2016/05/20

| 更新

2021/02/08

『有機ELディスプレイ』とは?『OELD』の意味や液晶との違いなど解説

PCだけでなく、スマホでもハイエンドモデルを中心に搭載機種が増えている「有機ELディスプレイ」。従来の液晶ディスプレイと比べ、省電力で画質も優れているといわれるその仕組みや、液晶ディスプレイと比べた場合のメリット・デメリットなどについて紹介する。

有機ELディスプレイのイメージ

有機ELとは

有機ELのELは「エレクトロ・ルミネッセンス:Electro Luminescence(電子発光)」の略で、EL自体は発光を伴う物理現象の名称だ。発光素子に有機材料を用いることから有機ELと呼ばれる。この有機ELを用いたディスプレイのことをOELD(Organic Electro Luminescence Diode:有機発光ダイオード)ディスプレイと呼ぶこともあり、「有機EL(OLED)」と併記されることも多い。

電子発光のイメージ

最近は「POLED」という言葉を目にすることもあるが、これは「Plastic Organic Electro-Luminescence Diode」のこと。OLEDの基板部分をプラスチックにし、柔軟性を持たせたもので、湾曲したディスプレイや折りたたみ式のスマホなどで採用されている。

このほか、Galaxyスマホに搭載されている「Super AMOLED」や「Dynamic AMOLED」、iPhone 12シリーズなどに搭載されている「Super Retina XDR」なども有機ELディスプレイだが、これらの名称はディスプレイの製品名(ブランド名)となっている。

Galaxy Z Fold2 5G、iPhone 11 Pro 左/Dynamic AMOLED 2Xを搭載するGalaxy Z Fold2 5G 右/Super Retina XDR を搭載するiPhone 11 Pro

有機ELディスプレイと液晶ディスプレイの違い

有機ELディスプレイと液晶ディスプレイの違いを説明する前に、まずは液晶ディスプレイについて簡単に触れておこう。

液晶というのは、液体と結晶の両方の性質を持った化合物のことで、電圧をかけることによって分子の並び方を変えることができる。発光体であるバックライトの前に液晶分子を並べ、電圧をかけたり、かけなかったりすることで分子の並べ方を変え、光を通したり、遮断したりしているのが液晶ディスプレイの基本原理だ。液晶層の上に赤色(R)・緑色(G)・青色(B)のカラーフィルターが配置され、さまざまな色を表現している。

これに対して、有機ELディスプレイでは、色を持った素子そのものが発光することで色を表現している。このため、バックライトが必要なく、ディスプレイユニットを薄くすることが可能だ。この薄さを活かし、スマホではディスプレイ下に指紋センサを配置したり、フロントカメラをディスプレイ下に埋め込み、表からは見えなくするなどの工夫が行われている。また、「Galaxy Z Fold 2 5G」や「Galaxy Z Flip 5G」などの折りたたみスマホにも、有機EL(POLED)ディスプレイが利用されている。

有機ELディスプレイと液晶ディスプレイの違い

有機ELディスプレイのメリット

これらを踏まえたうえで、液晶ディスプレイと比べた有機ELディスプレイの特徴を見ていこう。まずはメリットだ。

・黒を黒く表現できる

有機ELディスプレイの特徴として真っ先に挙げられるのが、画質の良さ。具体的には、コントラスト比の高さだ。コントラスト比というのは、画面内のもっとも明るい場所(通常は白)ともっとも暗い場所(通常は黒)の比率のことで、これが高いほど鮮明な画像という印象を受ける。

液晶ディスプレイの場合、黒い部分は光を透過しないようにしているが、その下ではバックライトが均等に光っており、実際には黒い部分も裏から照らされている。このため、ごくわずかだが、黒い部分も光ってしまっている。これに対して、バックライトがない有機ELディスプレイでは、黒い部分はまったく発光していない。黒をより黒く表現できるわけだ。これにより、有機ELディスプレイは黒が締まって見え、コントラスト比も高く鮮明な映像を表現できる。

スマホで動画を撮影

・消費電力が少ない

前段の内容に関連するが、有機ELディスプレイは黒い部分は発光しないため、そのぶん消費電力を抑えられる。スマホなど、小型・軽量なモバイル製品には最適なディスプレイと言える。

この消費電力が少ないというメリットを利用して、Always On Display(常時表示)のオプションを持つスマホも増えている。ディスプレイがオフの状態でも、時計や通知アイコンなど最低限の情報を表示しておける機能だ。黒い部分は発光していないので、消費電力が少なくて済む。同じ理由により、スマホで採用されることが増えているダークモードも、有機ELディスプレイで利用する場合には、消費電力を抑えることができる。

・滑らかな映像表現が可能

電圧をかけ、分子を移動させる必要がある液晶ディスプレイとは違い、有機ELディスプレイは発光体そのものをオン・オフできるので、全体として画面のリフレッシュレート(1秒間に何回画面を書き換えられるかという数値)を高くすることができる。

リフレッシュレートが低いと、動画の映像がカクカクとしてモザイクがかかったようになってしまい、逆にリフレッシュレートが高いと滑らかで自然な映像となる。液晶ディスプレイでもリフレッシュレートが高いものはあるが、有機ELディスプレイのほうがより安価に実現できる。「ゲーミング」をうたうスマホでは、リフレッシュレート120Hz(1秒間に120回の画面書き換え)以上の有機ELディスプレイの採用が増えている。

Galaxy S10とGalaxy S20のリフレッシュレート比較 左のGalaxy S10はリフレッシュレートが60Hzだが、右のGalaxy S20は120Hzにアップデートされ、より滑らかな画像表示が可能になっている

・視野角が広い

視野角というのは、ディスプレイを斜め方向から見たときに、どの角度までなら正面からの見た目と変わらずに見えるかという視野の広さの指針となる角度のこと。たとえば、視野角が左右90度なら、右45度の位置までならギリギリ正面からの見た目と変わらない映像を確認できるということだ。

液晶ディスプレイは液晶層が光の透過を制御する、いわば偏光板として機能するため、斜め方向からだと光の透過具合が変わってしまい、色味が違って見えたり、画面が暗くなり映像を確認できなくなったりしてしまう。これに対して、有機ELディスプレイは偏光板にあたるものがないので、視野角が広く、斜め方向から見ても色味の変化が少ない。

MacBookとiPhone

有機ELディスプレイのデメリット

メリットの多い有機ELディスプレイだが、液晶ディスプレイに対するデメリットも存在する。

・焼き付き現象が起こる可能性がある

有機ELディスプレイのデメリットとしてもっとも大きいのが、「焼き付き」の問題だ。ディスプレイの焼き付きというのは、同じ内容をずっと表示し続けることで、画面上にうっすらとその跡が残ってしまう現象のこと。

液晶ディスプレイでも、同じ映像を表示し続けることで液晶層に余分な電荷がたまり、液晶分子の動きを阻害して焼き付き同様の症状が発生することがある。この場合は、真っ白あるいは赤・青・緑の映像をしばらく表示して電荷をリセットすることで解消できるが、有機ELディスプレイの焼き付きは発光素子の劣化のため、一度焼き付くと修復はできない。

スマホでAlways On Displayを利用している場合でも、定期的に時計の表示位置などが動くのは、この焼き付きを防止するためだ。数時間程度なら問題ないが、スマホでゲームなどをする際にスリープさせない設定で長時間放置すると、焼き付きの原因になるので注意したい。

・液晶ディスプレイよりも製造コストが高い

近年、採用機種が増えたことで有機ELディスプレイのコストは下がってきているが、液晶ディスプレイと比べるとまだ高く、製品寿命も短い傾向にある。低価格なスマホで液晶ディスプレイの採用が多いのは、これが理由だ。有機ELディスプレイの製造コストは徐々に低下しており、液晶ディスプレイとの価格差は小さくなってきたが、まだしばらくは液晶ディスプレイのほうが安い状態が続くと考えられる。

有機ELディスプレイはスマホディスプレイの主流に

スマホなどのモバイル機器では、液晶ディスプレイに対して、さまざまなメリットを持つ有機ELディスプレイ。スマホのハイエンドモデルでは、ほぼ有機ELディスプレイに移行した印象だ。今後、さらに低コスト化が進めば、ミドルクラスモデルなどより多くの機種に搭載されることは間違いないだろう。

文:TIME&SPACE編集部