2017/04/28

電池1個で1年以上通信できるIoT通信技術、『LPWA』とは?

消費電力が超少なくて、超遠くまで電波が飛びます

IoTなど、最新のテクノロジー関連記事で、頻繁に目にするようになった「LPWA」という言葉。実際どんなものなのか?

LPWAとは、Low Power Wide Areaの略。少ない電力消費で数kmの長距離通信が可能になる無線通信のことだ。長距離通信は規格によっても異なるが、携帯電話のLTE通信の通信可能距離が6km程度なのに対し、LPWAは理論上、1kmから最大50kmまで可能になる。LPWAの通信可能距離がいかに長いかがわかるだろう。

省電力についてもすごい。「俺のスマホのバッテリーは丸1日持つから、モバイルバッテリーなんて不要だね」と思っているあなた。LPWAの省電力はそんなレベルではない。乾電池1個分の電力で、1〜2年は通信できてしまうというのだ。

とすれば当然、「スマートフォンで使えるようになればいいのに!」と思う人は多いだろう。しかし、そうはいかない事情がある。LPWAで長距離通信+省電力が可能なのは、実は扱うデータ量が極めて少ないからなのだ。また、データの伝送速度についても、LTEの最大通信速度(理論値)が下り(=データのダウンロード)が325.1Mbpsであるのに対して、LPWAは100bps〜400kbpsしかない。平たく表現するなら「激おそ」なのである。

今まで通信技術は、長距離・高速・大容量を目指して開発が進んできた。そのおかげで外出先でもビデオ通話や映画鑑賞ができるようになったわけだが、LPWAは音声通話さえおぼつかない通信速度。にもかかわらず注目を集めている。いったいどういうことなのか?

通信回数とデータ量が限られているIoTで注目されるLPWA

IoT(Internet of Things)とはその名の通り、世の中のあらゆるモノがインターネットに接続するようになること。自宅にある冷蔵庫の中身を外出先で確認しながら買い物ができたり、愛車のコンディションに応じて整備案内が自動車ディーラーから届いたりと、私たちの暮らしはずっと便利に、もっと効率よくなっていくだろう。

IoTでインターネットにつながった"モノ"から送信されるデータは、多くの場合、動画でも静止画でも音声でもない。システムが状況を認識するために必要な情報をサーバーに送る、半角英数の単なる文字コードだ。データ量としては、たった数十から数百バイトのものだろう。常に通信する必要だってない。クルマのコンディションを把握するだけなら、外出先から戻ったあとに走行記録を送信するだけで事は足りてしまう。

扱うデータが軽いから、通信速度が遅くたって、なんの問題もない。データが軽いということは送信にかかる電力を少なくできるので、省エネ性能も上がる。乾電池1個で数年持つというのも納得だ。

そして、極めつけは通信コスト。扱うデータ量が少ないので、料金も格安でできてしまう。海外事例を見てみると、1回線あたり「1年1ドル」なんて価格を想定している事業者もあるくらいだ。逆に、それくらい低価格でないとIoTの本格普及は難しいともいえるのだろう。

LPWAの通信はBluetoothの使い方に近い

LPWAの通信は、電話回線へ直に接続するものではない。無数のデバイスから送られた通信を、ゲートウェイ(ネットワーク同士を接続するためのハードウエアやソフトウエア)を介して外部ネットワークとつながる。たとえばイチゴのビニールハウスが10軒あって、それぞれの温度管理状況をLPWAでモニタリングするとしよう。10個あるデバイスからLPWA通信でデータはゲートウェイに送られ、ゲートウェイが近所の無線基地局にデータを送る仕組みだ。

スマホやタブレットとデバイスをワイヤレスで結ぶBluetooth通信は、ペアリングした機器同士のデータ送受信だけを担当する。ちなみにBluetoothの通信距離は数メートル。これを数10mとか数100mにすることも無理ではないだろうが、どうしても電力が必要になるため、おそらく数分で通信できなくなってしまう。ということは、LPWA、やっぱり超すごいのだ!

世界中でさまざま規格が登場

というわけで、LPWA熱が世界中でグングン高まっているが、課題もある。ひとつは規格が複数あること。LPWA通信のなかでも携帯電話のような、免許が不要な周波数を使用する規格は5つある。詳細は下の図を見ていただくとして、日本で普及しそうな規格はLoRaWANだ。LoRaとはLong Range(長距離)にちなんで付けられた名称で、通信距離最大8kmを980bpsの速度で通信できる(短距離では11,000bps)。オープン規格なので、Wi-fiのように誰でも自由に使用できるため、LPWA普及の旗手的存在になるかもしれない。

KDDIもLoRaWANに対応した検証キット「LoRa PoCキット」を提供している。このキットは、どんな場所でもLPWAの稼働テストが手軽にできるようになるというものだ。

LPWAの課題とは?

LPWAには解決すべき課題もある。移動中や遮蔽物がある場合の通信が難しい点にある。LoRaWANの通信可能距離8kmは、あくまで見通しのよい開けた環境であることが条件。木が生い茂る森の中やビルがボコボコ建っている都会で安定した通信ができるかは、まだ検証をしている最中だ。

LPWAは未来を握る技術として今後、ますます注目されていくだろう。「激おそでハイテク」なLPWAこそ、IoT時代に欠かせない存在なのだ。

文:吉田 努