2014/05/23

KDDIの技術者が空港でCAをチェック 100M超えも

「CA、100が出ました!」

そんな声がスタッフの間から飛び出した。東京国際空港(羽田空港)の旅客ターミナルでの一コマだ。CAといってもキャビンアテンダントのことではない。KDDIのauスマートフォンで国内初導入された「キャリアアグリゲーション」(CA)のことだ。一般へのサービス提供に先駆けて、実際に人が多い場所でCAがどのぐらいの威力を発揮するのかを調査したのだ。

キャリアアグリゲーション(CA)について簡単に説明すると、LTEの通信で異なる周波数帯の「キャリア」(搬送波)を同時に利用して、従来よりも高速なサービスを提供できるようにする技術だ。KDDIが提供するCAは、800MHz帯の10MHz幅と2.1GHz帯の10MHz幅を同時に利用してサービスを提供する。LTEは10MHz幅では受信時最大75Mbpsの通信が可能なので、CAにより受信時最大150Mbpsの高速データ通信ができるようになる。

auのスマートフォンは5月21日のソフトウェアアップデートで「GALAXY S5 SCL23」がCAに対応した。その後のCA対応端末は、発売時点からCAの利用が可能となる予定だ。

CAの実施テストでこれまでの2倍の速度を実測!

最大75Mbpsのパイプを2本使って通信するのだから、理論的には最大150Mbpsの速度が出るだろうということは、小学生でも分かる計算だ。しかし、大人の世界は一筋縄ではいかないことも多い。実際の通信速度は、電波環境や他のユーザーの利用状況などによって変わってくる。そこで、CA対応のエリアに、最新のCA対応端末を持ち込んで、比較検証をしてみることにした。それが冒頭の一コマ。羽田空港の第2旅客ターミナルで実際に測定してみたというわけだ。

焦らさないで、結果から報告する。3つの場所で、それぞれ5回の測定をした結果は......。

キャリアアグリゲーション(CA)対応機種で測定した場合

キャリアアグリゲーション非対応機種で測定した場合

キャリアアグリゲーション(CA)対応:平均 86.47Mbps
キャリアアグリゲーション非対応:平均 43.49Mbps

見事に"2倍"の測定結果が得られているではないか。都心部で最大75MbpsのLTEを超えるスループットが実測値として得られているのだから、75Mbpsのサービスエリアでは「今までにない高速データ通信体験」ができるというわけ。大容量のデータをダウンロードするようなときには、半分の時間で済むのだ。これはうれしい!

詳細なデータを紹介しよう。測定した地点は3カ所。第2旅客ターミナルの1階到着ロビー、2階出発ロビー、3階テラスレストランで、それぞれ5回の測定を行った。

クリックで拡大

2階出発ロビーと3階テラスレストランでは、CAの測定で100Mbps超えを記録した。特に3階テラスレストランでは5回中3回の測定で100Mbpsを超えた。実利用環境におけるスループットなので、かなり優秀な数値が得られている。それぞれの調査結果を見ても、CA対応端末ではおよそ2倍のスループットが得られることは、間違いなさそうだ。

一方、3階テラスレストランの3回目の測定では、40Mbps弱という結果も出ている。これはその時点での電波状況から、片方のキャリアが一時的に混雑していたものと考えられる。これは、残念な結果ともいえるのだけれど、逆に考えることもできる。CA非端末を利用していて、使っている周波数帯の条件が急に悪くなったときは、場合によっては数Mbps以下のスループットしか得られず、通信の体感が急速に劣化することもある。しかし、CA対応端末で2つの周波数帯を併用していれば、1つの周波数帯の条件が悪くなったとしても、3階テラスレストランの3回目のように40Mbpsといった高速データ通信が確保できるのだ。2つの周波数帯を同時に利用するCAは、ピークレートの高速化が実現できるだけでなく、安定した通信の確保にも効果があることが具体的な数値から分かる。

CA導入を見越した設計、チューニングにノウハウ

CAの導入経緯について話すKDDI 技術企画本部 モバイル技術企画部の中山典明(左)と勝池崇史

データ通信の高速化と品質の安定に寄与するCA。国内で初めてCAのサービス開始にこぎ着けたKDDIの技術企画本部の担当者に、サービスの準備が整ったばかりの羽田空港で話を聞いた。

まずCAの導入の経緯について、KDDI 技術企画本部 モバイル技術企画部の勝池崇史は、「スマートフォンの大画面を生かしたサービスとして、動画コンテンツの再生が一層進むと考えていました。そうなれば、より高速にダウンロードできるインフラが下支えとして必要になります。LTEは規格上20MHz幅までしか対応しておらず、今後の高速化を考えるとLTE-Advancedのキャリアアグリゲーション(CA)の必然性が高まってきたのです」と語る。

KDDIでは、2.1GHz帯の20MHz幅を使って、受信最大150MbpsのLTEサービスをすでに提供している。しかし、これは主に都市部以外でのこと。3Gの利用者数が多い都市部では、20MHz幅をLTEに使うことはまだできない。そのため、「都市部でも早期に受信最大150Mbpsの高速なサービスを提供するにはCAが必要でした」(KDDI 技術企画本部 モバイル技術企画部の中山典明)という側面もある。

実際にCAサービスを提供するには、基地局側と端末側の両方がCAの機能に対応しているといる必要がある。基地局では「同じ基地局に800MHz帯と2.1GHz帯の2つの装置がある必要があります。基地局の中で、2つの装置をつなぎ込み、1つの通信を2つの周波数帯に分散して送り出すのです。現時点では、同じ通信機器ベンダーの装置同士をつないでCAを実現しています」(中山)。

CAが利用できるエリアは、KDDIのWebサイトの「 150Mbps対応エリア」で調べることができる。このページの中の「※」印がついたエリアがCA対応のエリアで、現時点ではほとんどが首都圏に集中している。屋外エリア以外に、人が集中する場所にもCAエリアを展開中だ。代表的な建物としては、羽田空港に加えて、サンシャインシティ、東京スカイツリーなどでもCAによる高速通信サービスを体感できるという。

KDDIでは、2014年度末には150Mbps対応の基地局を現時点の約2,500局から20,000局に一気に増やす計画だ(2.1GHzの20MHz幅を使う基地局も含む)。CA対応への基地局の改修は大変なのだろうか。中山は「現地での作業自体は1日から数日でできるものです。こんなに短時間でできるのは、LTEの基地局を設置するときからCAの導入を見越した設計をしていたからなんですよ。ただ実際、基地局とコアネットワークをつなぐ回線が100Mbps以上の伝送速度に対応していない場合もあり、回線の更新の手続きなども含めると、作業までに数週間から数カ月程度の準備期間が必要になることもあります」と話す。CAを想定に入れて基地局を設計してきたエンジニアリング力がここでモノをいうことになりそうだ。

サービス開始までに手間がかかったのは各種のチューニングだという。「800MHzと2.1GHzの電波状況などに応じてどのような条件でCAを使うのがいいのか、またどの程度のダウンロード容量からCAを使うと効果的か、東京都や埼玉県でのフィールドテストでノウハウを蓄積しました。先行してサービスを提供することで、こうしたCA運用のノウハウをいち早く蓄積できたことはKDDIにとって大きなメリットになると考えています」(勝池)。

端末側は2014年夏モデルから対応が始まっている。国内初のCAを体験できたのは、5月21日のソフトウェアアップデートでCA対応した「GALAXY S5 SCL23」。その後のCA対応端末は発売時点からCAの利用が可能だ。

KDDIでは今後、20MHz+10MHz幅による受信最大225MbpsのCAも照準に入れている。今回の150MbpsでのCAは、本格的なLTE-Advanced時代の到来に向けた布石であり、エンジニアリング力を重視しているKDDIの次のステップへの序章であるともいえるだろう。次世代通信規格のLTE-Advancedの一角を担うCAを、日本で最も早く体験できるauのスマートフォン。これから広がるCAエリアで、快適な通信環境を体感してほしい。

■測定条件
日時、場所:2014年5月19日、羽田空港第2旅客ターミナル内の3カ所
端末:GALAXY S5 SCL23(CA対応端末:CA対応アップデート済端末、CA非対応端末:CA対応アップデート未実施端末)
測定方法:「RBB TODAY SPEED TEST」を利用し各5回実測

*最大通信速度はベストエフォートです。ご利用する場所や時間により実施の通信速度は異なります。今回の測定結果は実際の通信速度を保証するものではありません。

文:岩元直久 撮影:高橋正典

※掲載されたKDDIの商品・サービスに関する情報は、掲載日現在のものです。商品・サービスの料金、サービスの内容・仕様などの情報は予告なしに変更されることがありますので、あらかじめご了承ください。

presented by KDDI