものが発見できるかもしれませんね。解析結果が出るのはいつごろになりますか?

内田:昭和基地にいる間に解析に取り掛かり、早いうちに論文にまとめたいと思っています。

齋藤:どのような結果になるのか、楽しみですね。では、オーロラ研究者として、どのような観点でオーロラを観ているのでしょうか?

内田:地球のさまざまな現象の起源が太陽であるように、オーロラの起源も太陽なんです。オーロラは太陽(宇宙空間)から放出された粒子(電子)が加速されて、地球の大気と衝突することで光ります。オーロラ自体を研究するというよりも、オーロラを通じて宇宙でなにが起こっているのかを解明する、という見方です。そのため、オーロラは宇宙空間で起きていることを映し出すスクリーンとも言われています。

良いオーロラが撮れたらほかの隊員にも披露

齋藤:最後に、日々の南極生活でやり甲斐を感じることと、困難なことについてお聞かせください。

内田:昭和基地自体が独立したシステムになっていて、とても面白く思います。そもそも、昭和基地内には生活するうえで必要なインフラが整備されていますが、燃料を含め、補給が年1回しかないにも関わらず、システムが整然と機能していることが興味深いです。この仕組みは火星でも成り立つのかな、とか思いながら生活しています。

オーロラ観測をするうえで大変なことは、昭和基地は観測の建物と生活の建物がとても近い距離内に収まっているので、さまざまな光が漏れてカメラに映り込まないように毎晩、気にかける必要があります。観測時には、隊員全員に協力してもらって、灯火制限(外灯の消灯や、室内窓のカーテンやブラインドを使って光が外に漏れないようにすること)を実施します。

また、そのようにして得られた観測データが健全であるかの検証や、測定器の正常性を日頃から気を配る必要があります。とても良いオーロラが撮れた時は隊員のみなさんにも披露したくなって、食堂でオーロラ動画を上映したりもしました。

南極の昭和基地周辺で発生したオーロラの様子
南極の昭和基地周辺で発生したオーロラの様子 昭和基地周辺で発生したオーロラの様子

日々の昭和基地での生活はとても楽しいです。越冬期間中にビリヤードを覚えましたし、雪上車やスノーモービルの運転などもおこない、日本では普段経験できないことを南極で数多く経験することができました。

齋藤:オンオフをつけて生活されているようですね。お忙しいところありがとうございました!

「YOUは何しに南極へ?」大気研究者・西山尚典さんの場合

続いて、国立極地研究所の大気研究者、西山尚典さんにもお話を伺いました。

国立極地研究所の大気研究者の西山尚典さん 西山尚典さん/東北大学大学院で地球物理学を専攻。在学中にスウェーデン、アラスカ、カナダなどの北極地域での光学観測や衛星データ解析などを行う。卒業後、国立極地研究所の研究員に

齋藤:南極観測隊に参加する事となった動機について教えてください。

西山:国立極地研究所で参加していたプロジェクトのひとつが南極での最新鋭の観測であり、そのプロジェクトのゴールとして現地で観測を実施するために今回南極に来ました。

齋藤:日本でのこれまでの経歴や専門分野について教えてください。

西山:東北大学大学院で地球物理学を専攻し、オーロラの研究がテーマでした。在学中にスウェーデン、アラスカ、カナダなどの北極地域での光学観測や衛星データ解析などを行ってきました。それらが縁で卒業後に国立極地研究所で研究員として仕事をすることになりました。

齋藤:南極での活動内容についてお聞かせください。

西山:昨年は58次夏隊として、昭和基地にライダー(Lidar)と呼ばれる装置を新規に導入しました。今年はこのライダーによる観測と機器のメンテナンス、得られたデータの解析などが南極での主な仕事です。

齋藤:ライダーとはどのような装置で、なにができるのでしょうか?

西山:レーダーが電波を使うのに対して、ライダーはレーザー光をターゲットに発射し、散乱されたレーザー光を望遠鏡で受信することで、ターゲットへの距離を計測するというものです。

ライダーのシステムの概略図 ライダーのシステムの概略図。射出されたレーザー光がターゲットで散乱され、その散乱光を望遠鏡などの光学系とセンサーで受信する。レーザーの制御や受信信号の処理・記録はパソコンで行う

私たちのライダーは大気中の原子をターゲットとしており、原子の密度や温度を高精度に測定することも可能です。

南極に持ち込んだライダーは上空90km付近を主な観測対象としているのですが、この高度領域は「中間圏界面」と呼ばれ、我々の生活圏と宇宙圏のちょうど境界領域に位置しています。地球の全体の大気がどのように変わっていくのかといった将来予測を行ううえで、中間圏界面の変化が近年、とても重要視されるようになりました。

国立極地研究所の大気研究者の西山尚典さん レーザー内部の光学系の調整中の様子

齋藤:南極で観測を行う意義についてお聞かせください。

西山:南極や北極は、オーロラを代表とするような太陽からのエネルギーの影響がよく分かるので、宇宙や太陽、地球大気の関連を調査するのにとても適した場所だと言えます。ライダーに限って言えば、北極と比べ南極での観測データ量がとても少ないこと、また南極上空ではオゾンホールなどの顕著な大気現象があるので、南極でライダー観測を行う意義はとてもあると思います。

齋藤:西山さんは、もともとオーロラのご研究をなさっていましたが、ライダー観測とオーロラ観測の関連性というのはあるのでしょうか?

西山:ライダーの観測量としては主に「大気の温度」があります。我々のライダーでオーロラを直接計測するのではないのですが、オーロラが出現した時の(オーロラは高度100~120kmで多く発生)中間圏界面の温度の変化量や、オーロラが引き起こす温度変化が長期的な変化に対してどれくらいインパクトがあるのかがわかるようになります。

地球表面から高度400kmまでの現象や飛翔体の高度の関係と、大気モデルで計算した南極・昭和基地における夏の大気温度の高度変化 地球表面から高度400kmまでの現象や飛翔体の高度の関係と、大気モデルで計算した南極・昭和基地における夏の大気温度の高度変化。私たちのライダーの観測領域である「中間圏界面」は、オーロラが出現する高度の直下で、流星が燃え尽きる高度に位置する

齋藤:ライダー観測としてほかにはどのような調査を進めているのでしょうか?

西山:大気中の金属原子の変動についても調査しています。金属原子と言っても、あまり馴染みがないと思いますが、流星の多くは地球大気への突入の際に中間圏界面付近で燃え尽きてしまい、燃えかすとして鉄やカリウム、カルシウムが中間圏界面に多く存在しています。地球以外の惑星や衛星、たとえば水星や月の大気にもナトリウムやカリウムといった金属原子が豊富に含まれており、地球との大気組成の比較を行うことができます。最終的には太陽系の惑星の大気の根源や進化について解明するための手がかりになると思っています。

齋藤:南極観測の開始から60年となりました。これまでの観測成果によって、人々の生活に役立っていることの一例を紹介していただけますか?

西山:ライダー観測の直接的な研究成果では無いのですが、オーロラが強く発生した時に発生する電波(短波)障害、人工衛星の通信障害や発電所・変電所の装置故障などの因果関係がわかってきました。現在では電波障害、通信障害の発生予報を出すことも可能となっていて、被害を受ける前に対策を取ることができるようになってきました。これらの進歩については、少なからず南極における地道なオーロラ観測も貢献してきたと考えられます。

地球の中間圏では、実は「寒冷化」が進んでいる!

齋藤:南極といえば、地球温暖化というキーワードをよく聞きますが、ライダー観測によって地球温暖化の状況が得られていることはありますか?

西山:実は中間圏界面では温暖化ではなく、逆に寒冷化が進んでいることがわかっています。地球温暖化は温室効果ガス、たとえば二酸化炭素の増加が原因になっていると考えられていますが、二酸化炭素が地上付近で増加すると温暖化の作用が働くのに対し、中間圏界面の高さではまわりの空気を冷やす寒冷化の作用が働きます。

地球温暖化の検証を進めるうえで、地上付近だけを見るのではなく、一歩引いた視点で中間圏界面の寒冷化の検証も合わせて行っていくことが重要だと思います。

齋藤:地球の温暖化については多角的な検証を続けていく必要がありそうですね。ほかに研究を通じて、地球の将来についてわかっていることがありましたらお聞かせください。

西山:今後は、いまよりも地球の磁場が弱くなってくることが予想されています。地球の磁場によって、太陽からの膨大な電気的なエネルギーが直接、地球表面に流入するのを防いでいるのですが、地球の磁場が弱くなることで太陽の影響をより多く受けるようになると考えられます。

その時に、地球の大気がどのように変化して、その結果、私たちの生活にどのような影響を及ぼすようになるのか、今後も研究が必要だと考えています。

観測活動は大変だが、美しい星空を見られる楽しみも

齋藤:最後に日々の南極生活でやり甲斐を感じることと、困難なことについてお聞かせください。

西山:観測機器のトラブルの時が大変です。故障に備えて予備品などは準備しているのですが、年に1回しか補給がないので途中で補給することはできないし、業者を呼ぶこともできないので、現在あるものだけで知恵を絞って対処することになります。

また、ライダー観測は基本的には夜間帯のみでしか行うことができないんです。とはいえ、大変な反面、綺麗な天の川や星空、オーロラを見ながら観測ができるので、楽しい部分もたくさんありますね。

南極・昭和基地の灯りと天の川
南極・昭和基地の灯りと天の川 昭和基地の灯りと天の川

齋藤:南極観測での苦労のなかに楽しみもあるのですね。本日はありがとうございました。

写真・文:齋藤 勝

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