2018/07/06

長崎・天草『潜伏キリシタン』がユネスコ世界遺産に! 観光地の電波対策の実態とは

今年6月24日から行われたユネスコ世界遺産委員会で、長崎と天草地方の「潜伏キリシタン関連遺産」が、世界遺産に登録された。

16世紀半ばに日本に伝来したキリスト教は17世紀に入って禁教令をもとに弾圧、排斥されていく。潜伏キリシタンとは、そんな状況下で、ごく普通の日本人的な日常生活を送りながら、ひそかに信仰を維持し続けた人々のこと。表向きは神道や仏教などの体裁を取り入れるなど、そこには日本独自の信仰への姿勢が根付いている。

今回、ユネスコ世界遺産に登録されたのは、そうした日本の土着の文化や宗教と融合して独特のキリスト教信仰を育くんできた集落や史跡など12の資産だ。

たとえば、こちらは﨑津教会。熊本県天草市河浦町の漁港に面して佇むゴシック風建築の教会だ。今の教会は昭和9年の建物だが、そもそもこの地に最初の教会が建てられたのは豊臣時代の末期。秀吉の時代からキリスト教は弾圧されてきたけれど、禁教令が本格化したのは江戸初期の「島原の乱」以降。

天草市の﨑津教会 﨑津教会

布教のために来日していたポルトガル人たちを追放。日本は鎖国に入り、信者たちは激しい迫害にさらされた。それに耐えながらひそかに信仰を守り続けてきた人々が暮らした集落が、天草や長崎にはたくさん残されている。ちなみにこの﨑津教会は、江戸時代に踏み絵が行われた屋敷跡に建っている。

こちらは国宝・大浦天主堂。

国宝・大浦天主堂 国宝・大浦天主堂

幕末、長崎に外国人がやってくるようになり、1864年にこの教会も建設。布教が再開すると、それまで潜伏していた信者たちが信仰を告白して名乗りをあげるようになりました。いわば、キリシタンたちの“潜伏”の終わりの象徴。

潜伏キリシタン関連遺産の、世界遺産への登録は悲願だったという。「長崎の教会群を世界遺産にする会」が2001年に誕生し、最終的には、長崎・熊本両県と6市2町の首長が会議を立ち上げて取り組んだ。それが今年、ようやく実現したのだ。

そしてこのおめでたいニュースを「TIME & SPACE」でお伝えするのも、実はこれまでKDDIは「世界遺産に電波を届ける」ということに取り組んできたからである。

世界遺産の電波を調査せよ

今回、世界遺産に登録されたのは……

  • ①原城跡
  • ②平戸の聖地と集落(春日集落と安満岳)
  • ③平戸の聖地と集落(中江ノ島)
  • ④天草の﨑津集落
  • ⑤外海の出津集落
  • ⑥外海の大野集落
  • ⑦黒島の集落
  • ⑧野崎島の集落
  • ⑨頭ヶ島の集落
  • ⑩久賀島の集落
  • ⑪奈留島の江上集落(江上天主堂とその周辺)
  • ⑫大浦天主堂

の12カ所。

世界遺産登録が発表されてから電波状況の調査に動き出したのでない。実は何年か前から現地調査や電波がつながるようにする対策を行ってきた。そして今回、文化庁の「登録候補」のリストを元に、改めて今年5月から長崎・天草の「潜伏キリシタン関連遺産」地域での調査を開始。以下のような結果が得られた。赤い文字が利用可能を確認できた場所である。

「潜伏キリシタン関連遺産」地域での調査 ※⑧野崎島の集落跡は、「旧野首教会」周辺のみ利用可能

現地での「調査」は、極めてアナログだが、確実極まりない方法で行っている。どこで電波がつながり、どこがつながらないのか、実際にスマホを持って遺産の近辺をしらみつぶしに歩き回って調べるのだ。

野崎島のエリア調査の模様

たとえばこちらの写真は、⑧「野崎島の集落跡」を調査する様子。レンガ造りのこの建物は、1908年に建設された旧野首教会。集落のわずか17世帯の寄付で完成したという。野崎島は、1971年に最後の信徒(住人)が島を去り、それ以降、無人島。あちこちに野生のシカが生息する。そんななかを、実際にスマホを持って歩き回り、電波状況を確認していく。

野崎島のエリア調査の模様

それにしても緑が豊かだ。島内の地形はまさに起伏だらけ。

野崎島のエリア調査の模様

調査の際は、ここを5時間かけて歩いた。調査を担当したKDDI福岡テクニカルセンター エリア品質2Gの沼上章によると、夕方、万歩計のカウンターは1万6,000歩を示していたとのこと。しかし、海の青いこと!

こちらは②「春日集落」。

長崎県北部・平戸島にある安満岳すそ野の棚田だ。激しい弾圧のなか、辺境だったこの集落ではとくに潜伏キリシタンが多く存在した。安満岳はもともと平戸島の聖地。キリスト教布教以降は、そもそもの山岳信仰と相まって潜伏キリシタンたちに取っても参詣の対象になっていたという。

春日集落のエリア調査の模様

棚田のこの美しい風景のなか、スマホを手にしてくまなく歩き回った。

ただ単に歩き回って電波状況を確認するだけではない。普段ショップで聞かれる声を集めたり、作業中にも住民のみなさんから電波への不満がないかなどを聞き取ったり、必ず現場の声を取り入れながら調査を行っているのだ。

春日集落のエリア調査の模様

こうして、確実な「つながる/つながらない」というデータを把握していく。

KDDIが世界遺産で電波をつなげたい、シンプルな理由

「KDDIが世界遺産のエリア化に力を入れているのには理由があります」

そう語るのは、KDDIでエリア化を担当する技術統括本部エリア品質強化室の平裕二郎。「エリア化」とは、「その場所でケータイの電波が通じるようにする」という意味だ。

KDDI技術統括本部エリア品質強化室・平裕二郎。

「auはエリア化に力を注いでおり、人が住んでいる地域のエリア化を継続して進めながら、住んでいなくても集まる場所のエリア化も進めています。『観光地』はその最たる場所です。観光地のなかで『世界遺産』はより一層観光客が多く、エリア化をしていきたい場所なのです」

世界遺産のエリア化に関して、平には思い出深いエピソードがある。

ある時、部署に一通の手紙が届いた。手紙の主は、屋久島の観光に携わる方だった。屋久島でもっとも有名な観光資源である縄文杉への登山口と、片道約5時間の登山道でauのケータイが使えないというのだ。

屋久島・縄文杉への道のり

手紙には、観光に訪れるお客さん同士が現地で連絡を取り合うことができず、せっかくの旅行が台無しになるケースがある。電波対策をしてほしいと綴られていた。

「お手紙をくださった方が、そのことに心を痛めておられたことに、忸怩たる思いを感じました。生活の中で“つながらなくて困る”というお声にお応えするのは当たり前ですが、自分ではなく観光客のみなさんのことを案じて訴えを寄せて頂いた方へもしっかりと応えていきたい。その思いに駆られました」

平はすぐに上司とともに屋久島に飛び、対策に着手したという。

この「屋久島からの手紙」をきっかけに、エリア化していかなければならない場所がまだまだあると改めて感じた。

たとえば、これらは実際に寄せられた声だ。

  • ・お客様からのお電話でクルマを回すので、通じないと不安です。
  • ・キャンプ場で、子供が火傷をした時つながりませんでした。
  • ・画像をアップしたいし、検索もしたいのに不便です。
  • ・旅先でも地震や災害はあるので、つながらないのは不安。

「こうした声に一つひとつ向き合って、どんな場所でもケータイを使えるように対策していく。それが私たちの仕事だと思っています」

知床半島の羅臼岳もエリア化完了!

最新の対策を行ったのは、知床半島の羅臼岳。

2018年5月に対策が完了したばかり。世界遺産としての知床は、「知床五湖」、「知床峠」などのエリア化を進めていたが、今回半島の中央に位置する羅臼岳をエリア化。

観光客からの要望はもちろん、登山時の安全対策のためにも必須と考えたのだ。

羅臼岳は国立公園の中にあり、新たな建造物を建てることが難しいのだ。そこで、登山口の「岩尾別温泉」にあるホテルの屋上にアンテナを設置させていただくことになった。

岩尾別温泉のホテル屋上から羅臼岳を狙うアンテナ

通常の携帯電話の電波は届かない地域。衛星回線をキャッチするパラボラアンテナと、登山道とホテルまでの道に向けてピンポイントで電波を送るアンテナの2本を組み合わせた。

「まず、登山道に電波を飛ばすために、どんな方法があって、アンテナがいいのかを机上で設計します。そのあとに、実際そのアンテナが置けるかどうかを現地の工事スタッフが確認。アンテナの重量制限もあるので、現地とは細かくやり取りしながら決めていきました」(平)

羅臼岳山頂での電波調査風景 こちらは羅臼岳山頂での電波調査の模様

この世界遺産もエリア化しています

ほかにも、KDDIでは多くの世界遺産をエリア化してきた。それぞれの場所にはそれぞれ特有の事情があり、また、ストーリーもある。

地図は、これまでエリア化してきた世界遺産。一例を紹介していこう。

これまでエリア化してきた世界遺産の地図

<知床>

知床エリア化の模様

知床は世界遺産保護地域であり、国立公園内のため、現地に新たに基地局を建てることはできない。知床五湖のほとりから電波を飛ばすプランを採用。10km離れているため、パワーが強く指向性の高い特別なアンテナを設置。そこから知床五湖に向けてピンポイントで電波を飛ばすことで、通信状況を改善した。

<白川郷>

白川郷エリア化の模様

雪深い地域のため、基地局のアンテナを底上げ。雪が積もることを見越して電波をつくる無線機を地面よりも1m以上高い位置に設置した。また無線機が雪で埋もれてしまわないよう屋根を設置。景観にも配慮し、背景の合掌造りとマッチするデザインの屋根を選んでいる。

<富士山>

富士山頂エリア化の模様

人力では運べないアンテナやバッテリーなどの機材はブルドーザーに積み込んで山頂まで。基地局を設置するスタッフはもちろん自力で登山するのだ。そして山小屋の屋根にアンテナを設置。もちろんそれで終わりではなくバッテリーや部品交換、メインテナンスなどのたびに富士登山が必須なのである。

<軍艦島>

軍艦島エリア化の模様

長崎県の陸地、野母崎にあった既存の基地局を活用。世界遺産登録による観光客の増加を見越して、アンテナの向きや設定を調整するだけでなく1本増設して電波状況を強化した。

世界遺産だけでなく、あらゆる場所をエリアに

対策してエリア化すれば、それで完了ではないと平は言う。

「電波をつなげたら、『その地域がつながった』ことをお客さまに知っていただくために、その都度HPなどでお知らせして、事前に把握いただき、安心してご利用いただけるように努めています」

みなさんが使いたい、と感じる場所で安心して使えること。それを目指しながら、さまざまな声を聞き、電波調査を繰り返す。「どこでもつながる」の裏側は、毎日のそんな「地道な作業」が支えているのだ。

文:武田篤典
撮影:松尾 修、有坂政晴、竹内一将、下屋敷和文

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