2018/07/19

| 更新

2020/04/02

スマホやパソコンに永遠に残る『デジタル遺品』 今からできる準備と遺族の対処法は?

亡くなった人のスマホやパソコン、またその内部に保存されたデータ、 SNSやクラウドストレージのデータなどを「デジタル遺品」という。

これらのデータには、ネットバンキングやネット証券の取引データなどのお金にかかわるものや、SNSの個人情報などが含まれ、扱いに困るものも多い。もちろん、故人が他人に知られたくない情報もある。

そこで、もしものときに備えて、自分のデジタルデータをどのように管理するべきなのか。また、身近な人が亡くなったときに遺族が故人のデジタル遺品をどのように対処したらいいのだろうか。デジタル遺品に詳しい かねこ行政書士事務所 の金厚祐一さんに聞いてみた。

デジタル遺品とは? その種類と具体例

まずはデジタル遺品にはどんな種類があるのか?

●スマホ、パソコン、外付けメモリ内のデータ

  • ・パソコン、スマホ内のデータ
  • ・デジカメのメモリ、外付けハードディスク、USB、DVD、CD-ROMなどの記録媒体

ロックされたパソコン

●Web上のデータ

・SNSアカウントとそのデータ
・ブログやホームページ
・クラウドストレージ(Dropbox、Evernote、Google Driveなど)に保管されたもの
・GmailやOutlook.comなどのWebメール

Webデータ、クラウドデータ

●その他

  • ・ネットショッピング、ネットオークションなどのアカウント
  • ・ネット金融(銀行、証券、FXなど)のオンライン口座
  • ・動画、音楽、書籍などの有料サービスのアカウント
  • ・スマホ決済で使用する「〇〇PAY」

お金

これらを見ると、「パソコンやスマホを介するものすべて」と言ってもいい。これらのデジタル遺品は、放っておくとトラブルの原因になることがある。次に起こりうるトラブルの事例を見ていこう。

放っておくと危険かも、デジタル遺品のトラブル事例

デジタル遺品にかかわるトラブルは以下のような事例があるという。

  • ・電話帳やチャットアプリなどを見ることができず、葬儀の際などに連絡したい人の連絡先がわからない。
  • ・パソコンやスマホ内から遺族が見たくなかった写真などが出てくる。
  • ・株や投資信託などの金融商品やネット銀行の預貯金が見落とされ、後日相続のやり直しが必要になることがある。
  • ・FXのネット口座を見落とし、気づかないうちに莫大な損失を被る。
  • ・映画や音楽、ビジネスツールなどの有料サービスの解約が行われず、継続的に支払いが発生してしまう。
  • ・パソコン、スマホを下取りに出したときに、内部のデータの削除が不十分なため、個人情報が流出してしまう。
  • ・「〇〇PAY」などのペイメントアプリに残った残高が相続できない。

トラブル、頭を抱える男性

本人が準備しておくこと。残したくないデータや端末は?

まずは残しておきたくないデータや端末の扱い方について、本人が「準備しておいたほうがよいこと」を説明しよう。

●見られたくないデータは別フォルダに入れてロック
いくら家族とはいえ、見られたくない写真や文章があるもの。これらのデータはまとめてフォルダに入れてロックしておこう。フォルダロックにはフリーソフトやアプリを利用するとよいだろう。HDDやSDカードなど外付け媒体にデータを保存してロックをかけておくのも有効だ。

併せて、データを暗号化してくれるセキュリティソフトを使用すれば、より確実に管理できる。たとえば、データ消去の際、データを単にゴミ箱に入れ、その後「ゴミ箱を空にする」ことで完了とする人も多いだろう。だが、実はその手順だけでは不十分で、ファイル復元ソフトを使えば、データを復元できる場合が多い。そこで、見られたくないデータは暗号化してしまえば容易にアクセスできなくなる。

いずれにしても、見られたくないメッセージやメールの履歴、連絡先などは別アカウントをつくり、遺族がアクセスできないようにするか、こまめに消していくしかない。

デジタル遺品のデータはまだ登場して日が浅いものなので、対策できるソフトやアプリは少なく、使い勝手もよくない。隠したいデータはできるだけ遺族の目に触れないようにしておくことがいちばんの対策になるだろう。

●スマホや定額サービスなど契約状況の書き出し
スマホや定額サービスは解約するまで基本料金がかかってしまう。遺族に迷惑がかからないよう、加入サービスは一覧表にして残しておくのがベストだ。

故人のスマホは見てもOK? 「法」に触れない個人情報の扱い方

では、遺族は故人のデジタルデータをどう扱えばいいのか? デジタル遺品には、写真やメール、文章など多くの個人情報が保存されている。家族とはいえ、これらの個人情報の扱いを間違えれば相続人同士のトラブルになり、民事訴訟に発展するおそれがあるという。

トラブルを防ぎ、民事訴訟を防ぐため、遺族がデータを扱う場合は以下に注意しておきたい。

●残されたケータイやパソコン本体の扱いについて
携帯電話については、解約するまで通信料金などがかかり続けてしまうが、遺族が各通信会社のショップに持っていけば解約ができる。

auの場合は以下のリンクに手順がまとめてあるので、参考にしてほしい。
→故人のau携帯電話の解約について詳細はこちらから。

スマホやパソコンは個人情報の塊だ。もし、端末を家族などに譲ったり売りに出す場合は、データの消去は確実に行おう。パソコンやスマホに工場出荷状態に初期化できる機能が備わっているので、その機能を使うとよい。

●内部データの取扱について
デジタル遺品(スマホやパソコンとオフラインのデータ)は相続の対象となり、内部データも物品に付随するものとして扱われる。そのため、データが保存された機器を相続した人であれば、アクセスやデータ閲覧は問題ない

●ロック解除は相続人全員の同意を取ってから
パソコンやスマホのパスワードがわからない場合、デジタル遺品処理の専門業者に依頼してロック解除をすることが可能だ。ただし、相続者同士でトラブルになり、民事訴訟になるケースがあるため、相続人全員の承認を得なければやるべきではない

●オンラインのデータには不用意にアクセスしない
SNSやクラウドストレージなど、オンラインのデータもデジタル遺品に含まれるものだが、アカウント保持者(故人)以外がアクセスすることは「不正アクセス禁止法」に違反するおそれがある

「不正アクセス禁止法」とは、「ID・パスワードの不正な使用」や「ウイルスなどの攻撃手法」によって、ネットワークに侵入することを禁止したもの。違反すると刑事罰がくだされた判例もあるので、不用意にアクセスしないようにしよう。

デジタル遺品という概念は近年登場したものなので、実は法的に定義しきれない部分も多く、法整備が追いついていない分野だ。家族や親族が遺産の整理や思い出として楽しむぶんには問題ないが、不安な場合は専門に取り扱っている会社や行政書士などに相談してみよう。

法律、勉強する人物

SNSは追悼アカウントによる告知も可能

どのSNSもアカウントが削除されないかぎり、データはWeb上に残るが、第三者が亡くなった人物の「追悼アカウント」を設定することができる。ここでは特に利用者の多い、Facebook、Instagram、Twitterについて対処方法を紹介しよう。

●本人が生前に自分の意思を残しておく
アカウントを削除してほしいのか、一定期間残してほしいのか、死亡告知をしてほしいのかなどを文章にしてプリントアウトしておくとよい。

●追悼アカウントの管理者を指定しておく

【Facebook】
追悼アカウント」機能があり、家族や親しい友人を管理者として指定することができる。管理者はアカウントに死亡告知の投稿やアカウントを削除することができるので、管理者になってほしい人に承諾をとり、設定しておこう。

【Instagram】
故人の遺族や後見人などの近親者のみ、「追悼アカウント」への変更、もしくはアカウント削除のリクエストを行える。こちらはFacebookとは異なり、事前設定はできない。遺族はヘルプセンターから申請を行おう。

【Twitter】
Twitterには追悼アカウント機能がないため、アカウントを削除する場合は遺族や後見人がTwitter社に申請しなければいけない

生前に故人からSNSのIDとパスワードが知らされていても、他人がアカウントにログインすることは違法とみなされることがあるため、追悼の告知などでログインする場合は、下記の点に注意したい。

過去の判例を見るかぎり、追悼の告知目的に一度だけアクセスする場合は、法的に「グレーゾーン」として扱っているように見えるが、慎重に進めるのであれば、以下がポイントになる。

  • ・故人と遺族のあいだでなんらかの許諾が取られたうえで受け渡しがされているとみなされているか。
  • ・受け渡しにあたり故人の意思の表明があるとみなされているか。

いずれにせよ、「実情にそって必要な場合は可」という判断に見えるが、念のため、アカウントの削除や追悼アカウントの申請は各SNS公式の手段に従おう。

スマホを見る女性、SNSチェック

トラブルになりやすい、お金の管理方法

デジタル遺品のなかでもトラブルになりやすいのが、お金に関すること。いざというときに困らないために、準備しておくべきこと、しておいてもらうべきことを説明する。

ちなみに、ここで扱うネット銀行の口座は銀行別に規約が設けられ、相続の手順や財産の引き落とし方法が異なっている。基本的には、銀行に相続の手順を確認したうえで進めるとよいだろう。

また、IDやパスワードを保存したUSBメモリは、相続した時点で所有権が相続人に移っているので、相続人全員の同意が取れていればアクセスしても問題ない。安心して準備を進めよう。

●口座やサービスの一覧表をつくる
ネット金融(銀行や証券)の口座、加入しているネットサービスは一覧表をつくって印刷しておく(可能であれば、不要な口座や稼働していない口座は閉鎖するか、残金0にする)。最近では、「サブスクリプション」と呼ばれる定額支払いサービスも増加している。これらの定額制サービスは、厳密にはデジタル遺品とはいえないが、解約しない限り支払いが継続してしまう。残された家族が解約できるよう、こちらも表に記載しておこう。

なお、この一覧表は通帳やエンディングノート(葬儀や死後の物品整理の方法などを書き、遺族に伝えるためのノート)に挟み込んでおくなど、遺族が目につきやすい場所に保管するとよい。

エンディングノートイメージ

デジタル遺品全般にいえることだが、パスワードとIDはロック機能付きUSBで管理(パスワードを変更するたびに紙に書き換えるのは大変なため)するとよい。USBは遺言書とともに保管し、ロック解除のパスワードは、家族や、守秘義務のある専門家(弁護士、行政書士、司法書士など)に管理を委託するなど、第三者の手の届かない場所に保管すればより安心だ。第三者を介する場合は死後確実に連絡がつくよう、USBに連絡先を明記しておこう。

●キャッシュカードの場所を伝える
ネット銀行は、キャッシュカードや暗号カードなどの場所を記録に残し、紛失に備える。また、ログイン時に暗号カード(口座作成時に銀行から配布されるもの)が必要になることがあるため、各カードは保管場所の記録を残し、紛失に備えよう。

●ロック解除のパスワードも紙に記載して保管しておく
ロック解除ができないと、遺族がデジタルデバイスの内部データを確認することができない。こちらもロック機能付きUSBにパスワードを入力し、USBのパスワードは守秘義務のある専門家に管理を委託しておけば安心だ。

遺族が口座や金融商品の存在に気付きやすいよう心がけ、遺族が財産の存在に気付き、対応しやすい状況をつくることが対策になる。遺族側は、これらの記録がないか探してみるとよい。

●スマホ決済で使用する「〇〇PAY」の残高相続は事業会社に問い合わせる
政府が推進するキャッシュレス化の流れのなかで「〇〇PAY」などのスマホ決済サービスの普及が進んでいるが、高額のチャージが可能なサービスもある。残された額が多い場合は権利を継承したいところだが、利用規約上、アカウントは本人のみが使用できるという旨が記載されていることが多い。

つまり、アカウント保持者(故人)以外がアクセスして使うことは、厳密にいえば規約違反にあたる。しかし、「〇〇PAY」などはまだ始まったばかりということもあり、相続に関する対応が固まっていない会社も多い。規約上で権利が認められていなくとも、決済サービス会社に個別に交渉をしていけば、権利の継承が行われることもある。残高が高額な場合は諦めずに交渉してみてもよいだろう。

デジタル遺品の管理方法まとめ

それでは、これまでの対策をまとめておこう。

行うべき準備は、考えられるデジタル遺品の種類と保管場所をまとめること。次にパスワードとIDの一覧表を別途作成すること。見られたくないデータは別フォルダに保管し、ロックをかけよう。

また、エンディングノートを使用するのもいいだろう。エンディングノートには法的効力はないが、デジタル遺品の管理に向いているので、デジタル遺品の種類と保管場所をまとめる際に使用してみよう。

パスワードとIDは、先述した「ロック機能付きUSBに保存⇒USBのパスワードは守秘義務がある第三者に管理を委託」がよいだろう。

上記の方法を5ステップにまとめてみたので、参考にしてほしい。

  • ① アカウントやデータの場所はエンディングノートに記す。
  • ② ID、パスワードはロック機能付きUSBで管理。
  • ③ 見られたくないデータは別フォルダに保管してロック。
  • ④ エンディングノートとUSBを遺言書と一緒に保管する(保管場所として銀行の金庫が考えられるが、取り出しに相続人全員の印鑑が必要になる。遺族の負担を減らすためには避けたほうがいいケースもある)。
  • ⑤ USBのパスワード管理を第三者に委託する。弁護士、行政書士、司法書士など、守秘義務のある専門家に依頼すればより安心だ。また、第三者を介する場合は死後、確実に連絡がつくよう、USBに連絡先を明記しておくこと。
    例:「このUSBにはID・パスワードの一覧表データがあり、USBを開くパスワードは○○○○氏(連絡先)に委託してある。」

自分も家族も、事故や急病などの不測の事態はいつ訪れるかわからない。どんなことに気を付けておくべきかを知っておくだけで、デジタル遺品についての心配は減らすことができる。

いざというときのためにデジタル遺品について身近な人と話し合い、安心のデジタルライフを送ろう。

文:鈴木雅矩(スズキガク)
監修:かねこ行政書士事務所 金厚祐一