2016/01/18

ゲームのプロチームが誕生! その生活、収入は?

先日、東京五輪の追加種目案が国際オリンピック委員会(IOC)に提出された。そのなかには、「スポーツボルダリング」「スケートボード」「サーフィン」など、これまで競技というよりも「趣味」や「遊び」として認知されていた種目が並ぶ。もともと楽しむ要素が強かったアクティビティーでも、プレーヤー人口が増えたり、世界大会が開催されたりといった段階を経て、真剣勝負をする「競技スポーツ」へとフェーズアップしていくことがあるのだ。

こうした例は多数あるが、なかでもひときわ異質なのが「コンピューターゲーム」。頭脳と指先だけでプレーするこの競技は「eSports(Electronic Sports = イースポーツ)」と呼ばれ、億単位の賞金が支払われる大会も開かれている。すでに世界中には多数のプロチームが存在していて、特に競技環境が整っている韓国は猛者ぞろいの強豪国。プロライセンスを発行する団体まであり、月に数百万円を稼ぐ選手がいるなど、国を挙げてeSportsを奨励しているそうだ。

それと比べると、まだまだ発展途上のわが国ではあるが、ついに昨年、国内初のプロeSportsチームが誕生した。その名も「DetonatioN Gaming」。「プロ」なので、当然といえば当然ではあるが、彼らはゲームを生業としている。つまり、日本で初めて「職業:ゲーマー」となった人たちなのだ。

チームの活動資金は、基本的には9つの企業からのスポンサー料。選手たちには毎月決まった額が「給与」として支払われ、安定した生活がサポートされている。給与額は大会の実績のほか、練習や生活態度も考慮したうえで決定。およそ「高卒~大卒の初任給くらい」だとか。さらに、大会で勝ち取った賞金やイベントへの出演料などの臨時収入は、ボーナスとして分配されている。

彼らが拠点としているのは、千葉県船橋市にある「ゲーミングハウス」と呼ばれる専用宿舎。12時のミーティングからスタートするのが日課で、昼食をとったあとは個人練習の時間となる。ゲームの世界は1月からシーズンがスタートするので、開幕直前である取材時(12月)は海外のチームとの練習試合を日に1~2試合こなしているという。試合後には反省会を行い、さらに個人練習時間を終えて、夜中になると各自就寝。

土・日の休日以外は、毎日PCスクリーンの前で1日の大半を過ごす。ものすごいスピードでキーボードを操作し、頭をフル回転させながらスキルや戦術を磨いている。そう、彼らはこの専用宿舎で日夜を共にしながら切磋琢磨しているのだ。

「eSportsもほかのスポーツと同じで、息の合ったプレー、チームワークがなによりも大切。だから、チームの"ゲーミングハウス"で共同生活をするというスタイルは、業界では当たり前のことなんです」と、マネージャー兼代表の梅崎伸幸さん。チームには専属の給仕担当者もおり、選手は練習と試合にとことん専念できる環境にいる。

彼らの活動の主軸ともいえるゲームタイトルのひとつは、現在、世界でもっとも人気のオンラインバトルゲーム「League of Legends」。プレーヤーは7,000万人にも上り、野球(推定3,500万人)やゴルフ(推定6,500万人)の競技人口を大きく上回る。

内容は5対5で行われるバトルゲームで、各プレーヤーがそれぞれキャラクターを操って敵チームを攻撃したり、罠を仕掛けたりして、相手の本陣を破壊した方が勝利となる。現在、DetonatioN Gamingは、同タイトルの国内大会を昨年、今年と2連覇中。名実共に日本のeSportsを牽引する存在なのだ。

「やっと日本でもeSportsが認知されてきたかな、と感じています。2016年からは東京アニメ・声優専門学校(東京都江戸川区)に、eSportsを学べる学科が開設され、私も講師として授業をする予定です。環境が整えば、日本のeSportsはもっと盛り上がるし、ますます世界で戦える選手が増えるはずです」(梅崎さん)

では、アマチュアとプロの差とはどんなところにあるのだろうか。開講に先駆けて"プロの条件"を質問してみた。

「ほかのプロスポーツと同じだと思いますが、プロとして戦うのにいちばん求められるのは、やはり集中力でしょう。eSportsの場合は特に、集中を長時間維持することが必要です。たとえば、『League of Legends』の場合、長い時は1日の練習時間が10時間以上にも及ぶことがあります。そういった局面でどれだけ平常心で粘り強く戦えるかということが、プロとして重要ですね」

そんな日本ゲーム界屈指の集中力を持ち合わせたDetonatioN Gamingの今後の目標は、「2016年の世界大会で勝利を収めること」。彼らが躍進すれば、日本のeSportsは今後ますます発展を遂げていくだろう。今は「ゲーム」といえば、多くの人にとって「趣味」や「遊び」のひとつだが、「eSports=競技スポーツ」として認知される日もそう遠くはないのかもしれない。

文:山口優希(ユーフォリアファクトリー)