2018/05/31

実用化が待たれる『自動運転車』のレベル4実験に乗車! 5Gが未来の社会を変える?

いろんな企業が自動運転。私たちの身近にも自動運転

こちら、KDDIの自動運転テスト車である。

縦列駐車を自動で行ったり、高速道路で一定の車間距離を保って前の車両を追ったり、アクセルとペダルを踏み間違えたらブレーキがかかったり、いまや市販車にも当たり前のように自動運転の技術は採用されている。

KDDIの自動運転テスト車

そして、クルマのメーカーだけでなく、GoogleやAppleなどの世界的IT企業も、非常に力を入れている。

自動運転のクルマのハンドルやアクセル、ブレーキをまとめて制御するにはOSが必要。運転中にさまざまな判断を下すのはAIが重要。さらに実際の運行に膨大な地図データは欠かせない。これらはGoogleやAppleなどのIT企業にとっては非常に得意な分野といえる。

KDDIも2016年から本格的に自動運転の研究に参入。昨年末にはパートナー企業と共に「レベル4」(運転先は完全に無人で、決められたコース内を自動で走るレベル)の自動運転の実証実験に成功。今年5月、福岡でそのクルマに実際に乗ることができるというデモがあったので、行ってみた。

福岡で無人の、自動運転のクルマに乗ってきた

デモが行われたのは「アジア太平洋地域ITSフォーラム2018福岡」。「ITS」とは、「Intelligent transport system=高度道路交通システム」のこと。自動運転技術を含む、アジアのモビリティ社会の未来についてのさまざまな展示や提案が、ここで行われた。

デモの会場は、福岡県大野城市の「西鉄自動車学校バス研修センター」。

トヨタ・エスティマをベースにしたKDDIの自動運転テスト車 天井に乗った「ツノ」が、自動運転のひとつのポイント「ライダー」。光で周囲の道路環境をセンシングする。いわば「目」である
自動運転車のトランクルームには自動運転用のソフトウエア「Autoware」と強力なスペックのPCをセッティング 「Autoware」にはあらかじめ、コースの地図がインプットされている

後部トランクルームには自動運転の「頭脳」たるソフトウェア「Autoware」を搭載。

ダッシュボードとドアミラーなど計5つのカメラは遠隔制御の「目」となる ダッシュボードやドアミラーの上にはカメラ。自動運転のためではなく遠隔制御の際の「目」となる

なお、今回の自動運転「レベル4」とは……、

内閣官房IT戦略室が発表した「官民ITS構想・ロードマップ2017」の自動運転のレベルを基にKDDIが作成

運転席は無人で、ハンドルもアクセルもブレーキもすべて自動。それで「限定領域内」を走行するもの。この図は、内閣官房IT戦略室が「官民ITS構想・ロードマップ2017」で定めた自動運転の「レベル」の定義を基にKDDIが作成したものである。

日本でバスやタクシーなどが自動運転化する際は走行状態を監視するのが必須になるはずだ。そして、緊急時には自動運転を停止し、人が遠隔操作で車両を制御する必要があるという。乗っている人や周囲の道路状況を的確に把握し、人がリアルタイムでクルマを遠隔制御するためには、安定した通信ネットワークを構築する必要がある。

そして、こちらが今回のコース。

西鉄自動車学校バス研修センターに設定されたデモコース

スタート時は「自動運転」。クルマがあらかじめインプットされた「ダイナミックマップ」に従って、時速15kmで走行。踏切で一時停止し、坂を登り、S字カーブを曲がりきった先に、障害物が待っている。そこで自動運転は停止。約9km離れた「福岡国際会議場」からの遠隔制御に切り替わるのだ。

ではその模様を、まとめて動画でどうぞ!

コースを走る自動運転車の外からの映像

自動運転車の車内からの映像

時速は15kmだそうで、はっきりいって遅い……ただそれは外から見ていれば、の話。実際に乗ると、誰もいないのにステアリングが切られ、その通りに車が曲がる。超ミライだ! 興奮を禁じえない。ただ運転席に誰も座っていなくて、坂も難なく登ればカーブに差し掛かると的確にハンドルが切られる。いや、ちょっとカッコいい! で、目の前に障害物があると、きちんと止まる。

遠隔制御に切り替わると、正直、現場では全然変化はないのだが、「遠くで誰かが助けてくれてる!」みたいな気持ちになり、ほんのり心が温かくなるのだった。

すごいぜ、自動運転! ありがとう、9km離れた遠隔制御!

「福岡国際会議場」から、窮地に陥ったKDDI号を遠隔制御する図 「福岡国際会議場」から、窮地に陥ったKDDI号を遠隔制御する図。車に搭載した各カメラからの映像が遠隔地のモニターで把握でき、その映像をもとにコントロール。通信はLTEだ

自動運転の未来の実現には、5Gが適している

今回の自動運転デモにおいて、通信が最も力を発揮するポイントは、緊急時の「遠隔監視・遠隔制御」だった。だが、それだけではない。デモに立ち会ったKDDI ビジネスIoT企画部部長の原田圭悟は語る。

KDDI ビジネスIoT企画部部長・原田圭悟 デモ会場でKDDIと自動運転の関わりについて語るKDDI ビジネスIoT企画部部長・原田圭悟

「これまでもクルマは、通信を活用していました。といっても通信していたのはABSのデータや走行ログなど軽いものでした。それが今後、自動運転社会では高精細な地図をダウンロードし、さまざまなデータをアップロードすることになります。また、信号からの情報や歩行者の急な飛び出しなどの情報を活用し、事故を減らすには低遅延が重要。最終的にはほぼすべての車がネットワークにつながるため、多接続という要素も欠かせません。自動運転の時代には、“高速・大容量”“低遅延”“多接続”の5Gが適していると考えています。私たちは、来るべき自動運転の時代を、通信で下支えすることができるのです」

KDDIが自動運転で貢献できること

KDDIコネクティッド推進室 室長の鶴沢宗文は、「これからの自動運転においては、通信はクルマと切っても切れない関係になる」という。

KDDIコネクティッド推進室 室長・鶴沢宗文 KDDIコネクティッド推進室 室長・鶴沢宗文

キーワードは「コネクティッドカー」。簡単に言うと、ネットワークに常時接続し、データのアップロード・ダウンロードを行うクルマのことだ。

車に搭載したセンサーとカメラ、屋根に搭載した「ライダー」だけでも自動運転は可能だ。だが、ネットワークに繋がることで、真の実力を発揮する。

自動運転時代に向けたKDDIの取り組み

①ダイナミックマップ
クルマ自体がモニターのようになって、渋滞情報や事故による通行規制、“今この信号は青です”などの情報を集め、即座にクラウドに送って分析し、従来の地図にポイントするデジタル地図リアルタイムに更新されていき、自動運転の際、クルマは“どの道をどう走るか”を、これを基に判断する。

②リモート監視・管制
今回のデモで実際に行ったもの。

③道路状況の共有
先行する車両が道路の落下物や凍結などの情報を自動的にアップロード、クラウド側で後方の車両に一斉に、運転支援情報を配信するもの。事前にそうした情報があると自動運転の走行プログラムは対応できるのだが、直前だと止まってしまう。キロ単位の手前から情報を遅れるのは通信ならではなのだ。

④公共情報・他車協調
信号があと何秒で変わるとか、前方のクルマが急ブレーキをかけたという、“信号からクルマ”“クルマからクルマ”へと伝わるシステム。現状、日本では専用周波数を使った商用サービスが始まっているが、モバイルネットワークを使う方式も標準化作業が進められている。

⑤AI
道路から各車が吸い上げたデータをクラウドのAIが分析。これはほとんどの自動運転に関わってくることだが、クルマが安定的にデータをやり取りできるネットワークの構築は、自動運転社会の大前提とのこと。

自動運転が実現した未来の社会、こんなふうになる?

今回、運転席に誰もいない自動運転で、遠隔制御されるクルマにも乗ってきた。一見地味だけど、非常にワクワクドキドキするイベントだった。もうこれ、完全に未来でしょう! 通信を自動運転に活用する研究がさらに進み、なおかつ5Gの時代がやってくれば、クルマ社会のあり方は劇的に変わるはずだ! というわけで、「今回のITSフォーラム」での取材も踏まえて、最後に、「未来の自動運転社会」を夢想してみた。

①事故ゼロ、安心安全なクルマ社会

事故ゼロ、安心安全なクルマ社会 イラスト/沼田光太郎

すでに運用されているトヨタの「ITS-Connect」は信号機や他のクルマとの通信で歩行者や緊急車両を事前に感知。ドライバーのスムースな対応を促す。未来には、通信を駆使して数キロ先の情報も共有。緊急車両は通過のはるか前から車線を空けることができ、信号の変わり目を予測して事前にブレーキをかける。対応するのは人間ではなく、自動運転のクルマだ。

②環境に良くて便利

環境に良くて便利なクルマ社会 イラスト/沼田光太郎

自動運転車があらゆるところを無人で運行。スマホアプリで手配すれば、無人のクルマがお迎えに。車内では企画書書こうが眠ろうが自由。通勤時間の概念が変わります。自宅からバス停や駅までは、地域内を巡回するような超小型モビリティが。クルマは基本、自動で目的地に着き勝手に駐車場に帰ります。電池切れのときは、ロボット掃除機のように自ら充電ステーションへ向かう。もしかしたら、自宅の近くに駐車場がある必要もないかも。

③楽しく快適なクルマとの時間

楽しく快適なクルマとの時間 イラスト/沼田光太郎

車載AIは、ルートを判断するだけでなく、ドライバーとパーソナルにお付き合い。スマートフォンのAIがシームレスにクルマで使える。ユーザーの嗜好を知ってるし、運転席へのセンシングでドライバーの体調を感知。思い出の曲をかけてくれたり、思い出の夜景スポットに案内してくれたり、足りない栄養分を補える野菜料理の店を提案してくれたり。また、事故や発作で意識を失ったら、それを感知し、自動でコールセンターなどに連絡も。

ああ、なんて素敵な未来なのだ。運転する人はもちろん、利用するだけの人も、今よりはるかに便利に楽しくクルマ社会が迎えられそうな予感、大。そして、それを背後からガッチリ支えているのは通信だったりするのである。

文:武田篤典
撮影:稲田 平

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